メディアグランプリ

9歳から12歳まで毎日1000円を友人からもらっていた


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記事:フルカワカイ(ライティングラボ)

「おまたせー!はい、これいつもの」
そう言って、ルイちゃんは満面の笑みで私に1000円札を手渡した。

もともと、私はおそらく普通じゃない、というか一風変わった人から好かれる傾向にある。なぜかは考えても考えてもわからないが、学生時代から社会人を通しても、今までお付き合いしてきた人は全て専門職もしくはクリエイターの方が殆どだ。おそらく周波数が合うのだろう、どちらかというと聞き役に回る私にとっては異業界の話を聞けることがとても楽しかった。

そんな濃い人たちとの出会いを続けていても、今まで忘れられない関係というと、やはりルイちゃんのことは思い出さずにはいられない。

ルイちゃんは小学校から中学校までの殆どを一緒に過ごした友人だ。クラスの中でもとりわけ美人で、背も高く、目鼻立ちもくっきりしていたので、小学生高学年で高校生と間違われていた。芸能人に例えると瀬戸朝香にそっくりで、低学年から英語を習っており語学堪能で頭も良かった。いわゆる才女である。

そんな目立つ彼女だから同級生の嫉妬も多かったが、それを加味しても彼女の人気は絶えず常に人の注目の的であった。

しかし彼女は友人を殆ど作ることはしなかった。そしてその唯一の友人が、私だった。

彼女はいつも放課後私の帰りを待ち、一緒に自宅へ帰宅、そこから着替えた後、一緒に近くの商店街へ繰り出す。という日常を送っていた。しかし、小学生のお小遣いはたかが知れている。商店街へ行っても買えるものなんて消しゴムくらいで、好きなアイドルの雑誌を立ち読みしたり、CDの視聴コーナーで時間を潰したりというのがお決まりのコースだった。
しかしそれにも飽きがくる。
いつしかまち歩きで時間を潰すのが面倒になった私は、学校の図書館に通うようになった。
そしてそこで好きな人ができ、益々図書館に通い詰めるようになった。一日5冊の読書を目標としていたので、図書館で2冊、家で3冊、とすっかり読書に没頭する日々が続いて、私は充実した毎日を送っていた。ルイちゃんとは昼休みにあって昨日読んだ本の報告をしていたような気がしている。

そんな小学3年生の夏だった。久しぶりに放課後、教室で一緒にルイちゃんとしゃべる機会があり、私は相変わらず昨夜読んだ漫画の話をしていた。
「はだしのゲンってさ、最初衝撃的なんだけど、絵が上手くて。銀シャリとかすごく美味しそうに見えるんだよね」
そんな話をしていた時だった。ずっと下を向いていたルイちゃんが頭を上げて長い睫毛を揺らしながら私をじっと見つめた。
「あのさ……もし、本が欲しいなら、私が買ってあげるよ、だから今日は図書館じゃなくて本屋に行こう」
「え……本当に?! じゃあそうしよう!今から本屋さん行こうよ!」
好きな本が買える。ただそれだけに焦点を当てて私は全力でルイちゃんの誘いに乗った。そして久しぶりに本屋に寄り、好きな本を購入し、ジュースを買い、公園で遊んでさよならをした。
これが、きっかけで、毎日ルイちゃんは放課後になると私の教室に来て、一緒に買い物に行こうと誘うようになった。
無邪気な私は彼女がたいそうなお金もちなんだと思い、何も考えずに誘いに乗るようになった。

SMAPのCD、週刊ジャンプ、林葉直子の小説、マクドナルドのダブルチーズバーガーセット。
普段、なかなか欲しくても買えなかったものが一気に手に入るようになった。私は嬉しくて一生懸命、ルイちゃんに購入品の感想の数々を面白おかしく、彼女がいかに笑ってくれるかを考えながら話をしていた。ルイちゃんはそれをうんうんと満足そうに笑ってはくっきりとした大きな目で私を見つめていた。

