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嫌な子供だったK君が、クラスで一番人気者だった理由


記事:西岡 ちえ(ライティングゼミ)

「先生、漢字が間違ってマース」

教室の一番後ろの方から、その甲高い声は聞こえてきた。

半端に腰かけた椅子をぐらぐらと足でゆらしながら、K君は先生が黒板に書いた誤字について、どや顔で指摘した。

よくあんな後ろから字が読めるな。

当時から目が悪かった私はそのことに半ば関心しながらも、

やめときゃいいのに。

と、毎度の指摘を鬱陶しく思った。

はじめは笑顔で返していた先生の顔が、徐々に険しくなり、教室中に不穏な空気が流れることがわかっていたからだ。

辺り一面、田んぼしか見当たらない栃木の田舎町に、私が通うその小学校はあった。

創立10周年になったばかりの比較的きれいで新しい校舎。

2階の一番奥の教室、3年4組がこの物語の舞台だ。

この話はのどかな田舎町で起きたクラスメイトでモンスター男子K君をめぐる話である。

それにしても。彼をクラスメイトと呼んでいいのだろうか。

そう呼ぶのは、大人になった今でもなんだか恐れ多い。

あのころ、K君はまぎれもなく、3年4組という私達の住む世界の中心だった。

そして、モンスターペアレントならぬ、モンスターチルドレンそのものだった。

他の人が言えば取り返しがつかないのにK君だけは、許された。

こんな理不尽なことはない。

全然、納得がいかない。

でも、事実そうだった。

K君には、言葉たくみに風向きを変えてしまう才能があった。

そう。言うならば彼の周りには常に自由の風が吹いていた。

その風に誘われるように常に取り巻きがいて、K君をてっぺんとしたK君ヒエラルキーが見事に形成されていた。

K君

取り巻き

一般人

部外者

の順番だ。

K君はその奔放さから男子の支持を得る一方、一部の女子にもモテた。

モテたといっても、K君は決してイケメンではなかった。

体型は、小柄の小太りで印象はずんぐりむっくり。

顔は吉本新喜劇の山田花子にそっくりだった。

見た目はモテ要素ゼロのK君だったが、奔放で乱暴な反面、ときおり見せるさみしげな表情が私たち女子に芽生え始めた母性をくすぐったりしていた。

バカは目がいいから。

と、笑っていう人もいたけど、K君はバカじゃなかった。

たしかにテストの成績はいい方じゃなかったけど、人を見て発言を変えるような小さい器の人間じゃなかった。

私たちは少しずつ、常識の檻に閉じこもり、大人からの期待に応えようと自分が言いたいことを我慢することを覚えた。

反面、言いたいことが言えるK君がうらやましかった。

私達が大人になろうとしているころ。

K君の辞書に、常識という言葉はなかった。

見たいものを見、聞きたいものを聞き、言いたいことを言う。

それは大人だろうが、先生だろうが、かまわない。ひるまない。

その反抗ぶりには、独特の安定感があった。

将来大物になる人というのは、こういう人のことを言うのだろう。

末は博士か大臣か。私は内心、彼に過度な期待をしていた。

いや、私だけじゃなく、クラスのみんながそう思っていたはずだ。

やつなら、やるに違いない。彼にはそう思わせる何かがあった。

そんなある日のこと。事件は二学期の秋の遠足で起きた。

行先ははっきりと覚えていないが、日光あたりに向かういわゆるバスハイクだった。

1組から順番にバスに乗り込む。

私たち4組が乗り込むころには他のクラスはすでに搭乗完了といったところ。

他のクラスのバスの前に立って出迎えていたガイドはほとんどが20代のお姉さんだ。

自分たちのガイドも同じように20代のお姉さんだろうと、うわさをしながら私たちは期待していた。

バスに乗り込み、あらかじめ決められていた席順通りに座る。

私たちの視線は、自然とバスガイドが乗り込んでくる前方のドアに向かった。

その姿を見た途端、固まった。

黒々とした髪に段カットで整えられた古風なヘアースタイル。

厚めのファンデーションを阻むように笑うと顔全体にしわが刻まれていく。

