メディアグランプリ

生きるにおもいをはせるところ、豊島(てしま)


記事:矢奈川あやこ(ライティング・ゼミ)

 

弧をえがくまっしろなかべ。

光がふりそそぐふたつのおおきな明かりとり。

 

風にゆれてキラキラひかるひとすじのリボン。

まあるい明かりとりには、青空をゆく雲と山のみね。

 

床からうまれる水てきのふくらみ。

水てきたちがつくるいくつものみずたまり。

 

森からきこえる鳥のこえ。

ときたま、ひとのこえがシュワシュワとこだまする。

 

これは、水てきのかたちをしたまっしろな建物のなかにあったもの。その建物はわたしが2月にたずねた豊島美術館の「母型」と名づけられた建築アート。柱がないコンクリート・シェル構造の内藤礼による作品だ。「地上の生をみつめている何かを感じるように」とつくられたひとつの器。1日のおわりに、みずたまりはあつまり、ひとつの泉になる。

 

40m×60mの広さがある白い空間。40人ものひとがいるのに、ゆったりとした静寂にみちていた。きっとそこには、二度とおなじ空間はやってこない。空気の色もみずたまりのかたちや数も音もおなじようで毎日ちがう。そこにいるひとびとは、自由にしずかに空間をたのしむ。ゆっくりゆっくりあるいたり、水てきのうまれるところをじっとながめたり。禅をくんだり、ねそべったり。ただただじっと立ちつくし、涙をながすひともいた。ときがゆっくりながれる空間。

 

 

 

――空間というのは、そういうふうに、

そのものとして自然なものに戻っていくように生まれてくるのだろう

内藤 礼

(引用:豊島美術館ハンドブックp33)

 

そういうおもいが込められたアート。

空間そのものを感じるアートだ。

 

 

最近の7月9日。豊島美術館が「専門家が選ぶ 建物が魅力的な美術館・ベスト10」の1位として日経プラスワンに掲載があった。すこしうれしくなってしまう。わたしは、「一番好きな美術館は?」ときかれたら「豊島美術館」というほどだから。ここは海外での人気も高い。たまたま来た某海外セレブがほれ込んで、当日の予定をキャンセルし滞在時間をながくしたという話をガイドさんにきいた。そんなふうに感銘をうけた海外セレブがSNSで拡散して海外で有名なっていったという話もある。そのおかげか外国人はたしかに多かった。

 

香川県豊島唐櫃(からと)区の瀬戸内海を望む小高い丘。そこに広がる棚田と一体かのように豊島美術館はある。わたしは、唐櫃港からレンタサイクルをかりて棚田の風景を横に坂をのぼった。実は、棚田の景色が美しいのと美術館があまりに自然になじみすぎていて、いちど入口を通り過ぎてしまった。港からは電動自転車で15分ほど。

 

 

この面積14.61キロ平方メートルの小さな島には、苦々しい歴史がある。おいしい農作物ができる豊かな島として有名だった豊島。ところが1965年頃、法の抜け穴を使い産廃の不法処理をする業者があらわれる。それは、相次ぐ健康被害と評判だった農作物への風評被害をもたらした。地元のひとびとの過酷な戦いがはじまる。島民が中坊公平弁護士を代表に草の根の闘いをした有名な実話だ。公害調停までのみちのりは発端から25年。2000年に決着をみる。しかし、総量93万8千トンにおよぶ廃棄物と汚染土壌の処理はいまだつづく。終了予定は2016年10月だそうだ。日本初といっていい大規模な原状回復がこの島で行われている。

 

 

そんな歴史のなかで、豊島美術館は、自然、地域とつながる美術館をめざす。そして、訪れる人々が豊島の自然の美しさを感じる美術館であることもめざす。「母型」は一度は死んだ小さな島が再生したあかしのひとつ。豊島にはアート施設が他にもある。人々が生きたあかしとして心臓音を収集するプロジェクトに参加できる「心臓音のアーカイブ」(クリスチャン・ボルタンスキー)や横尾忠則が死と正面から向き合い制作した作品が多く展示される「豊島横尾館」などだ。生きることと向き合うテーマがこの小さな島にある。

 

わたしは「豊島美術館」⇒「心臓音のアーカイブ」⇒「豊島横尾館」の順でまわった。横尾の地獄絵図的な世界観に生きることの泥臭さと人生のはかなさをおもいせつなくなり、心臓音がおりなす命の躍動感に希望をもらった。どちらも豊島美術館の空間で感じたゆるやかな静寂との対比がさらに感じ方をふかくさせる。生まれることと生きることと死ぬことをゆっくりと感じるアートたち。なんだかお寺めぐりをしているみたいとふとおもった。

 

 

 

――地上に存在していることは、それ自体、祝福であるのか

内藤礼

(引用:豊島美術館ハンドブックp35)

 

 

こんなテーマにおもいをはせながらゆっくりとした時間をすごす、そんなことができる豊かな島。豊島。瀬戸内国際芸術祭の開催期(今夏期は7月18日から9月4日)はとっても混雑するので、会期をさけての訪問がおすすめだ。

 

 

 

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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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