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メディアグランプリ

「ママ、紫はちょっと嫌だな」


記事:諸星 久美 (ライティング・ゼミ)

今から6年ほど前、私は知り合いの美容師さんからの依頼で、彼女が参加するコンテストのモデルをしていた。
そのコンテストは、国内、数十店舗の若手美容師がイベント会場に集い、決められた時間内で、カットやヘアセットをして審査を受け、グランプリや各章を決めるというイベントだ。
コンテスト参加者は、自身のイメージを、ヘアはもちろん、ファッション、メイクに至るまでをトータルコーディネートするのだが、いかんせん、コンテスト当日の短い時間内で、カラーまでするのは難しく、カラーのみは事前準備が良しとされている。

そのため、私は1週間前から、彼女の元へと2日に分けて通うことに。
まず1日目は、ブリーチをして、コンテスト当日用の色を入れやすくする準備。
私はいつも彼女にお任せのところがあるので、当日も、持参した本や用意してもらった雑誌を捲りながら、時折彼女との会話を楽しみ、変化していく鏡の中の自分を凝視することはなかった。
また、中学1年の時に、当時流行っていた『ホットロード』という漫画の影響や、好きな男の子の視界の中に入りたいという理由や、好奇心やらで、オキシドールを髪に塗り続けてブリーチした経験もあったので、自分のブリーチ後の姿はだいたい想像できていたことも、安心お任せスタイルを貫けたのだと思う。

……が。
数時間後鏡に映った私は、
「あれ? 想像していた印象と違う……」
としばし呆然とし、モデルを受けたことへの僅かな後悔がよぎったところで、ふと冷静になってみれば、かつてブリーチしたのは、かれこれ20年以上も前のことで、当時の肌艶の色や、毛髪の光沢は、比べ物にならないほど瑞々しかったはずなのだから、今、目の前にいる30超えの女と、当時の自分との差異は埋められるはずもないのだ……ということに思いあたった。
しかし、どうにも違和感が拭えずに、
「なんか、違和感が……」
と、つい本音が零れ落ちてしまった私に、
「眉毛の色も抜くと、少し落ち着くと思います。明後日、当日のカラー入れる時に、眉毛の色も少し抜きましょうか?」
彼女が鏡の中の私の目を覗き込んでくる。
ああ、そういうことか……と合点しながら、「お願いします」と頷き、
「ところで、明後日は何色になるの?」
と尋ねた私に、
「パープルですけど、大丈夫ですか?」
と彼女が尋ねかえしてくる。
何色に染めてもOK、という条件でモデルを受けたことを胸中で今一度確認しながら、
「うん、大丈夫」
と、平静を装って答えたものの、私はパープルヘアーの自分を全く想像できずに、パープルヘアーと言えば、時折巷に生息する老女の色ではないか……と、少しばかり混乱していた。

「パープルだと学校とかにも行きにくいと思うので、コンテスト後には、諸星さんの好きな色に染め直しますから、何色が良いか考えておいてくださいね」
と言う彼女に、
「は~い」
と返事をしながら、私はもう、パープルヘアーになることは家族に内緒にして、明後日チェンジして帰宅した時に驚かせよう! と企みの笑いを浮かべていた。

そして、2日後の午後7時。
鏡の中の、初パープルヘアー&眉毛脱色済みの自分を見つめ、
「似合うとか、似合わないとか、もう分かんないな……」
と肥大した違和感と共に、ママチャリに乗って帰宅したのだ。

玄関で迎えた家族の反応はまちまちだった。
「かっこいいじゃん」と主人。
「ママ可愛い~。ミルキーローズみたい!」と、プリキュアのキャラ名をあげ、
「い~な~、い~な~。私も大きくなったら紫にした~い」
と絶賛する3歳の娘。
「すごいね……」と引き気味の8歳長男の背後で、無言で私の目と頭を交互に見つめてくる6歳次男。

子ども達の視線を頭に感じながら夕飯を終え、食器を洗っているところに顔を出した長男が、
「ママ? 授業参観それで来るの?」
と、探り気味に聞いてくる。
「え? いつ?」
「来週」
「大丈夫。来週には別の色になってるから。何、嫌なの?」
冷えた一瞥を向ける私に、
「嫌っていうか……。あ、でもやっぱり、紫はちょっと嫌かな……」
と、遠慮気味に答える長男。
私は瞬時に小学2年生男児の心を想像し、確かに、パープルヘアーの母親参上はきついと感じる子もいるよな、という思いにたどり着いて、長男に頷いて見せた。
「じゃあさ、今度別の色にするんだけど、何色が良いと思う?」
「紫じゃなければ何でもいいよ」
「了解。たぶん金髪かな。この前より、もうちょっと綺麗な色にしてもらうんだ~」
「ふ~ん」

そんな会話を交わしてから1週間後、私は予告通り、金髪姿で長男の参観に出かけた。
私の3度にわたる変化を見てきた彼は、普段通り、にこにこと手を振ってきたが、そんな彼の隣で目を見開くクラスメイトの男児を前に、私は「ぷくく」と笑いながら、驚きをまっすぐに表現できるその柔らかい心を、愛しく感じていた。
面白いことに、男の子は比較的、我が家の次男のように、異物を見る様な眼差しで私を凝視する子が多く、女の子は、直接私の元まで来て、「可愛い~」だの「どうやってやったの?」などと、興味を見せる子が多かったように思う。
その順応性を見ながら、女の寿命の長さの根源のようなものに、僅かに触れたような気がしたものだった。

  *

「その色で、お義父さんやお義母さんに会えないな……」
そんな友人の言葉を聞きながら、私の金髪を「似合うね」と言ってくれた義父や義母のことを思い、随分と恵まれた環境にいるのだな、と改めて感じることができたし、実母とは、私が中1の時にブリーチをして学校からお咎めを受けた頃の思い出を、懐かしく振り返ったりもした。

「くみちゃん、どうしちゃったのよ……」
と言いながら、お風呂場で、私の髪にビゲンの白髪染めを塗りこむ母に、
「いや、気づいたらこうなってた」
などと、なめた言い訳を返した私を叱りつけるわけでもなく、そのうち落ち着くでしょうよ、とのんびりと構えてくれた親の有り難みに、薄情で鈍感な私は、20年という長い月日を越えた先でやっと気がついたのだ。

私は情けなさを抱えたまま、
「同じような状況になったら、母のように振る舞えるだろうか?」
と自身に問いかけ、
「できないかもな……」
と思い、
「いや、なぜそうしたかを聞いて、許せるところは許して、母のように関われるといいな」
などと、感傷に浸ったものだった。

   *

白髪がちらほら見えてきた現在は、白髪のカモフラージュにもなることから、金髪にしたい願望はふつふつと胸中にある。
しかし、今年は次男が受験を控えた身。
私自身が様々な人にギョッとされるのは全く気にならないのだが、学校見学や、説明会、三者面談などで私がギョッとされた結果、微塵でも次男のマイナスイメージに繋がるのなら、それは避けなければ……と思う人並みの親心もあるので、また、良きタイミングが来たら好みの色に染めに行こうと考えている。

数年後か十数年後。
鏡に映る、染み&皺の増えた自分の金髪姿に、必ずや噴き出すだろうという想像は、なかなか楽しいものである。

 

***
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2016-06-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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