メディアグランプリ

ひとり飲み1年生 1時間目



 

記事:39さま(ライティング・ゼミ)

 
*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。
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最近、若者の○○離れが進んでいるらしい。

新聞にはじまり、車、恋愛、お酒。

昔を知らないので自分たちの世代がどうと言われても、離れているのかもわからないが、少なくとも一つだけ言い切れることがある。

 

私は、若者のお酒離れとは無縁である。

 

そう。

お酒が好きなのだ。

大好きなのだ。

 

 

数年前までは実家暮らしだったため、気になったお酒を買って帰っては父親相手に飲んで、うんちくを語ったり、時には人生の先輩からの訓示をもらったりしていた。

 

というのも、父親の持論で

20歳そこそこで『一人で飲む』なんていうのは、まだ早い。一人で抱え込まずに誰かと一緒に飲みなさい

ということだったので、父を相手に飲むしかなかったのだ。

 

 

実際、誰かと飲むことは楽しかったし、おいしかった。

 

仲の良い友人と、先輩と、彼氏と、お酒とおいしいごはんとおしゃべりを楽しむ時間はとても心地がよかった。

じっくりと、その時間を味わうことができた。

 

かといって、大人数でわいわい盛り上がってする飲み会も嫌いではない。

普段の会社生活では見えない上司の一面がみえたり、お酒の勢いがないと聞けない話が飛び出したり

お酒があってこその“場”が好きだった。

 

 

しかし、実家を離れ一人暮らしをし始めるようになると、家に帰れば飲み相手がいる、という生活ではなくなった。

 

 

ああ、今日も仕事で疲れたなぁ。

ちょっと自分にご褒美でもあげてしまおうかしら。

 

そういって、ちょっと高級なスーパーやコンビニに立ち寄り、ビールを買って帰ったところで

家には誰もいない。

 

プシュっと缶をあけても、乾杯する相手もいない。

 

一人暮らしを実感した瞬間だった。

 

 

とはいえ、職場の人とでも、友人とでも、飲みに行きたいと思えば誰かしら付き合ってくれる人はいた。

 

ちょっとした仕事の山を越えたとき、寄り道してから帰ろうか

なんて言いながら、飲みに行くのが普通だった。

 

だから、一人で居酒屋に行くこともなかったし、もし一人で居酒屋に入ったとしても集合時間より早くお店に一番乗りでついてしまった時くらいだった。

 

それは、スタバに一人で入ることとも何も変わらないし、

もっと言うならば、一人で居酒屋に入っている、ということについて、オトナの女っぽい気がして少しだけ優越感をもっていたのかもしれない。

 

 

しかし。

 

転機は突然訪れる。

 

 

入社三年目の転勤である。

 

 

これまで慣れ親しんだ東京を離れ、知らない土地での生活が始まることとなった。

 

 

すると、これまで飲みに行っていた友達も、気軽に飲みに行けた居酒屋やバルも、

何一つないのだ。

 

ここには、私が馴染んだ店も友達もいない。

 

 

それでも、仕事終わりに一杯飲みたいときもある。

 

会社からまっすぐ帰るのが、なんとなく嫌で寄り道したくなることもある。

 

 

社内に飲みに行ける人がいないわけではないが、こちらから気軽に誘える間柄でもない。

まだ、微妙な距離感がある。

 

もちろん、友達がいるわけでもないから、

『今日どう?』

なんて気軽に誘えるわけでもない。

 

 

すると、もう選択肢は限りなく一つなのだ。

 

一人で飲みに行く。

 

 

こうして、私のひとり飲み1年生がスタートした。

 

 

ひとり飲み上級者の方はたくさんいるので、恥ずかしいところもあるが、

ビビりでチキンな私の、ひとり飲みデビューした時の話をしようと思う。

 

 

ひとり飲み1年生の1時間目。

『気になっていたお店に行ってみる』である。

 

 

 

冒頭にも述べたが、私はお酒が好きだ。

中でも好きなお酒は、ビールだ。

 

というわけで、おいしいビールが飲めるお店を探していた。

 

私の探し方は3段階だ。

 

その1 ネットや雑誌をもとに、お店の情報を集める。

その2 お店に入るか入らないかは関係なく、お店の前を通ってみる。

その3 行けそうだと思ったら、お店のドアをあける。

 

 

ネットには『ビール好きが行くべきお店○選』なんていうコラムもたくさんある。

飲食店の検索アプリも充実している。

そこで、お店の位置と口コミを読み込む。

 

自宅や職場から行きやすいかどうか。

繁華街のど真ん中のお店は少し気後れしてしまうので、繁華街との位置関係も要チェックだ。

繁華街から一本はなれたところ、なんていうのは特に理由はないのだが行きやすい。

 

一人で行った人の口コミが投稿されていたら、それは大事な意見。

ただ、これらの意見は鵜呑みにしない。

あくまでも、他人の感想だから、高評価の口コミも低評価の口コミも目を通す。

 

お店の写真も大切な判断ポイントだ。

お店の雰囲気がよくわかる。

カウンター席があれば、おひとりさまのお客さんも入りやすい。

 

そんな風にしてお店を探すと、行きたいなと思えるお店がだいたい2,3店舗みつかる。

 

 

そうしたら次は、いざ現地へ。

 

お店の前を通ってみる。

 

中を覗けたらのぞいてみる。

 

どれぐらい人が入っているか、

たくさんの人の中に一人で入るのはちょっと勇気がいるが

ほとんど人がいないところに入っていくのも勇気がいる。

 

その絶妙な人の入り具合を見極める。

 

 

もし外にメニューが出ていたら見てみる。

 

飲むのも一人だが、食べるのも一人だ。

食べきれそうな量かを値段から推察する。

 

もちろんお店にもよるが

“シーザーサラダ680円”

“シーザーサラダ850円”

の2つのお店だったら、シーザーサラダ680円のお店のほうが、なんとなく一人には向いていると思ってしまう。

量的にも値段的にも。

 

 

そして、“行けそうだ”と思ったお店は、いよいよドアを開けて、足を踏み込む。

 

この“行けそうだ”感は、もう、直感と覚悟。

どんな場所にも、ぐいぐい踏み込める強さがあればいいのだが、

残念ながら私にはそんな強さがない。

 

様子を何度もうかがって、怖気づくこともある。

 

だから少しだけ息を吐いて、心を落ち着かせて、ドアをあける。

 

 

『おひとりさまですか?』

 

と聞かれても、涼しい顔でこう答える。

 

『はい、一人です。』

 

 

お店に入れたら、ひとり飲み1年生の1時間目、終了である。

 

 

今日は、いつものお店じゃなくて、新しいお店で一杯やってから帰るのも、

いいかもしれませんね。

***

*この文章は、「天狼院ライティング・ゼミ」の受講生が投稿したものです。

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2016-03-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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