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占い? そんなもの信じないためにあるようなものよ

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記事:土田 ひとみ(ライティング・ゼミ)

「東京に出て行く!?
あなた29歳よね。ハタチそこらの娘ならまだしも、今さらその歳でいったい何をしに行くわけ!?」

占い師は、突然大きな声で言った。
そして、今まで行儀よく揃えていた脚を荒っぽく組み、椅子の背もたれに大きく寄りかかり、話し続けた。

「だいたい……!」

さっきまで私を「お客さん」みたいに扱っていたのに。
私のある一言をきっかけに、占い師は急に横柄な態度に変わったのだ。全力で私を否定するかのように。

その日私は、よく当たると噂の占い師を訪ねていた。
夢なし、カレシなしのアラサー女。
自分の意思では何も決められない、ゆらりゆられ、流され続けた挙句、占いに頼ろうとしているどうしようもない奴だ。
「私はこの先、いったいどうやって生きていきたいのだろう……」
そんなことも分からず、日々過ごしていた。

山形で生まれ、
山形で育ち、
山形の看護学校に進学し、
山形の公立病院に看護師として就職した。

公務員だった私は、田舎の小さな街では「良い勤め先ね」とか「一生安泰で幸せね」とか言われていた。
「公務員は良い」という、周りの価値観を鵜呑みにし、私自身も何の迷いもなく公立病院を第一志望としていた。
両親は、「あとは結婚さえしてくれたら、言うことなしだ」と冗談混じりによく言っていた。

私は、周りから見れば幸せな方だった。でも、いつも心の中で思っていた。

「私だって結婚したいよ。
それに…… 何か『私にしかできないたったひとつの道』を見つけたい」と。

なぜ、私が「私にしかできないたったひとつの道」にこだわるかと言うと、幼い頃父が言った言葉が胸に突き刺さっているからだ。

「国語も算数も全部できなくていい。
でも、これだけは誰にも負けないという『たったひとつの道』を見つけなさい」
普段真面目なことを言わない父だからこそ、この言葉は私の胸に突き刺さったのだ。

私の父は自動車整備士。
学歴はない。ただ、技術一本で生きてきたので、腕には自信を持っている。小さな整備工場を経営し、細々とだがお客さんを大切にして今日までやってきている。
それが父の「誰にも負けないたったひとつの道」だ。

私も父のように、自信を持って「たったひとつの道」を歩みたい。

しかし、看護師になったものの、どんな風にキャリアアップしたいかも分からなかったし、早く孫の顔が見たいという両親に親孝行もできずにいた。
何もかもが中途半端で、自分が嫌いだった。私は変わりたかった。
だから、私は占いに来たのだ。

「あの……、私、結婚できますか?」弱々しく言うと、占い師は優しく答えた。

「結婚したいのね。結婚はできるわよ。でも、今すぐでは無さそうね。31歳は過ぎるでしょう。いい人はいないの?」

「はぁ……。全くいません。恋愛が苦手なんです」

「そうなのね。でも結婚はできるわ、大丈夫よ。他に、何か聞きたいことはある?」

「ええっと……。仕事……ですかね? 特に今の職場に不満はないんですけど、何と言うか、この先どんな風に進んでいけば良いのか分からなくて」

「なるほどね。あなた、看護師をしているのね。立派な職業じゃない。今のまま進んでいけば良いと思うわよ」

「今のまま……。でも、今のままでは何か嫌なんです。何と言うか、『私にしかできないこと』をしたいんです。病院に革命を起こすとか……」

「あら、意外と野心家ね。何か病院に提案してみたことあるの?」

「いえ、ありません。具体的にどうとかは分からないんですけど、『何か』をやりたいんです。起業するでもいいし、今の病院で力を発揮するでもいいし……。とにかく『何か』なんです」

「うーん。『何か』と言ってもね。具体的にやりたいことも見つからないなら、やりようがないんじゃない?」

だんだん、占い師の言い方が投げやりになってきたのを感じた。
その気持ちも分かる。
夢も目標もないのに「何か」をやりたいだなんて、バカか。私だって私自身に呆れている。

