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女はみんな女が嫌い。



記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)

長く会社に勤めていて、その職場を仕切る古参OLのことを「お局」なんて言ったりするけど、私が前に勤めていた会社はお局だらけだった。
いかにも地域密着の地元の中小企業だった前の会社は、社員もなるべく市内や隣の市町村から取るようにしていた。
加えて、未だに年功序列でほんのり男尊女卑の気配もあった。
なので、明らかに私よりも仕事をしていない女性事務員でも「長くいる」という理由だけで、私よりも多くお給料をもらっていた。

そんな会社だから、若い女性が入社してくることはあまりなく、入社してきたとしても結婚・出産・引越し……などの環境の変化によって、すぐに辞めてしまった。
結局残っている女性事務員は、子育ての一段落した40代以上の「お局たち」か、私と唯一いた先輩のように「子供の居ない既婚者」だけだった。

だから、久しぶりに独身で20代の彼女が入社してきた時は、少なからず社内が色めきたった。

ミサコは当時25……いや、6だったか。

顔は女優の片瀬那奈に似た感じで、ヒールの靴を履き(しかし仕事の妨げにはならないローヒール)、きちんとメイクをして(しかし決して派手ではないナチュラルメイク)、お昼休憩のときは「CanCam」を読むような(雑誌を小脇に抱えている姿がまた似合っていた)、普通の20代女性といえばそうなのかもしれないが、私から見たらどう見てもミサコはリア充だった。

大体私はミサコと同じ年だった頃、もうすでにファッション誌を買っていない。
それだけでももう大分違う。
性格も素直で明るく、天然っぽい言動ですぐにみんなと打ち解けた。

私はこの後輩がとても可愛いと思っていた。
だけど、可愛いと思うと気持ちと同じくらい、大嫌いだった。
ミサコはいわゆる「ぶりっ子」だ。
社内の若いメンズのほとんどにちょっかいを出していた。
そして、彼らはほぼほぼ彼女の「ぶりっ子」に騙された。

「俺は騙されないよ」と言っている様な人でも、いざ彼女と接したら上手く転がされていた。
「俺は嫁と離婚してミサコと結婚する」と息巻いていた先輩もいたし、彼女と話を合わせたいがためにわざわざ彼女の乗っている車と同車種の車を買う同僚もいた。

ミサコの上手かったところは「イケそうな人にしか行かない」という成功法則を肌感覚で分かっていたことだと思う。
とりあえず最初は誰にでもボディタッチをするけど、そこで反応が悪かった人とは距離を置く。

その絶妙なさじ加減。
一度だけ、あまりにちょっかいが過ぎて、相手がストーカーっぽくなってしまい、ちょっとしたトラブルになったこともあったけれども……。
だけど、それがあったことで、ミサコは次第に的を絞るようになった。

結局彼女は、社内で一番上司の覚えもめでたい出世頭のTくんとできちゃった結婚して、寿退社した。
うまいことやったよなー……と、思わずにはいられない。
ミサコの本当の凄さは「俺、ああいうぶりっ子嫌い」と言っていたTくんの印象をひっくり返したことだ。
本人は「残業で残っているうちにいろいろ話すようになって、仲良くなった」と言っていたけど、本当はそうではなく、巧みに男女の関係になるようにもっていったらしい。

Tくんはミサコの手練手管にまんまとやられてしまった。
私はTくんのことをほんのちょっとだけ気に入っていたけれど、このことがあってから株はダダ下がりだった。

心境としては「ブルータス、お前もか!」である。
人生を賭けたぶりっ子。
ここまでくると立派なものである。
そういうとこが嫌いだけど。
大嫌いだけど。
そして現在。

私は当時勤めていた会社を辞めて、派遣として違うところで働いている。
そして、あの頃ミサコが社内のメンズにしていたように、隣の席の彼に時折ボディタッチをしたりしている。

最初からしようと思ってしていたわけではない。

親しくなるにつれて、話すときの距離も近くなり、自然にボディタッチをするようになったのだ。
ただ、私は気付いてしまった。
「これって、あの頃ミサコがやってたことと同じだよね……」
もちろん私は、誰彼構わずということはない(というより親しく話す相手がそんなにいない)。
だけれども、別の女性社員からしたら、あの頃私がミサコに感じていたような嫌悪感を感じているかもしれない。
お互い大人だから、あからさまな敵意を出さないだけで、本当は私にいい印象を抱いていないのかもしれない。
でも、正直それも気にならない。
仮にいい印象を持たれていなくても、私の契約期間が終わるまで仕事に支障が出なければ別にいいかなーと思っている自分がいる。

それよりも、親しくなりたいと思った相手と親しくする方が重要なのだ。
きっと、ミサコもそうだったのだろう。
私や周りにどう思われようと、何とかしてTくんを捕まえたかったのだろう(できちゃったのは予想外だったとしても)。
今ならミサコの気持ちも少しは分かる。

結局のところ、周りからどう思われようが、やりたいように振る舞う「ぶりっ子」は最強なのだ。
あざとくたって構わない。
周りのことなんて気にしない。

そんなふうに振る舞えることは、なんと気持ちのいいことか!

そして、私自身、そんな自分が嫌いじゃない。
きっと、ミサコもそうだったのだろう。

それが分かった今なら、ミサコのそういうところも好きになれ……、

いや、他人の「ぶりっ子」はやっぱり無理かな。
 

***
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2016-07-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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