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初恋女子たちの林間学校


初恋女子

記事:ミュウさま(ライティング・ゼミ)

痛ッ! なに? 今、私、蹴られた?

いきなりである。芝生に座っているところを後ろから腰辺りをコツンっと、軽く蹴られたのであった。

「え?」私は驚いて振り返った。

そこには5人ほどの小学生女子が固まっていて、ちょっと機嫌悪そうに物言いたげな目つきで私の事を睨むように見ている。

「ねえ、せんせい。先生さあ……」

私はその頃アウトドア業界で働いていた。
小さなその会社では時々取引先から仕事とは関係ない話が持ち込まれていた。
ある年の夏のことだ。ある公立の小学校で5年生の林間学校の引率のサポートをしてくれるボランティアを探しているという話が舞い込んできた。
自分の休みを使ってするボランティアであったが、全容どころか概要さえ知らず子ども好きの私はすぐに立候補したのだった。

私の他に年下の男性2人が同じくボランティアで入ることを当日現地で知った。
2人はもともと友人同士で子どもの教育関係の仕事をしているらしい。一人は楽しく頼もしい感じのOさん。もう一人は爽やかで優しげなSさん。二人とも感じのいい人たちだった。

私は女子クラスの担当だった。子ども達からすれば先生よりも若く自分達に近い年上の同姓で親しみがわくのかすぐに打ち解け慕ってくれた。彼女たちは公には私を先生と呼び、学校の先生がいない所ではアネキと呼んでちょっとした相談ごとを持ちかけてきたりもしていた。

イマドキの小学生は学校以外にも進学塾や複数の習い事と一週間予定がビッシリで、大人びた厳しい表情をしている子も多く、社会人とはまた違ったストレスを溜めているようだった。

しかし、子どもらしい一面も保っていて、中でも想像力は豊かで空想の中で遊んだりすることは得意だった。私が即興で作った変てこなメルヘンストーリーも熱心に聴いてくれその世界に没頭したり、その設定で林間学校の間過ごして遊ぶ提案も喜んで受け入れてくれたりした。

5年生くらいの女の子は子どもらしい遊びに夢中になる一面とはまた別の雰囲気を醸し出し始める頃だ。男子より先に体も心も大人に向かう成長が始まるからだ。林間学校での男子は女子と比べてまだまるで子どもで性を感じさせずコロコロ転げまわってじゃれ合う子犬のような感じだったが、女子は落ち着きと色気を感じさせる子どももチラホラ出始めているようだった。そんな佇まいを見せる女子のグループがいた。
クラスの中で必ず一人はいるアイドル的な可愛らしさを持つ男子全員一致で好きな子に選ばれるような女子をリーダーとするちょっとマセた女子グループだ。

いつも学校では先生たちと過ごしている子ども達にとって私たち3人のサポーターは物珍しく新鮮な存在である。歳も先生よりは自分達に近いし好奇心旺盛な子ども達は自由時間には遊ぼうと走り寄ってくる。平和で穏やかで、且つ賑やかで楽しい時間だった。

行事も中盤になったころ、平和で楽しいはずの林間学校におかしな事が起き始めた。

最初はいつものように走り寄ってきた子が体当たりをしてくるようなものだったが、
そのうち手でパチンと叩いてきたり、小突いてきたり、そういうことが何度が起きたのだ。親しみを込めたスキンシップではない何かを感じた。

ん? いったい何が起きてるの? 

ぶつかってきたり手を出してくるのは女の子たちだ。
私は担当クラスのよく喋っている女の子の一人に聞いてみた。

「んー。先生たちが付き合ってるんじゃないかって言ってたよ」

こういうことだ。
あれこれ企画したり林間学校を楽しく盛り上げるべく協力して活動してサポーターの3人は仲良くやっていた。興味深い存在であるサポーター3人のうち女性は私だけ。3人一緒にいたのが気に入らなかったようだ。
そしてなぜか一方の男性と私が付き合っているのではないかという話になっているという。それは、爽やかで優しげな彼、S先生の事だった。そういわれてよく見てみれば彼はかなりのイケメンだし、背が高く清潔感があり爽やか。話の仕方もソフトで優しげだったのだ。となると、5年生の女の子たちの憧れの的となっていたのはまあ当然といえば当然だったのかもしれない。

近づいてきては叩いたり、コツンと蹴りを入れてきたり……
ああ。あれは嫉妬の表現だったのだ。

私たちの大好きな先生を取るなんてどういうことなの!? 、という。

将来はパパのお嫁さんになるといって母親に宣言するようなそんな類の可愛いものとは違って、父親以外の男性に対する初めての恋心かもしれないのである。それは年齢なんて関係ない。女が女に嫉妬する、それだ。

