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赤、黄色、緑、青あざ。


青あざ

記事:糸数恵那(ライティング・ゼミ)

右の太ももに、二十センチくらいの、大きな青あざができた。
まだ六月の中旬にも関わらず、今年の夏は容赦しないそ、とばかりに、太陽はコンクリートに熱を与える。短いスカートを履くと、小さい子がお漏らしをしたかのような模様が、右太ももに青々とはびこっているのが丸見えだ。

「良い大人の女性が、脚にあざなんかつくるもんじゃないよ」

……家の鍵を忘れたから、たまたま網戸だけをかけて開いていた窓から家の中に飛び込んで、その時に落ちて出来た青あざです、とは、少し言いづらかった。

小学生の頃も、よくこうやって家の鍵を忘れて、靴を履いたまま窓から中に入って、お母さんに怒られたんだった。あの頃使っていた窓は、もう小さくて、通れない。だから今の私は、あの時は届かなかった高さの、大きめの窓から、きちんと靴を脱いで、家の中に転がり落ちた。なんか、ひさしぶりに、ドキドキしたかもしれない。最近太陽の光が強まってきたからかな、無邪気に外で遊んでいる子供たちが余計に眩しくて、羨ましかった。

大人になると、なかなかこのような目に見える怪我をするのは、例えば転んでしまっただとか、事故に遭ってしまっただとかの、本当に不慮のものである場合が多い。だから、私の大きい青あざを見ると、大抵の人は「転んじゃったの?」とか「まさかDVじゃないよね……?」などと心配をしてくれる。

ああ、大人になってしまったことを実感した。
そう、社会が描いている大人の像が脳内に見えた。

昔は、青あざなんてしょっちゅうつくっていた。靴下を片方だけ失くして家に帰った。男の子とけんかをしてガラスを割った。ランドセルは、砂利まみれの、泥んこまみれだった。青あざなんて笑い飛ばして、後先なんて、これっぽっちも怖くなかった。だけど大人たちは、誰かの視線とか、社会のしがらみとか。青あざひとつにしたって、子供がつくったものと、大人がつくったものじゃ、もう、全然見え方が違うらしい。子供達から見たら、きっとくだらなくて笑われてしまいそうだ。「やりたいことなら、やればいいじゃん!」昔の私は、無邪気に大声でそう言うんだ。背中を押される時もあれば、無性に残酷に感じる時もある。

帰り道に、公園を通ると、沢山のペットボトルが並べられていた。その中には、緑、青、黄色、ピンク、紫……一本ずつ、色の違う中身をしていて、そのまわりには破けた水風船の欠片が散らばっていた。まだ、地面も湿っている。
色水遊びに、水風船。どれも、暑くなってくるとよく遊んだことを思い出す。

色とりどりの水は、子供たちの思い描いた色だ。夢みたい。
何年か経った後には、そんな夢を見ていたことすら覚えてないような、小さな小さな夢かもしれない。いくつもあったと思う。
破けた水風船と飛び散った水は……。足下を見る。視界に、大きなあざが映る。
痛みも、目に見える痕も、時間と共に、確かに消えていく。
出来ては消え、つくっては消えた、もういくつかなんてわからない痛みや痕の数々は、これまで見てきた過去の夢々のようだと、思った。

それは、ちょっとセンチメンタリズムを感じちゃうような、切ないだけのものじゃない。どんなに小さなものでも夢と呼んでいたのなら、叶えてきたものだって沢山ある。結果はどうあれ、始まりと過程は間違いなく存在した。青あざは、やがて治るまでの途中であることの、ちょっとした勲章かもしれない。

普段は外食で済ませてしまうことが多いが、今日は母に忠告をしようと思って、早めに家に帰った。

「気をつけた方が良いよ、窓」
「窓? どうかした?」
「いや、この間、鍵忘れたから、久しぶりに窓から入ってさあ」
「またっ! そんなこと! ちょっとあんたもういくつよ、信じられない!」
「まあそれはよくてさ、窓開けっ放しだと、簡単に誰でも侵入できちゃうからね、私みたいにね、だから気をつけてね、と……」
「もおおおお! そんなこわいこと言わないでよ! 今日から絶対一階の窓、開けないから!」

戸締まりには、十分ご用心ください。
だけど、たまの大人のやんちゃも、とっても楽しいので、おすすめです。

 

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