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人生で大切なことを知りたければ、2日間コスプレをすべし。


人生

記事:たかさま(ライティングゼミ)

 

「う〜 あ〜 痛いよ〜 あぁぁぁぁ」

「もう無理だ・・・・・・ これ以上歩けねぇよ・・・・・・」

 

目の前にはこの世のものとは信じがたい光景が広がっていた。

この光景を、5月になると、いつも思い出す。

女子高生、スーパーヒーロー、ジブリのヒロイン、漫画喫茶「マ○ボー」のトラックの模型、大隈講堂、怪獣、メイドさん、セーラームーン、アルパカ、etc……

 

数百人の奇妙なコスプレに身を包んだ集団が、巨大体育館の中に収容され、うめき声を上げ、足を引きづりながら、館内を徘徊している。その様子、まさに魑魅魍魎の地獄絵図。女子のメイクはドロドロに崩れ落ち、男子の決めた髪の毛はぺったんこ。汗と制汗剤と湿布の匂いが混じり合う、埼玉県某所の市民体育館で、セーラー服に身を包みながら、私”たか”(男)当時21歳は、メロンパンを頬張り立ち尽くしていた。

 

 

都の西北に位置する、私立早稲田大学。公認サークルだけでも現在560もの数のサークルが混在する。特筆すべき早稲田の特徴は、1年生から8年生が同じキャンパスで仲良く講義を受け、学内外活動に勤しむこと。学部によって、学年によってキャンパスの場所が変わる、ということがない。(ただし、所沢キャンパスにある、人間科学部とスポーツ科学部、通称「所沢体育大学」は別だが)高田馬場から早稲田までの間に、文学部、文化構想学部、通称戸山女子大学(両学部の女子の比率が多学部に比べ高いため)、理系の学部が所属する、通称大久保工科大学(住所が東京都新宿大久保であり、理系の学部が集約されているため)、そして早稲田キャンパス、通称本キャンが存在し、昼夜問わず活気にあふれている。4年で卒業すると、飛び級、留年が普通、中退はエリート、何て学内では囁かれる早稲田だが、本当に多種多様な人が一同に介している。慶應義塾大学では学外で有名な人、優秀な人が学内でも評価される、と聞いたことがあるが、早稲田ではまるで逆。早稲田内での有名人こそがすごいのだ。それが、たとえ社会に出ても役に立たない名誉だとしても。

 

 

早稲田大学には超大規模なイベントが3つある。その1つは言わずもがな、早稲田祭だ。年間来場者数で大学の学祭規模では常にトップを記録する早稲田祭の様子は、小さな社会だ。音楽サークルや演劇サークルなどの芸能系サークルはこの日のために練習し、1日中そこらかしこでライブが行われる。特に大隈講堂前のメインステージでは、男子チアリーディング部「ショッカーズ」や、よさこいダンスを踊る「踊り侍」など、早稲田内でも有名なサークルが素晴らしいショーを披露してくれる。年によっては、「男祭り」と呼ばれるふんどし一丁で踊るグループがあったりと、常に講堂前は熱気でいっぱいだ。有名サークルに入っていると大体早稲田祭で一躍を浴び、友達が増え、チヤホヤされる。ただ、限られたサークル、というのが痛いところだ。大げさに言ってしまうと、まずフジテレビや電通といった有名どころに入ることが、早稲田祭で注目をかっさらうのには大事ということ。

 

2つ目のイベントも、これまた有名な早慶戦である。野球に始まり、サッカー、ラグビーなどなど、いろんなスポーツで行われる。スポーツで負けたら、慶応に勝てるものは何もない、という噂もあるくらいで、とにかく早稲田祭と同じレベルで盛り上がる。ただ、ここの主役はもちろん選手達で、やはり一般学生が学内で有名になるには程遠い。

 

しかし、早稲田には、何と、有名サークルに入ってなくても、スポーツができなくても、たったの2日で早稲田で有名人になれてしまう方法が1つだけ存在する。それは、3大イベントの最後の1つでもある。

 

そのイベントの名は、「本庄早稲田100キロハイク」。略称「100ハイ」。

 

今年の5月で第54回を迎える、それはそれは立派なイベントであり、早稲田大学の公式カレンダーに載っているほど。参加者は毎年増え続け、ここ最近では1000人は下らない。埼玉県は本庄駅から、早稲田大学早稲田キャンパスまでの6つの区間に分けられた100キロの道のりを歩く。これだけ。どう考えても、頭おかしいイベントだし、しかも参加料も取られるし、足の付け根が自分とくっついてんのか、くっついてないのかわからなくなるにも関わらず、毎年多くの学生が参加したがる。アイドルの握手会のごとく参加のために行列が作られ、抽選も行われるため、確実に歩けるとは限らない。それでも、前述のように、このイベントに参加するだけで一気に有名になれる可能性がたくさん落ちているのだ。