しかし、呆れた気持ちとは裏腹に、私は突然強気に発言していた。

「でも、やりたいんです! 私、今の職場を辞めて東京に行こうかと考えています。新しいことにチャレンジして、もっと自分を試してみたいんです!」

なぜだか自分でも分からない。
私の心の奥の方で爆発してしまったようだ。東京に行きたいだなんて、自分の中ですらまとまっていなかった考えを、急にこの場でカミングアウトしてしまったのだ。

そして、私のこの発言から、占い師の態度は急変した。

「東京に出て行く!? あなた29歳よね。ハタチそこらの娘ならまだしも、今さらその歳でいったい何をしにいくわけ!?
だいたい、山形から一歩も出たことがない人間が、目標もなく東京に行ったところでダメになるだけよ。
しかもさっき、結婚もしたいと言ってなかった!? ますます婚期は遅れるわよ!」

私は腹が立った。

何かを変えたくてここに来たのだ。こんな一般常識でねじ伏せられるためにここに来たわけじゃない!
お前は近所のオバサンか!!

私は強い口調で言い返した。
「今さらその歳でって……。でも今が人生の中で一番若いじゃないですか! 何もせずにこのまま終わるより、チャレンジした方がいいと思っているんです!」

占い師も、相変わらずの口調で返してきた。

「そう言って泣いて帰って来た人を何人も見てるのよ。あなたもそうなるに決まっている。まあ、どうしても東京に行くというなら行ったらいいんじゃない!?」

「はい! 行きます!!!」

まさに売り言葉に買い言葉。
今まで上京するなんて怖くて決断できなかったのに、こんなところで宣言してしまった。自分自身に驚いていると、占い師はさらに私を腹立たせてくれた。

「東京に行ったらますます結婚は遅れるわよ。うーん、35歳は過ぎるわね。まあ、頑張ってね」

……くっ!!!
痛いところをついてくるぜ!
何が「頑張ってね」だ! そんなこと思ってもないくせに!!

私はもう返事をせずに、ただ頷いた。そして心の中でこう誓った。

「こうなったら、何がなんでも東京に行って、夢も結婚もつかんでやる!! お前が言う婚期、『35歳』になる前にな!!!」

それから私は公立病院を辞めた。
生まれてはじめて上京し、新たな環境でチャレンジをした。

占い師が言ったことの、真逆のことをしてやったのだ。

確かに、アラサーで上京はキツかった。
周りからも笑われたし、両親からも反対されたし、新たな環境でチャレンジといっても押し潰されそうな日々だった。
でも、あの日占い師に感じた怒りを思い出し、
「絶対に、山形に泣き帰るもんか!」と踏ん張ることができた。
占いの通りに「35歳」に結婚をしたら悔しいので、死に物狂いで婚活にも励んだ。

「今に見てろよ!占い師!!
お前の占いは全く当たらなかったと言いふらしてやるー!!」

そして月日は流れ、私は31歳で結婚をした。
そして、「たったひとつの道」を見つけ、夢を叶えようと今日も必死だ。
とても充実していて、幸せな人生を歩んでいる。

占いを全く信じなかったから、この幸せな日々を手に入れたのだ。

「あのニセ占い師め! 全く当たらなかったじゃないか! やーい! ざまあみろ~!」
……と言いたいところだが、あの占い師のおかげで今の幸せな人生があるのではないかと言う気もする。

占い師は、世間の荒波を代弁してくれ、それに打ち勝つための「勇気」や「根性」を引き出してくれたのかもしれない。
29歳までやりたいことも見つからず、周りに流されてきた私の本気度を試してくれていたのかもしれない。
弱々しく「何か」をやりたいなんて言っていた私に、活を入れてくれたのかもしれない。

実際、挫けそうなときあの日の悔しさを思い出して乗り越えてこられたのだ。
そう思えば、感謝の気持ちも芽生えてくる。

いや、しかし!
今思い出しても腹が立つ! やっぱり、ざまあみろだ!
あなたの占いを信じなかったから私は幸せになったんだ!

……でもありがとう。礼くらい言ってやるわ。

 

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2016-07-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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