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メディアグランプリ

「運動不足でしょうね」その一言は、私の人生を診断していた。


記事:重冨弘太郎(ライティング・ゼミ)

「運動不足でしょうね」

そう言いながらデスク脇の棚を物色し、ストレッチの勧めなるモノが取り出された。

「今うちには、ご年配の方向けのモノしかないんだけど……」

渡された冊子には、満面の笑みを浮かべた老人のイラストが描かれていた。

もう2冊目だ。

「またか……」

そんなことを思いながら受け取り、診察室を後にした。
私は今年で25歳。
まだ若いと思っていたし、周りからもまだ若いんだからと言われるが、この歳で医者から2度も運動不足が原因だと診断されてしまった。

運動……してないもんな。

中学、高校と帰宅部。だからと言って、運動が苦手なわけでもない。
スポーツが嫌いなわけでもなかったが、部活動には入らなかった。あまり積極的に行動できる人間ではなかったからだろう。
放課後には公園で近所の大学生たちとサッカーをし、学校のスポーツテストなるものでも運動部の生徒と張り合っていたと思う。持久走は苦手だったが、短距離走は……

一般の人より足の筋肉はしっかりしている。
そんな気持ちで、少しおごっていたのかもしれない。

大学でサッカーサークルに入ったのだが、その時にはすでに若干の衰えを感じていた。意思に反して身体がついていかないのだ。走り方も変わった気がする。
そして、社会人になると尚更運動する機会なんてなくなってしまう。
大学卒業から2年あまりで膝が悲鳴を上げた。治ったかと思うと腰がやられた。

正直ショックだった。

身長178cm、体重63kg。
高校の頃から、身長が3cmと体重が5kgほど増えた程度で健康な体だと思っていた私に現実が突きつけられた形だ。
そういえば、同じような経験をしたことがある。

ある大学から不合格通知をもらった時のことだ。
予想もしていなかったその通知に、私の人生は今まで見えていなかった新たな道を辿ることとなった。
そのくらい私は、その不合格通知をもらった大学に必ず合格できる実力があるとおごっていたのだ。
「お前に、そんな実力はない」
そう強く突き放された気分だった。

私の前に残された選択肢は2つ。
浪人し再挑戦するか、眼中になかった地方の大学に進学するか。
この予想していなかった選択に、悶々とした数日を費やした。

仕方なく目を通していた大学の入学案内に、一筋の希望を見出すまでは。
私の目に留まったそのパンフレットには、外国人留学生と一緒に生活する寮が紹介されていた。
私は、英語が大の苦手科目だった。この英語が、私の足を引っ張ったことは言うまでもない。それまで英語の必要性を感じず、学ぼうとしてこなかった。
そんな私に、このパンフレットが外国語を身近に使う場所へ挑戦することを提案してくれたのだ。

私はその学生寮に入った。
約40人の留学生と60人の日本人学生との共同生活だった。
私は毎晩のように共有スペースに居座り、交流を図った。

この挑戦は、私に良い変化をもたらした。良い変化しかなかったと思う。

外国人の友だちは100人、200人と増えて行き、片言の英語でも会話がしたくて使うようになっていた。
韓国人の友人の割合が多いこともあり、自然に韓国語を聞き取ることができるようになり、意味を理解できるようにもなった。
海外にも積極的に行くようになり、東南アジアやアフリカにも行った。
彼らの楽しそうな日本留学の様子に感化され、交換留学を目指すことにも一生懸命取り組むことができた。
今まで部活動をしてこなかったこともあり、私に初めて先輩ができたのもこの寮内だ。
卒業する頃には、私は積極的になっていた。
今では英語の必要性を感じないどころか、英語を必要としない生活では物足りず、無理してでも海外に行きたくなるほどだ。
高校までの私しか知らない人は、どう思うのだろうか。

しかし、世の中から見たら、私の変化なんて小さなことかもしれない。
それでも、私の人生においては大きな変化だ。

人は、自分のことは自分が一番よく知っている。
しかし、普段から自分のことを客観的に見るのは難しい。
そのチャンスは、日常の些細なことの中にあるのかもしれない。

今、私は運動不足であることに気づくことができた。
今、しなきゃいけないことは、新たな運動に挑戦することだろう。

私は今、処方箋を見ている。
ボルダリング、ヨガ、水泳……どのパンフレットにも興味がある。
数あるものの中から私は何を選ぶのだろうか。

この選択は、私の人生の処方薬となる。

今、この挑戦をすることが、明日の私を作ることを知っているから。
 

***
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2016-07-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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