メディアグランプリ

いつも酒臭い課長がキュートな存在になったワケ


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記事:中村美香さま(ライティング・ゼミ)

「あ! このテレホンカード! 懐かしいな」
「どれ?」
と言って、古い手紙の整理をしていた私の手元を息子がのぞき込む。
「かわいい絵だね。でもなんでいちごの絵なの?」
「うん。これはね……」

私は以前、某銀行に勤めていた。短大を卒業し、入行したのは、銀座の京橋寄りの端にある小さな支店だった。

最初に配属されたのは、「業務一課」という「預金」「振込」「税金」などを担当する部署だった。まずは、使い切った通帳を新しくする作業や、お金を機械で数える作業を習った。カウンターの奥からロビーに向かって
「いらっしゃいませ」
「ありがとうございました」
と元気に言うことも大事な仕事のひとつだった。

「正確」「迅速」「丁寧」を合言葉に、フレッシュさも求められる新人は、ガチガチに緊張しながら、ノートいっぱいにメモを取って仕事を覚えることに必死だった。

初めての課長は、ひとことで言うと「真面目」な人。自分に厳しくて、他人にも厳しい。私も慎重に仕事をしていたが、何度かひどく注意されたことがあった。凹みながらも「課長とはそういうものなんだ」と思っていた。

そして、私が3年目の時に課長が変わった。新しい課長は、それまでの課長とは全く違うタイプで戸惑った。とにかく、酒臭い。そして、ほとんど席にいなかった。じゃあどこにいたのかというと、ロビー。酒臭さにお客さまが気づかないかと私はいつもハラハラしていた。

厳しい分、きちんとしているところがしっくりきていた前の課長のやり方と全く違って、いい加減な今度の課長は、いちいち私をイラつかせた。

ある日電話対応していた時も、お客さまに手続き上できないことを言われて、怒鳴られながらも必死に断っていたのに
「上司を出せ!」
と言われて電話を課長に変わったら、あっさり依頼を受けたのには激怒した。あまりの怒りに、副支店長に
「私、必死で手続きに従って、がんばってお断りしていたんです! なのに、あっさり受けてしまうなんてひどいです! せめて、『今回は特別に……』くらいもったいぶってほしかったです!」
と言いつけてしまったほどだった。

副支店長には
「二人ともそれぞれの立場でしっかり仕事しているよ」
とたしなめられてしまったので
「でも、いつもお酒臭いのはどうかと思います」
と付け足したら、苦笑いしていた。

本当に嫌だなと思っていた。けれども、嫌いな分よく見ていたからか、ハッとすることもあった。

前の課長は、ほぼずっと席に座っていて、例えば、窓口で、女性行員が困っていても、フォローに来てくれることはほとんどなかった。けれど、課長は、酒臭さを漂わせながらも、何か、トラブルらしいものが発生すると
「いらっしゃいませ」
と言いながら、ロビーマンのようにすぐ側に来てくれた。

窓口の女性行員に対しては、多少きつめの態度のお客さまでも、男性行員が側にいると意外にトラブルになりにくかった。

へえー、何にもしてくれないわけではないんだ! 生意気にも私は少し見直した。その後、少しずつ、私の課長に対する見方が変わってきて、前の課長と比べて、必ずしもひどいわけではないと思うようになった。そうしたら、課長の酒臭さやいいかげんさもなんだか面白く感じてきた。いつしか課長は私の中でキュートな存在に変わっていった。

時々、冗談を言って笑い合うくらいになったときに、私は他支店に転勤になった。私が5年目の秋のことだった。

この支店がとても好きだったから、すごくショックだった。

私のメインの担当は「預金」だったのに、転勤先のポジションは「振込」「税金」だったことを知り、さらに落ち込んだ。私は嫌われて転勤させられるのかもしれないと思った。

送別会では、ボロボロ泣いた。花束やら、プレゼントやらをたくさん抱えて追い出されるように店を後にした……。

幸い、次の支店の仲間や仕事にも恵まれ、
「前からいるみたいだね」
と言われるくらいすぐに溶け込むことができた。

だけど、どうして私が転勤になったんだろう? という疑問はずっと残ったままだった。

しばらくして、あの課長が、とある支店に転勤すると知った。「課長に転勤させられた」というモヤモヤしたものはあったものの、挨拶したかったので、送別会に参加させてもらった。

お酌しに行ったときに、酔いに任せてあの疑問をぶつけてみた……。

「課長、どうして、あの時の転勤は私だったんですか?」
すると課長は少し黙って、そして言った。
「向こうからの条件的には、あなたか○○さんがいいと思ってさ」
○○さんは私より一歳年上の「為替」「税金」をメインにしている先輩だった。
「どうして○○さんじゃなくて、私?」
「あなたの方が、若かったから。一歳でも若い方が新しいところに馴染みやすいんじゃないかと思って」
「……あ、そうですか」

別に、新しい職場が嫌なわけではないのに、今更、なんで理由を聞いたんだろうと思いながら、そして、一歳でも若い方が……ってなんだよ! と思いながら、それでも嫌われていたわけではないと知って、ちょっとホッとした。

「あっ、課長! そういえば、みんながもらったっていうテレホンカード、私も欲しいです!」
「あっ、あれね。今日は持ってないから、後で送るよ」
「わかりました。絶対欲しいんで、絶対送ってくださいね!」

噂を聞いて、どうしても欲しかった課長がデザインしたオリジナルのテレホンカード!

しばらくたったある日、自宅のポストに白い封筒が届いた。課長からだった。

渡すのが遅れた詫びがしたためられた手紙と共に、一枚のテレホンカードが入っていた。

いちごの絵がひとつ描いてあり、そのそばに『いちご一絵』と書いてあった。いちごの点々がランダムではなく整列していたことが妙におかしかった。

一期一会かぁ……。

肩書を見ると、つい立派さを期待してしまったり、自分の知っているその肩書の誰かと比較してしまったりする。だけど、課長も毎日お酒が飲みたくなるくらい何かを抱えていたのかもしれない。

大嫌いだったけれど、ちょっと好きになれたのは、相手を一面からだけでなく、違った角度から見られるきっかけがあったからかもしれないな。

封筒に手紙とテレホンカードをしまいながら、ふと、そう思った。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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