数人の嫉妬心は事実無根の噂をあっという間に拡大させていっていた。
林間学校に不穏な空気が流れ始めていた。

楽しい林間学校のはずなのにこのままじゃダメだ。
なんとかこの空気を元に戻さないと。

私が女の子達に言葉で違うよ、って言っても意味無いし、憧れのS先生から違うよって言ってもらってもきっと彼女たちは納得しない。
学校の先生達が否定する問題でもないし、解決もできないだろう。

うーん。
どうしようか。

キャンプファイヤーでの出し物を任されていた私たちはここでこの事態を一気に収束させることにした。

私たちがやったのは、即興の芝居だった。

簡単に打ち合わせを済ませる。
芝居の目的を確認。大筋と落としどころだけを決めてぶっつけ本番だ。
目的はもちろん残りの林間学校を楽しく過ごす為、雰囲気をもとに戻すこと。

うまくいくかはわからない。
ただ私たちができる事をやるだけだ。
芝居ができるとかできないとか恥ずかしいとかそういう個人的感情はこの際完全無視だ。

芝居で私たち3人は彼女たちの心を占めている事を全部見せた。
彼女たちは最初から真剣に見ていた。

私は女子グループの想像どおりそのイケメンS先生の事が好き。好きな気持ちを独り言で話しながらラブレターを書く。彼の元へ行って告白して手紙を渡そうとするが彼は手紙を受け取ってくれない。最初は受け取れないとしか言わなかったが、好きだという気持ちを改めて伝えると、「気持ちは嬉しいんだけど、実は……」と、イケメンS先生は受け取れない理由を話し始める。自分には想っている人がいる。自分が好きになるのは男性で、実は今回一緒に来ているO先生の事を密かに好きなのという。だから女性である君の気持ちには答えられないんだ、と。

子どもたちに芝居は大受けで、おおいに盛り上がった。

例の女子グループは理解し納得したようだった。
自分たちが流していた噂が間違っていたこと、アネキ先生(私のこと)は自分達と同じようにイケメンS先生が好きだったけど、告白して振られてしまったこと。同時に、同じ女である自分達の恋もかなわないのだということを。

改めて考えると、小学生相手に学校行事の中で男女関係を扱い、しかも性的マイノリティまで取り上げてしまうようなあの劇をよくやれたなと思う。

ともかく、目的は達成した。

あのグループの彼女たちが根本的に納得したかはさておき、
全体の不穏な空気の払拭には成功し、それから林間学校が終わるまで女の子達はまた皆無邪気な子どもに戻り楽しい時間を過ごした。

あの芝居の後、
休み時間には代わる代わる複数の女の子たちが私の元にやってきた。

「S先生は本当に男の人が好きなの?」
「うん。そうなんだって。だから私も振られちゃった」

「せんせい、せんせいはS先生の事、本当に好きだったのに振られちゃって可愛そう」

「アネキ、アネキの事はわたしたちが慰めてあげる」
といって何人もの女の子がぎゅうっとハグしてくれたりもした。

最初から無かったこととはいえ、小芝居で騙してしまったようで
ちょっと罪悪感を感じつつも、私は彼女たちの素直な気持ちを受け取った。

あのグループの女の子達はあれから何もしてこなくなり、
ついに林間学校は無事に終わったのである。

その後、1ヶ月ほどして学校から子ども達の寄せ書きや感想文を書いた文集などが送られてきた。
寄せ書きには「一緒に遊んでくれてありがとう」とか「キャンプファイヤーの劇が面白かったよ」、などと書かれていた。概して女の子たちは例の噂の真相に関する質問や感想が多かったのに対して、男の子の感想にはそういう記述はなく、「一緒に遊べて楽しかったな」、とか、ゲームや虫の話、お化け屋敷のことなど、ここでもまだまだ子どもだなあという印象だらけで、女の子との成長の違いを感じつつ、微笑ましくその感想文を読んだ。

この子たちもいつか本当の恋をする。

女の子も男の子もいっぱいドキドキした素敵な恋をして欲しいなあ、と、文集を読みながら林間学校を共にした数日を思い出しながら、そんなふうに思う。

今、思い出すと、なんだか甘酸っぱい。
私のことじゃないうんと年下の女の子たちの恋心がおこした小さなできごと。

恋に絡むアレコレはいつ思い出しても甘酸っぱい。

 

***
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