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メディアグランプリ

私たちは探偵を飼っている


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記事:染宮愛子(ライティング・ゼミ)

 つくづく。
 人付き合いとはサスペンスだなぁと思う。
 私が探偵で、周りは犯人。立っているのはいつでも事件現場。イメージするのはどこぞの名探偵の孫、見た目は子供で頭脳は大人な小学生、シルエットが傾いている語尾が長い刑事、麻薬中毒の英国紳士。モデルは誰でもいい、とにかく名探偵気取り。ピアノ線も包丁もガラスの灰皿も転がっちゃいないし、ましてや誰かが死んでるわけでもないけれど、謎解きのヒントはあふれている。平静を装い、情報を集めては推理タイム。アリバイ証明、シロかクロか、敵か味方か決めていく。関係者に会っては自分の推理を確認し、時には言葉に罠を潜ませ、時には新たな情報を引き出して。全ての人付き合いは、『謎』の解明に繋がっていく。

 『謎』の名前は『第一印象』。
 私たちはいつだって、『第一印象』という謎を解決するために、走り回っている。

『人を第一印象で判断する』と聞いたとき、あなたはどう思うだろう? 『そりゃそうだ』か『そんなのひどい』か。アンケートを取れば接戦になるだろうこの質問、私は『そりゃそうだ』派だ。正直、『第一印象ほど精度の高い個人情報はない』と思っている。
 といっても、昔からそんな風に考えていたわけではない。むしろ数年前までは逆で『第一印象なんか当てにならない』と思っていた。人は長い時間をかけてふれあい、言葉を交わす中でお互いを理解していくもの。一瞬の判断で決めつけるなんて、底が浅いと言われているみたいで腹が立つ……そう思っていた。

 けれど。

 自分の人生を切り開くべく、交流会に出て、セミナーに出て、人に会い、話をし、仕事の依頼をし、仕事の依頼をされていくうちに、ひとつの事実に気がついた。

『第一印象を信じたほうが、うまくいく』という事実に。

 紆余曲折、様々な出来事を通じて相手に抱く印象は『第一印象』とほぼ同じだ。トリックの内容で犯人が変わらないように、どんな情報を集めようと、全ては『第一印象の裏づけ』に落ち着いていく。
 はっきり言えば、第一印象で好印象だった人とは良好な関係に、違和感があった人とは微妙な関係になっていくのだ。相手との交流が進めば進むほど、明暗ははっきりしていく。そしてひとつの決着がついたとき、私は『第一印象の通りだった』と結論付ける。幾度となく同じことを繰り返していくうち、第一印象と結論の一致にイヤでも気がつくようになった。

 出会ったその瞬間、言葉になる前の小さな小さな『印象』。抱いたときはただの『謎』。しかし、時と経験を重ねていくうち、トリックを暴くように『どういう意味だったのか』が分かってくる。よっぽどのことがない限り、その印象が覆されることはない。犯人特定から始まるドラマ古畑任三郎のように、明かされている結論に肉付けしていくだけなのだ。

 なぜなのだろう。
 一瞬の、言葉にすらできない、何の根拠もない『印象』が、なぜ、それほどまでに精度が高いのだろう。
 
 その答えもまた、交流会などに行くうちに分かってきた。

 トリックはいたって単純。
 誰かに第一印象を持つ瞬間とは『初対面』――
『あなたのことが知りたい』が、炸裂する瞬間だからだ。

『自分の意思で、初対面の誰かに会いに行く』と聞いて、特別な場を想像しない人はいないだろう。パーティーに合コン、セミナー、入学式、入社式、面談、イベント……目的は色々だが、いずれも『出会うことを意識した』場だ。どんな人に会えるだろうと胸を高鳴らせ、素敵に見られたいと身だしなみに気合を入れる。心は新たな出会いへの期待と少しの不安に満ち、時には『今日こそいい男(女)を捕まえてやる』と意気込む。

 考えてみてほしい。
 これほどまでに、人に興味を持っている瞬間があるだろうか?
 目の前の相手がどんな人なのか知りたいと思う瞬間が、他にあるだろうか?
 さらに言えば、こちらは相手をまったく知らない。真っ白だ。合コンなら相手の職業や年齢ぐらいは知っているかもしれないが、トリビア程度だろう。
 つまり、目くらましになるような、判断を鈍らせるような材料もないのだ。

 相手を知りたいという衝動と、情報を汲み取ろうとする意思を全開にして挑む『初対面』。
 ……その瞬間の集中力は、殺人現場に居合わせた探偵に匹敵する。
 私という探偵が、持てる力を全て発揮して手に入れたひらめき。『今、自分が読み取れる、もっとも精度の高い情報』の名が『第一印象』。

 これを信じずして、一体何を信じろというのか。

 第一印象で人を判断すること。それは、ある意味もっとも誠実で、もっとも容赦ない。
 シロかクロか。合うか合わないか。好きになれるかなれないか。根拠が第一印象だった場合、その答えは揺らぐことはない。
 そして、私が第一印象で決めるということは、第一印象で判断されるということでもある。掛け値なしの一発勝負。そこで脱落するのが怖くないといえば嘘になる。けれど、出ている答えをごまかしていい結果が出たことなど、一度もない。嘘をついてしんどくなるぐらいなら、正直に切り離してもらった方がお互い幸せだと思うのだ。蟻地獄に落ちた虫のように逃げ場を失い、「もうええわ!」と叫ぶ犯人のように。

 私たちは、出会いと別れというサスペンスの中を生きている。誰もが探偵で、誰もが犯人。私が、あなたが、誰もが胸に探偵を飼い、『謎』を解こうと目を光らせる。口を開けば化かしあいの中、己の直感をよりどころにして、自分なりの解決編を生み出していく。
 もちろん、人によって精度の差はあるし、私自身まだまだ駆け出しだ。名探偵となった人生の先輩たちの鋭さに、謎解きの鮮やかさに、呆然とすることばかりだ。
 それでも、私は私なりの探偵道を探っていこうと思う。

 探偵が諦めたら、事件は迷宮入りなのだから。

 

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2016-07-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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