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彼女の唇には弾丸が埋まっている


弾丸

 

記事:まるバ さま (ライティング・ゼミ)

 

 

「言いたいことも言えないそんな世の中じゃ……」

なんて毒づいた歌が多くの人々の心をとらえたように、言いたいことが言えず悩んでいる人は、世間の大半を占めているのではないだろうか。

それじゃあ、言いたいこと言えばいいじゃん! いやいや、そんな簡単な話ではない。

 

女友達に呼び出された、ある日の居酒屋。「私、先に入ってるから」と連絡があったので、追いかけで店に入り姿を見つけると、すでにジョッキが一つ空になっている。ウォーミングアップは十分のようだ。

恋多き彼女。ということは逆もしかり、失恋も数多く経験している。失敗するたび、相談というか愚痴に付き合わされるのは、私の役目である。

 

いつものように失恋相談にのっていると、なんだか今回は様子が違う。よほど気に入った男だったのか、逃したのが悔しいらしい。いつもならあっけらかんと、「私からフッてやったのよ」なんて強気発言が聞けるのに、今日ばかりは未練節がところどころで顔をのぞかせる。

忙しさもあって男の方から音信不通になりはじめ、一方的にフェードアウトされた。彼女にしてみたら離れていった理由も聞かされていないのだから、不完全燃焼だという主張は同感だ。

 

「なんか、言いたいこと言えないまま終わったわー」

大きな唐揚げに噛みつきながら彼女が愚痴る。

 

このままモヤモヤして時が過ぎるのはつらいから、きちんとピリオドを打ってスッキリしたいもの。そこで、最後のメッセージを元カレ氏に送ろうということになった。どんな内容にするかの相談になり、あのときはさびしかった、あそこではこうしてほしかった、ここに腹が立ったなどなど、ぶつけたくてもぶつけられなかった想いが出てくる出てくる。

 

最初はうんうん、と聞いていたが、ネガティブな気に毒されたのか、お酒も不味くなってきた。一方、テンションが上がってきた彼女はビールのターンを終え、いつの間にか焼酎に移っていた。

 

あまり介入しすぎる性質ではないけど、たまらず説教が口をついてしまう。「一時でも好きになった相手なんだから、ネガティブな愚痴をぶるけるのはやめて感謝の気持ちを入れなさい」

でも、「感謝なんてぜんぜんない!」 と反論する彼女。これではいかんと、忘れかけている記憶を紐解く作業を始めた。即興のカウンセリングみたいだ。

 

「ひとつひとつ想い出してみよう。彼と一緒に行って楽しかった場所はある?」

「たいしたとこ行ってないし」

 

「もらってうれしかったモノはある?」

「何も、もらったことない」

 

「じゃ、じゃあ、言ってもらって、うれしかった言葉はある?」

「あ、 それならある……かも」

 

「そう!それだよ」

 

よかった。ポジティブな方向に軌道修正できたようで、話が終わるころには晴れ晴れとした明るい顔に戻っていた。

「下書きができたら僕に見せてね。厳しくチェック入れるから(笑)」

そんなことを言いながら帰り道を歩いた。

 

しかし、その翌日、私の事前チェックをスルーして、直接元カレ氏に送られた内容は、せっかく修正した軌道を逸れて逆戻りしてしまったようだった。

 

「いろいろ考えたけど、やっぱり、悪口でも非難でも、私の中のぜーんぶ吐き出してぶつけないと気持ちが整理できないの。だからネガティブでもそのまま言いたいこと全部送ったわ。

あ、別に読んでもらうための文章じゃなくて、言いたいことを書き出しただけだから」

ああ、すべて水の泡。

 

「言いたいことを言う」という行動にはふたつの側面がある。

一つは抱えているものを吐き出してスッキリさせること。心理療法のカウンセリングでも、頭の中をモヤモヤさせている悩み事をすべて紙に書き出す、という手法がある。いろいろなモノが詰まりすぎて機能不全を起こしている脳を、一時的に解放する効果があるという。

 

その一方で、「言いたいこと」は実は「聞いてほしいこと」の裏返しではないだろうか。

自分の内側に向けられた言葉をただ吐き出したつもりでも、はじめから誰かに届けられることをどこかで想定している。ましてや誰かに向かって放たれた時点で、「読んでもらうためじゃないから」なんて言い訳はもうできないのだ。

 

放たれた「言いたいこと」は、時に弾丸となり相手の心に突き刺さる。溜められた想いが大きくビビッドであるほど、弾丸の威力も増していく。今回のはさながら44口径だろう。大型の鹿をも倒せるほどだというから、なかなか強力なダメ―ジだ。

 

後日、元カレ氏からは短いながら謝罪に満ちた返信が来たらしく、鹿を仕留めたハンターのように彼女の声は高揚していた。今や参戦する年齢層も多彩に、兵器も進化して大混戦となった恋愛という戦場に丸腰で挑むわけにはいかない。言葉の弾丸を何重にも連装して進軍する彼女の姿は、悔しいけれど少しだけたくましく見えた。弾を喰らった元カレ氏には正直同情するけれど。

 

そんな数か月前の出来事を思い出していた夜更け、持っていたスマートフォンが彼女からのメッセージ着信を知らせた。

 

「ちょっと、また相談したいことがあるんだけど (22:47)」

 

さて、流れ弾に当たらないようにしようっと……。

 

<<終わり>>
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2016-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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