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メディアグランプリ

世界史が赤点だった俺がプロイセンを知った理由。


記事:宮澤輝(ライティング・ラボ)

「この前言ったこと、覚えてる?」
忘れているとは言わせない、と怒りを滲ませた声に俺は無言で首を縦に振る。ドイツビールが飲める祭りがあると誘ってくれた彼女は数分前までは笑顔だったはずだ。俺は一体どんな地雷を踏んだのだろうか。
「プロイセンって島国、どこにあるの? ってやつ」
思い出した。先日のコスプレイベントで彼女に聞いた。備品として置かれていた地球儀のどこを見てもプロイセンという表記がない。何気なく沸いた疑問を隣にいた彼女に質問した。今着ている服の持ち主は何処にいるのか、と。数秒の沈黙の後に何故か絶叫していたっけ。
「ヘタリア読んでてその発言は致命的だよ」
だから勉強しようね、と微笑む彼女の目は全く笑ってない。
「お、お手柔らかに」
温くなったビールは苦手だがそうは言っていられない。
俺は白旗を振って緊急開催された青空教室に強制的に参加した。

ヘタリア。
擬人化した国たちが織りなす様々な物語。
第二次世界大戦や昨今の世界情勢、現地でないと分からない生の声など多岐にわたる内容はどれをとっても面白い。作者の人柄のなせる技なのかそれともチョイスするネタのせいか戦争の話ですら笑って読めるそれは数年前空前のブームとなった。
俺がその作品を知ったのはちょうどブームが来る少し前だった。合わせの人数が合わない、助けて欲しい。知人のコスプレイヤーから飛び込んだSOS。聞けば今度参加するコスプレイベントで参加予定の子が来られなくなってしまったのだという。頼られたことに舞い上がり二つ返事で参加を決めた。決めてから聞いたのだ。何ていう作品なのか、と。
順番が逆! という叱咤とともに叩きつけられたマンガを読んで一言。なんだこれ。国の擬人化という形態にすら度肝を抜かされてはいたが、自分の中にある国のイメージと彼らが全くかみ合わない。過去に海賊と関与していたイギリスが元ヤンという設定や美意識の高いフランスというところは何となく分かる。だが、ドイツだけはどう頑張ってもかみ合わない。他の国より年下でアメリカよりも年上という設定はなんとなく分かるのだが、真面目でまっすぐで融通が利かない堅物というところが分からない。聞きかじった程度の知識しか持たない俺の脳内にあるドイツの情報は独裁国家だったということぐらいしかない。どこか親しげなオーストリアとのやり取りから密接な国交があるくらいしか分からない。それどころかドイツがヨーロッパのどこにあるのか分からない。俺がコスプレするのはドイツ、彼だ。理解しないで服だけ作るのは俺の流儀に反するがイメージが違い過ぎて理解が追いつかない。なんてこった、と頭を抱えても一度出した参加希望を取り消すことは知人の顔に泥を塗るのと一緒。選択肢は一つしかない。ため息一つ落としてから最初のページに視線を落とした。

ヘタリアとのどうしようもない出会いから数日後、俺は本屋で一冊の本を買った。ドイツへの旅行指南書だ。カラフルな写真を眺めていくといろいろな発見が出てくる。ローレライの逸話、ロマンチック街道、ノイシュバンシュタイン城。どれもが美しく、そして魅力的だ。脳内にあった独裁国家ドイツのイメージがどんどん崩れ去っていく。そして合点がいく。ヘタリアのドイツがあのように描かれているのかと。カバーが少しくたびれているマンガを再度読み返す。歴史は横文字の列挙としかみていなかった俺にその一つ一つに意味があるとオーバーリアクションぎみに伝える国たち。キミはドイツとその周辺が好きになるよ、だからドイツやってくれない? 知人は俺の好みを知っていて的確に見合ったキャラをよこしてくる。今回も知人の目は確かだったのだ。ビールも好きだったよね、と笑う知人の声が聞こえたような気がした。

プロイセンはドイツの周辺として登場していた。1人楽しすぎる不憫な俺様キャラとして描かれた彼は自由奔放で弟であるドイツを振り回す。でもドイツが困ってるときには適度な距離感で手を差し伸べる様が理想の兄そのもので俺はドイツ以上にプロイセンを好きになった。だが、どこを探しても見つからない。キャラ説明には飛び地になったと書かれているが、1人というフレーズが付いているキャラは島国だけ。彼も島なのだろうか?
世界地図や地球儀を見てもどこにもプロイセンの五文字がない。疑問をどう解消すればいいか分からずコスプレ参加当日になり、そこで知り合った彼女にあの言葉をふいにぶつけてしまったのだ。

彼女の情熱的な指導のおかげで今ではプロイセンを現在の地図で探すような真似はしない。サンスーシ宮殿に眠るフリッツ親父に思いを馳せることはするが、それはちゃんと歴史や事実に乗っ取った行為だ。歴史の授業で赤点しか取ったことのない俺にとってとんでもない進歩である。そしてこの進歩が起きたのは俺だけではない。ヘタリアに興味を持ち読みふける学生たちの歴史の点数が飛躍的に伸びたのだ。ヘタリアに触れ、キャラを感じ、彼らのことをもっと知るために歴史の本を開く。その流れが彼女たちを歴史へと誘っていく。

マンガと侮るなかれ。
興味というものは案外こういう所からふいに芽が出るものなのだ。

 

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2016-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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