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新宿ゴールデン街にて、毎日「着物」で過ごす23歳の男の子に出会った話


ゴールデン街

記事:うみの そらさま(ライティング・ゼミ)

よし、思い切って聞いてみよう……。
「あの、どうしてお着物なんですか? 今日は何かあったんですか?」
「いえ、毎日着物きてるんですよ。なんか好きで、ちょっと前から」
「え? 学校もですか?」
「あ、はい」

ジュノンボーイみたいに爽やかな笑顔の男の子が楽しそうに話している。ごくごく普通だ。着物を除けば……。まだ、浴衣で花火大会などという季節ではないのに。

友だちが新宿のゴールデン街でバーテンダーをやり始めたというので、遊びにいったときのことだった。
聞けば着物の彼は23歳の大学生で、ここへははじめて来たという。彼が着物をきている理由は、「なんか好きで」という説明だったのだけれど、その答えになんとなく親近感を抱いた。ただのOLが、毎日着物姿の23歳の男の子に親近感を抱いたのだ。不思議だ。
その理由がしばらくの間分からなかった。

夜9:30のゴールデン街。そこらじゅうに外国人がたむろしている。
ゴールデン街が外国人に人気なのは前から知っていたのだけれど、こんなにいるだなんて知らなかったな、そんなことを考えながら友だちの働くバーへ向かっていた。

バーの入口からは店内が見渡せる。
「よっ! どうぞ、どうぞ~」
私がやってきたことに気が付いた友だちが、8席だけのカウンターバーの、奥から3番目の席へ案内してくれた。店内は満員で、そこしか席が空いていなかったのだ。
私は着物の彼の隣へ座ることになった。

彼は、中国人と日本人のハーフだという。高校生までを中国で過ごし、大学生になって日本にやってきたそうだ。日本人学校に通っていたということもあってか日本語に違和感は全くなかった。大学では昔の中国のことを勉強しているらしい。

「どうして昔の中国のこと勉強してるの?」
「昔と今はつながってるんですよ! 昔の中国を知れば、今がわかるんです!」
意気揚々と話す彼。

彼と出会って2週間ほどたったころ、街には就職活動にいそしむ大学生の姿が目立っていた。その光景を見たとき、ふと思い出した。私も「なんか好きで」真っ黒なリクルートスーツではなくグレーのスーツを着て就職活動をしていたことを。その時の感情を。

私の通っていた大学では、制服があった。その制服は、グレーのスーツで何年も着られるようなしっかりとしたつくりだった。
新入生の頃、そのグレーのスーツを着て電車に乗った時、隣に座っていたご婦人から
「あら、フレッシュマン? がんばってね!」
と声をかけられたことが印象的だった。

就職活動を始める大学生の大抵が、就職活動用のスーツを購入する。そして、真っ黒なリクルートスーツを身にまとって授業を受けている。この時期、大学の教室を後ろから見てみるとお葬式かと思うほどみんな黒ずくめだった気がする。そう、真っ黒なリクルートスーツは就職活動の戦闘服だ。でも、私はそんな戦闘服は嫌だった。

見ず知らずのご婦人にフレッシュマンと思われるような、あのグレーのスーツが「なんか好き」だったのだ。
結局、私の就職活動は大学の制服のスーツで終わっていった。

あ、きっとこの感情だ。
新宿ゴールデン街の喧騒を思い出した。
バーのたたずまいを思い出した。
23歳の着物姿の男の子を思い出した。

23歳の着物姿の男の子に親近感を抱いたのは、私も過去に周囲と自分を区別する服装をしていたからだ。
真っ黒なリクルートスーツを着て、就職活動してます! って顔をしたくなかった。
真っ黒なリクルートスーツに身を包む同級生たちに、同化したくなかった。
フレッシュマンに間違われる自分でありたかった。

「なんか好き」という理由には必ず続きがあるのだと思う。彼がどんな理由を持っているかは私にはわからないけれども、洋服社会を和服で過ごすことは明らかに周囲と自分を区別している何かしらの理由があるのだろうと感じた。

そろそろ終電の時間だからと、彼と一緒にバーを出た。
何度見ても、彼は着物姿で袴をはき足袋に雪駄という出で立ちだ。けれども、右腕には大きな今どきの腕時計をしている。かばんは、そこらへんのサラリーマンが持っている通勤かばんのようなものを持っている。
その不完全な和服姿に思わず笑いが込み上げてきた。私自身の不完全さをそこに見たような気がしたからかもしれない。
明日からも頑張ろう、そう思って彼と別れた。
不完全だからこそ毎日が面白くて、更に磨かれていく。そんな想いが込み上げてきた夜だった。

 

***
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