 

まず、「100ハイ」の参加者は基本コスプレをする。強制ではないのだけれど、第26回の時に、人物研究会というサークルの人が、バカ殿メイクに白鳥の首のついたバレリーナ衣装で出場したことがきっかけらしい。しかし、コスプレをする空気だからコスプレをする、という人だけではない。何と、第1区休憩所では仮装大賞があるのだ。だから、幕張メッセなんかで行われるコスプレのイベントに引けを取らないほど、超ハイクオリティのコスプレで参加する学生もいる。そして、ここ大賞を手に入れると「学生注目」という権限が手にはいる。この「学生注目」とはこんな感じ。

 

 

学生注もーく!!!

(なんだー!)

私、誠に僭越ながら、自己紹介をさせていだきます!!!

千葉県○○高校出身、現在、早稲田大学○○学部○年!!

並びに〜〜研究会所属・・・・・・

 

という風にまぁ、言ってしまえば自己紹介なのだけれど、これを参加者全員の前で行うことができる。これは有名人まっしぐら。そして、「100ハイ」の中では、この権利をゲットできる機会が沢山あるのだ。例えば、出発前にはゼッケン大賞というものが存在し、第4区休憩所ではシャトルランや腕立て伏せを行う「所沢体育大会」と呼ばれる、イベントが存在する。そして、センスも体力も使わずに「学生注目」を手に入れる方法がある。

 

 

 

その名も「縛りプレイ」。

 

 

やることはとっても簡単。運営委員会が提示したある条件のもと、100キロ歩くだけ。有名サークルだろうがなかろうが、幹事長や部長でなかろうが、大丈夫。例えば「サラリーマン縛り」。これは単純で、スーツに身を包んで、5キロの革靴と10キロのカバンを持って歩くだけ。お次は「わくわくさん縛り」。子供に大人気のわくわくさんのごとく、100キロ歩ききるまでに、渡されたプラモデルを歩きながら作るというもの。他にも、50回大会では「金婚式縛り」という男女が手錠に繋がれ、乳母車を押しながら歩く縛りや、三木道三のLIfetime Respectのカセットが入ったラジカセを担ぎながら、ゴールするまで流し続ける「ラッパー縛り」など。閉会式の始まる午後8時までに到着すれば、閉会式にて確実に「学生注目」をすることができる。

 

4年前になるが、僕も当時のバイト先の店長に強制的に参加させられて出場したことがある。高校時代に、遠歩き、というナイトハイクをして以来の長距離ハイクだったが、正直高校時代のものとは比べものにならなかった。僕はセーラー服のコスプレで参加した。笑って歩けるのは長くて1区、あとは全部無表情。1区ですら17キロほどの距離がある。1区休憩所では自分でご飯を買いに行かないといけない。それなのに休憩所から、最寄りのスーパーに行くには、長い歩道橋を渡り、さらに少し歩く必要がある。1区では毎年恒例なのか、みんなでソーラン節を踊る風習がある。全く意味がわからなかったが、狩り出されて踊らされた。普通にただ体が痛いだけだった。

 

2区は5区と並び100ハイの中で最も長距離で、合わせて25区(じごく)と呼ばれている。最低でも7時間は歩きっぱなし。ここで問題になるのがトイレだ。基本的に用を足したかったら、休憩所か道中のコンビニに行くしかないのだが、割と辺鄙なところを歩いているため、「今はまだ余裕だな」とか思ってると、尿意に殺されることがある。コンビニ側もそれをわかっているのか「この先〜キロ、コンビニありません!」などの張り紙を大々的に貼っている。そのくせ、実はそれこそがそこのコンビニで買い物をさせる策略で、少し進むと「あるじゃねーか!」なんてこともある。僕は、100キロも歩くなら、めっちゃ体脂肪燃えるんじゃね!? という浅はかな考えで、「ヘルシア緑茶」をバカみたいに飲んでいたので、多くのコンビニにお世話になりました。2区では、道中に「池袋 68km」と書かれている道路標識があり、多くの参加者のメンタルをえぐる。

 

2区休憩所では夕飯が出され、皆ナイトハイクに備える。この3区のナイトハイク、距離は2区より短いのだが、暗闇をぼっちで歩いていると精神的にきつくなる。3区の休憩所は睡眠を取る場所としての役割もあり、埼玉県の市民体育館で一夜を明かす。今でも動画を撮ればよかったと後悔するのだが、うめき声をあげながら洗面所に向かいメイクを落とす様子や、コンタクトを外しにいく様子はさながらバイオハザード。しかも、みんなコスプレに身を包んでるから、本当端から見たら狂気の沙汰。それでも、明け方になるとメイクをしに行く女子、流石です。