制服といえども、上下ピンクは少々無理がある。

そう。お姉さんはお姉さんでも、彼女はまぎれもなく50歳はいくかというベテランのバスガイドだった。

生徒全員から、声にならないため息がもれた。

そんな空気を察してか

「皆さん、こんなおばさんでごめんなさいね」

とガイドのお姉さんは自嘲気味に、笑顔で話しだした。

なんとかその場をなごませようとする担任の先生のぎこちない笑い声だけが静かな車内にカラカラと響く。

担任の先生より上で、両親よりも年上の人と、一体どう楽しく過ごせるというのか。

大いなる疑問を持ちながらも、私たちは一日を無駄にすまいと努めて明るく楽しそうにふるまった。そうしているうちに、本当に楽しくなっていくような気がした。

ある一人をのぞいては。

K君は終始ふてくされていて、周囲にあたりちらしたりしていたがガイドさんに直接かみつくことはなかったのでほっとしていた。

ようやく遠足も終盤を迎え、私たちは帰りのバスに乗り込んだ。

ああ、何事もなく終わった。

私は完全に気を抜いていた。

K君の暴れっぷりがほとんどに空振りに終わって、内心ちょっとがっかりしていた。

バスが学校に近づこうとしていたころ。

ガイドさんが今日一日を振り返り、話しを始めた。

「いろいろ、至らないところがあったかもしれませんが大目に見てくれたようで。みなさん、ありがとう」

ありがとうと、言い終わらないうちにK君節が炸裂した。

「おばさん。金払ってるんだから、ちゃんとやれよな」

バス内の空気が一瞬にして、凍りつくのがわかった。

エコーのようにK君の声が車内にこだましていった。

どんなに鈍感な人でも、それだけは言っちゃだめだとわかる。

その一言をK君は言い放ってしまった。

帰りのバスの中は、おかげで散々だった。

シーンとして、それっきり誰もしゃべらなくなった。

BGMでかけていた当時流行のラーメン大好き小池さんという歌だけが軽快に流れていた。

重たい空気の中、私たちは教室へと戻ってきた。

着いたとたんに、雨がポツポツと降り始めた。

私は疲れていたのと、雨が大降りにならないうちに一刻も早く家に帰りたかった。

先生は深いため息をついて帰りの会を始めますといい、教壇に立った。

その表情から、このまますんなりと帰らせてはもらえないなとすぐに悟った。

K君の発言についてどう思ったかを作文に書いて提出するということになった。

作文を書き終えたころに、先生が何人かを指して書いた内容を読み上げさせたりした。

みんな口をそろえて

「K君の発言はまずいと思いました」

などと、平気な顔をして答えていた。

中には、取り巻きと呼ばれているような人もいて、ちらちらとK君の方を見ながら

「K君の発言は、言い過ぎだったと思います」

と申し訳なさそうに答えていた。

帰りの会が始まって20分が経ったころだろうか。

しばらくして、動物のうめき声のような声が聞こえてきた。

一瞬、何が起きているのかわからなかった。

声のする方を振り向くと、K君が顔を真っ赤にして泣きじゃくっていた。

そして、吐き捨てるようにぽつりとつぶやいた。

「お前らだって、面白がってたじゃんかよぅ」

そのときまで気付かなかった。

嫌な子供だったK君が、クラスで一番人気者だった理由。

それは、言いたいことが言えない私たち子供の意見を代弁してくれるいい奴だったからだと。

そして、K君をいい奴に仕立てたのは私たち自身だということに。

そのとき、K君にかけられた魔法が、すーっと解けていくのを感じた。

そこにはただ、人の期待に応えようとする人のいい少年がいるだけだった。

そして、何事もなかったかのように、皆足早に昇降口へと向かうのだった。

降りだした雨は、勢いを増して当分止みそうもなかった。

 

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2016-06-02 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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