メディアグランプリ

仲が悪かった二人の関係を一気に好転させてしまったゲームの話



 

記事:てらっち(ライティングゼミ)

 

ゲームをプレイすることを、わたしは長い間、封印していた。

大体母でありながらゲームを始めると家族をほったらかし、家事も放棄してしまうほど熱中してしまうからだが、それでもゲームを再開しようと思ったできごとが今回のおはなし。

ゲームには、秘められた力があったのだ。

 

 

 

うちの会社は毎年研修という名目で海外旅行へ行く。

一応世間様の外聞を気にして「研修」なんてかっこつけて言っているが、ぶっちゃけ普通に楽しい旅行で、おかげでこちらはさまざまな体験をさせていただいている。

 

社員で旅行というときに一番気になるのが、「誰と一緒に行動するのか?」ということ。

部屋割りや、長時間のフライトでの隣の席は誰なのかということが主な普段の話題の中心になる。海外旅行だから、フライトでキライな人と隣になったら最後、もう4~5時間は覚悟を決めて一緒にいなければならないのだ。

 

しかもフライトでの席順は、荷物を預けたときにもらうチケットではじめてはっきりする。旅行会社に依頼したどの時点で席が決まるのかは知らないが、参加者が知るのはその時。

みなチケットをもらった途端、

 

「わたしA38!」

「わーわたしB38だから一緒だねー!」

 

と隣の人探しを始める。キャーキャー言いながら、女の探り合いが始まり、自分のチケットがビンゴの当たりくじであるように祈りながら数字を聞きあう。

 

で、今回もあった、ハズレくじ。

これは絶対モメるぞ、という組み合わせがあった。

 

会社のご意見番である70代のばあばと、まだ若いパートのAちゃんが隣の席になってしまったのである。

 

ばあばはひょうきんな人ではあるが、ご意見番と言われるだけあって、他人に対する評価がきびしく礼儀とかあいさつに非常にうるさい。誰が挨拶しなかっただの、次の人がやる仕事に気配りしていないだの、トイレの紙が5センチだけ残してあって自分が変えなきゃいけなかっただの、あの子はわたしをハブにしただの、とそこにひがみも入ってくるからタチが悪い。

 

最近入ったAちゃんはそれを全部やらかしていた。

入社そうそう社員の誰かと顔を合わせても挨拶をしない、気配りがない、トイレの紙も少し残っていても次の人のために変えない、表情がないから誰かとあっても知らんぷり。

 

当然Aちゃんはばあばから嫌われていた。

 

ばあばからみるととんでもない人材であった。

 

「あのこ、わたしの顔を見てもしらーんぷり、なんにも挨拶しないんだよ。信じらんない。だからわたしもそっぽ向いてやった」

 

いい年して、対応が子供じみているのが笑えるのだが、とにかくばあばはこの子を嫌っていた。

 

それが今回の旅行でよりによって隣の席になってしまったのである。

 

こりゃひと波乱あるぞ。今はひと波乱なくても、後できっとAちゃんのことをボロクソいうのを聞くことになるだろう。

わたしはある程度の覚悟を決めてそのフライトに臨んだのだった。

 

なんと今回は6時間もの長時間のフライトである。わたしの席は平和なメンバーにめぐまれ楽しいひと時を過ごしていたが、それに対してわたしの前の席はギスギスしていた。

そう、丁度わたしの前の席は、ばあばとAちゃんの席。

これは前の一悶着をみることができる特等席で、わたしは興味津々にちょいちょいのぞいていた。

 

「お、ゲームついてるじゃん、この飛行機」

 

隣に言われて目の前を見ると、今回乗った飛行機は思いもかけず最新型で、かなりの設備が整っていることがわかった。

座席の背面に備え付けられたテレビ画面では、映画やドラマが鑑賞できるばかりでなく、なんとゲーム機能までついていたのである。

日本のゲームにはかなわないまでも、多種多様なゲームができるようになっていた。

 

クイズ、パズル、探し物ゲーム、シューティング、上海やフロッガーもどき、スーパーマリオの簡単にしたようなアクションもの……。

 

前席では、さすが今どきのAちゃんがすぐにゲームを始めた。

ああ、ゲームがあれば穏便にすむかもしれない。とりあえずこれでAちゃんがずっとゲームをしていれば、ばあばと必要以上の話しをすることもなく、そしてそんなにモメることもなくフライトが終わるのかもしれない。

わたしは安心したような、ちょっと残念なような気持ちでいた。

 

ところがである、数時間後、このゲームが二人の関係を変えてしまったのだ。

 

食事も終わり、しばらくして前をのぞくと、なんと二人は楽しそうに笑っているではないか。

 

驚いたことに、ばあばはAちゃんの画面をのぞきこみ、彼女のプレイの様子に一喜一憂しているのだ。

 

「ああー! 落ちちゃった! もう少しだったのにねえ」

「もう悔しいなあ! ホントこれをクリアすれば次の画面だったんですけどねー」

 

Aちゃんもにこやかに返事をしている。

あの表情のない彼女が笑っているのだ!

 

さらにしばらくすると一緒に対戦していた。(なんとこの飛行機についていたゲームは他の席の人を指定して対戦もできるのだ)もちろんばあばは勝てないが、笑いながら教わって遊んでいる。

 

斜め前に座っている検査の主任も割り込んで、Aちゃんと対戦し始めると

 

「やっつけちゃえ!」

 

と、ばあばとAちゃんは盛り上がった。

二人は明らかにゲームを楽しんでいた。

 

わたしが二人の様子をみてふと思い出したのは、ゲームは人生に素晴らしい効果がある、と提唱しているジェイン・マクゴニガルというアメリカの美人博士のことだった。

彼女は著書の中で

 

「ゲームには絆を深める力がある」

 

なんてことを言っていたが、まさに、それが目の前で実証されているではないか。

 

ゲームという共通の体験をすることで、絶対に理解し合うなんてことのないと思われていた二人が仲良くなるきっかけになったのである。

もちろん、それから二人は会社でも話しをするようになったし、Aちゃんも自分から挨拶をするようになった。

 

二人の関係はゲームから変わったのである。

 

たかがゲーム、なんて馬鹿にしていたらとんでもない。

目が悪くなり、勉強もしなくなり、家事もしなくなり(これはわたしか?)、いいことなんてない、なんて思っていたら大間違いだ。

 

そういえば、我が家のダンナもスマホのゲームを子供たちと一緒にプレイしたり、教えてもらうことでコミュニケーションができている。

 

わたしもゲームとの付き合い方を考え直した方がいいかもしれない。もちろん、家事がおざなりにならない程度にね。

 

ゲームには、人間関係を変えてしまうほどの力がある、そんなことを肌で知った、ある旅の一幕だった。

 

 

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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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