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人類の5人に1人がカナリアだったとしたら……


 

記事:中村 美香(ライティング・ゼミ)

 

その昔、炭鉱に鉱員が入っていく時、その先頭の人はカナリアの入った籠を持って行ったと聞いたことがある。カナリアが毒物に敏感であることから、毒ガスを検知するために連れて行ったらしい。

 

そんなカナリアのように、多くの人が気にならないものを敏感に察知してしまう人が人口の約2割いて、HSP(Highly Sensitive Person)と呼ばれていることをご存知だろうか? 日本語では“ひといちばい敏感な人”と訳されている。

 

私がこの概念を知ったのは、現在7歳の息子が幼稚園児の時に、他の多くの園児が何の問題もなく取り組む課題にもいちいちつまずき、先々を不安がって泣いたり、人が怒られているのを見ても泣いたり、なんかちょっと普通と違うなと思ってインターネットで検索したことがきっかけだった。

 

HSPとは、感覚や人の気持ちにとても敏感で、ちょっとしたことにも気づく気遣いにたけていると同時に、強い刺激に圧倒されたり、多くの人の中にいると、すぐに疲れてしまうという特徴がある。これは生まれ持った気質であって障がいではないらしい。

 

保健所の保健師さんや幼稚園の先生などに、「何かあるとすぐに泣いてしまうことや多くのことに慎重でなかなか取り組まないことは、発達の遅れが原因なのか、または何かの発達障がいなのだろうか?」と相談しても、「そういうわけではないと思う。その子のペースの成長に寄り添って待ってあげて」と言われるだけだった。話を聞いてもらって少しだけ楽になったが、なんだかもやもやした気持ちは消えなかった。

 

なんという文字で検索し、最初にどのサイトを見たのか全く覚えていないが、「HSPかどうかを判断するチェックリスト」があり、息子はその多くに該当したことを覚えている。「これだー!」とまるで鉱脈を掘り当てたような喜びがあった。こういった気質は息子だけではなかったのだ!

 

さらに、発達障がいと誤診される場合もあると知った。確かに、このHSPの概念にたどり着く前に、もしかしたら、アスペルガー症候群なのではないかと思ったことがあった。しかし、「人の気持ちがわかりにくい」というアスペルガー症候群の特徴が息子には全く当てはまらず、むしろ「人の気持ちをわかりすぎる」点が際立っていた。どうやらその「人の気持ちがわかるか、わからないか」が両者の違いのひとつであるらしい。

 

今から一年半ほど前に、HSPの子ども版、HSC(Highly Sensitive Child)という概念があり、それについての本が近々発売されると知った。早速、発売日に書店で購入した。その本は『ひといちばい敏感な子』エイレン・N・アーロン著で、「HSCかどうかを判断するリスト」が載っていた。息子はやはりそのほとんどに該当した。その本には親がHSPの場合、あるいは、非HSPの場合のHSCとの接し方のヒントや子どもの年齢別の対応の仕方のヒントも詳しく書いてありとても参考になった。

 

夢中で読み、最初はマニュアルのように参考にさせてもらうつもりでいた。あまりにも嬉しくて、他人の子をHSCと決めつけてはいけないとわかりながらも、息子と同じようによく泣いている子や繊細だと思われる子を見ると、居ても立ってもいられず、そのママの何人かに、この本を紹介したほどだった。

 

すると、その中のひとりで、ママ自身がHSPと思われるある人がこんなことを言っていた。「これを知って、なんだ、自分だけじゃないんだって思えて嬉しい気持ちもあるけれど、だからって、他の人に、『私は、HSPです。我が子はHSCです。だから配慮してください』とは言えない。結局は多数の非HSPの中で生きていかなくてはいけないのだから、自分がHSPであること、我が子がHSCであることを意識しすぎてはよくないと思う」と。それを聞いて目から鱗が落ちた。

 

またネット上で、HSPと思われるある人が、「世の中にHSPの概念が浸透し、自分がHSPであるとバレると、新しい差別ができてしまうのではないか?」と懸念していた。

 

そもそも、このHSPという概念は、アメリカの心理学者、エイレン・N・アーロン博士が提唱した概念で、1996年に『The Highly Sensitive Person』(邦題『ささいなことにもすぐに「動揺」してしますあなたへ。』)という著書を出したのが始まりだ。アーロン博士ご自身も、繊細で敏感な神経の持ち主で、自身の内面を探り、そして、さまざまな調査や研究を重ねた結果、見出したのがHSPという概念だった。それは、世界各国で大きな反響を呼び、世界的なベストセラーになった。

 

では、なぜ、日本ではあまり知られていないのだろうか?

 

最近出版された本『敏感すぎる自分を好きになれる本』の著者で、北海道立緑ヶ丘病院精神科医長の長沼睦雄先生によるとその理由は、HSPが敏感になる対象が、音、光、食べ物、人間関係、霊的な現象などと非常に幅広く、非科学的な要素も含んでいるため、HSPという概念を医学の現場で使うことがむずかしいからだそうだ。そのため、HSPは医学的な概念として認められておらず、その考え方や対処法に関して研究している医師はほとんどいないらしい。

 

非HSPの私が、こんなにデリケートな概念を語っていいのだろうか? そういう疑問が沸いてきた。決して面白がっているわけではなく、むしろ、その繊細さに憧れすら抱いているのだが、HSPである当人たちからしてみると、気づかないでいたいことにさえ気づいてしまい生きづらい面が多々あるという話を聞き、本人ではない私が気軽に語ることはよくないのかもしれないと思った。

 

ところが、その一方で、自分がHSP、あるいは子どもがHSCと知り、かつての私のように気持ちが軽くなったと喜んでいる人も少なからずいると知った。あくまでも、「HSCの子を持つ非HSPの母」というスタンスで語るのであれば、それはそれでいいのではないかと思い始めた。

 

HSCの息子の子育ては、気持ちに寄り添った声掛けをしたり、小さなステップを提示したり大変な面がある。怒鳴りたいときも、大声に怯える息子に配慮し言葉を選んだり、本人が納得するまで行動に付き添うなど、人から過保護だと思われているのではないかと気になることもあるし、自分自身甘すぎるかなと思うこともある。けれど、それと同時に、美術館に行った時には、大人以上にじっくり鑑賞したり、月を愛でたり、雲を楽しんだり、おそらく、私以上に豊かに人生を味わっているんだと感じている。私も、彼のおかげで、見過ごしがちな雲や月や季節の移り代わりに気づかせてもらっている。

 

人類の5人に1人がカナリアだったとしたら……

 

もし、息子がそのカナリアだったとしたら……

 

感受性や思いやり、落ち着きがあることなど彼のいいところを発見し伝え、集団生活では失いがちな自己肯定感を持てるように、一番近くの理解者そして応援者になろう!

 

息子が繊細だったからこそ知ることができたHSP・HSCの概念を、できることなら、たくさんの人に知ってもらいたい! そして一人でも多くの人が、ひといちばい敏感なあの人の、敏感さと共にある素敵な部分に光を当ててくれたらいいなと思う。

 

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2016-06-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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