 

 

4区。悲劇が僕を襲った。足首が死ぬほど痛い。最も楽チンだと言われている4区なのに、足首と足の指の付け根がありえないほど痛くて、めちゃくちゃ辛かった。ゴールするか、リアタイアするかの2択しかこの痛みから逃れる術はない。五本指靴下二枚履きしてたが、それでも耐えきれぬ足の痛み。

 

「どうしても辛い時、コレに頼れ。絶対忘れなよ」

 

歩く前に先輩に言われた言葉を思い出した。

 

「ここが使いどきか・・・・・・。だがこの先、こいつが機能しなくなったらどうする・・・・・・」

 

葛藤したが、痛みには勝てなかった。死ぬ思いで4区の休憩所に着くと、白い薬を取り出した。用法用量を守っている余裕なんてなかった。一思いに4粒飲み込む。その薬こそ、「100ハイ」におけるドーピング薬。

 

ロキソニンだ。

 

頭痛薬として有名だが、これが足の痛みによく効くと参加者の中では常識となっていた。これがまぁ、びっくりするくらいすごくて。ロキソニンを飲んで仮眠をとるとあら不思議、何と足首の痛みがなくなってるじゃあ、ありませんか。まるでラムネのごとく皆服用していた。形も似ているし。

 

5区。西武新宿線沿いを永遠に歩く5区。何が辛いって、景色が変わらない。ずーーーーーーっと、同じような街並みが続く。終わりが見えない。レンタカー屋さん何個目だよ! とキレずにはいられないレベル。この辺りになると完全に体力のある組と、ない組の差が歴然としてきて、西武新宿線沿いの青梅街道はさながら百鬼夜行のよう。コンビニの前には足を休めるコスプレイヤーたちがたむろし、本当に異様な光景である。

 

そして、ついに最終6区。日も徐々に落ちてきて、もはや歩いている、というより股関節を前に投げ打っている、という表現が正しくなってくる。足全体をスイングする感じ。脳に意識的に歩け、という指令を出して歩くことなんて初めてだった。風景も見慣れた感じになってきて、ついに、あの、日本で最も汚いのではないかと思う高田馬場のバスのロータリーが見えてきた。5区の休憩所でお腹を下したせいで、遅れをとったが、なんとか先輩方に追いつき、迎えたロータリー。これがアドレナリンが出ている、ということなのだろうと思った。全く足が痛くない。走って、早稲田まで行けると思った。早稲田通りは早稲田の応援歌「紺碧の空」及び早稲田大学効果を歌う、大量のコスプレイヤーたちで溢れていた。100キロの道のりが自分の中でフラッシュバックされていく。9割以上辛い思い出しかないのだけれど、やはり、歩いてよかったと思えた。

 

そして、ついに大学の門をくぐり、月明かりとライトに照らされた大隈重信の銅像が僕を迎えてくれた。涙こそ出なかったが、名状しがたい達成感に包まれた。二度と出たくねぇ、という気持ちと、来年もちょっと出たいな、という複雑な気持ちが入り混じっていた。

 

 

「100ハイ」を含め、早稲田には自分が校内で有名になる機会が沢山ある。でも、本当に大事なことは、有名になる、という結果ではなく、過程。目標に向かって途中で心が折れそうになっても、続けることだと思う。大企業に入れなくても、大きな失敗をしても、自分で決めた夢を追い続ければ、結果は後から付いてくる。「100ハイ」は人生の縮図のようだ、と今は思うのだ。9割以上が辛くても、辛い事なしの結果なんて、おもしろくない。辛い思いがたくさんあればあるほど、達成した時の嬉しさも尋常じゃない。ライティング・ゼミでも、ネタがない、筆が進まない、なかなか評価されない、という苦難を乗り越え、そこで手にした掲載権はとても嬉しい。早稲田祭でメインステージを張る彼らも、早慶戦で感動を与えてくれる彼らも、死ぬほど辛い練習をたくさんしてきて、その結果として有名人になるチケットを手に入れることができる。確かに、コスプレを頑張ったり、縛りプレイをすると有名になれるが、それも、他の人よりも辛い思いをしているからこその報酬だ。

 

人生、甘いだけじゃつまらないよ、ということを「100ハイ」は伝えたいのかもしれない。

流石は、都の西北、早稲田大学である。

 

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2016-05-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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