そんな関係が2年半くらい過ぎた頃だろうか——
いつものように「今日は何しようか?」と声をかけた私にルイちゃんは若干もじもじしながらうつむいて小さく呟いた。
「あのね、カイちゃんにお願いがあるんだけど……実は今日1000円持ってきてないんだ。だからね、その……私のお父さんの勤め先に一緒に来て欲しいんだ」
そういった彼女の頬は赤らみ、私の顔を一切見なくなった。ずっとうつむいている彼女がなんだかとても小さく見えて、私は、今思うと変なのだが、まるで励ますかのように、
「じゃあ一緒にお父さんのところへ行こう!」
と言って、1000円を貰いに県下でも1、2番目に大きい病院へ一緒に自転車で向かった。ルイちゃんのお父さんはお医者さんだということは知っていたが、こんな大きい病院に勤めていることは知らなかったので、私は病院の入り口で入るのをためらった。しかしルイちゃんは堂々と受付へ行き、そこから一人で奥の方へと進んでいった。

消毒液の香りに緑色の病院服を着た老人たち。普段慣れない光景を目の当たりにした自分はなんて幼く、小さい世界で生きているんだろう。そんなことを思い始め、泣きそうになっていた時、ルイちゃんが戻ってきた。

「おまたせー!はい、これいつもの」
そう言って、ルイちゃんは満面の笑みで私に1000円札を手渡した。
シワのない、綺麗な新札だった。
そしてルイちゃんの表情はとてつもなく明るく、ピンクに頬を染めていたのである。

そしてそれをきっかけに私とルイちゃんはランドセルを背負いながら、週に何度か病院へ通うことになった。

しかしそんな状態がいつまでも長く続くわけがない。というより、長く続きすぎたのかもしれない。家に増え続けるグッズを見て、とうとう、私の両親に1000円のお小遣いの日々がバレてしまい、ルイちゃんの家に親と共に謝罪に行くことになってしまった。

親はこれでもかとルイちゃんの母親の前で私のお尻を叩き、茶封筒を手渡しながら何度も何度も頭を下げていた。
「金輪際、こういうことはさせませんので!!」
赤い目をしながら大声を出す母親に、ルイちゃんの母親は私と私の母を交互に見ながらこう言った。
「いえいえ私こそ、もっと気がついてあげればよかった。実は、ルイは小3の時に離婚してからずっと父親に会う口実を探していたみたいなんです。最初は寂しさを紛らわすためにカイちゃんを放課後誘っていたみたいなんですけど、だんだん日を増すごとに会いたくなったみたいで。それで勤務先に行こうと決意して、でも一人じゃ不安だから、カイちゃんを誘ったみたいなんです。こちらこそ、いつも付き合ってくれてごめんね。もう大丈夫だから、これからも仲良くしてね」
————ルイちゃんのご両親、離婚してたんだ。
本や漫画の話を笑顔で聞いてくれたルイちゃん。だけど自分の生活のことは一切話さず、聞いても話をそらすだけだった。私は好きな漫画や本を買い、おちゃらけてばかりの3年間だったが、ルイちゃんにとっては心の整理をし、父親に会いに行く勇気を身につけた時間だったんだ。
親同士が頭を下げている襖の奥で、物音がした。ルイちゃんは今、どんな顔をしているのだろうか————

そうして私たちのお小遣いは取り上げられ、商店街へも病院へも行くことはなくなった。けれどルイちゃんと一緒に図書館へ通うようになり、2人で伝記を読んではあーでもない、こーでもないと話をするようになった。
なんだお金なんて必要なかったじゃん。そう思いながら私たちは借りた本でパンパンのランドセルを背負いながら帰った。

あの日々で得たのはたくさんの漫画と本だけじゃない。
きっと2人にしかわからない、その年齢独特の寂しさや勇気や友情のあり方を学んでいた気がする。

ありがとう、ルイちゃん。

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