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理想の“カレ”探しに終止符を打てるのは、いったいいつ?


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松浦さま

 

 

<記事>松浦美穂(平日ライティングゼミ)

 

 

 

「髪をまかせるのは、男に身をまかせるのにちょっと似ている」

 

ある女性作家が男性美容師を語ったこの言葉を読んだとき、私はまだ男を知らなかったが、「なるほどー」と妙に納得した。

他人、しかも男性に一部とはいえ、体に触れさせるのは、医療関係者以外なら美容師ぐらいである。医者や整体師なら、体に不具合があって行くのだから、「とにかく治してください」という一念のみで、セクシャルな感覚など、ほぼ持たないだろう。まあ、相手がよほどイケメンだったらまた違うかもしれないが。

 

美容師は女性の「キレイにしてください」の願いを一身に受ける。かなり真剣な女性との対峙である。女性側からしても、相当無防備な姿をさらす。どうなりたいか女性は希望を伝え、それが漠としたものであっても美容師は女性の望みをイメージし、髪をつくる。そのやり取りは、実はけっこう濃いコミュニケーションである。そして一度髪にハサミを入れられたら、もう後には戻れない。最後まで行くところまで行くしかない。その美容師と二人、一緒に。

 

女性作家が語った言葉を勝手にそう解釈した私は、男性美容師を「そういう目」で見ることにした。以来、私は美容院で男性美容師のみを指名し続ける。

 

「そういう目」で見るようになってから、私は美容師の仕事ぶりに目を凝らすようになった。手早く、よどみなく、無駄なく髪をすくい上げ、ハサミを動かす指、そして手。ああ、これ以上セクシーな男の手の動きがあろうか。パソコンのキーボードの上を行き来するだけの手とは比べものにならない。それは作業と言えば作業だが、失敗は許されない。真剣勝負をしている動きがセクシーでないわけがない。確かにこれは身を任せる価値があるというものだ。

私の思いはさらに深くなっていく。

 

大学のサークルの先輩でNさんという女性がいた。Nさんは、当時トレンドだったロングのカーリーヘアにしていた。スラリと背が高く、細身で顔が小さいNさんにカーリーヘアはよく似合い、彼女の魅力を際立たせていた。

実際、Nさんは男子にモテた。めちゃくちゃモテた。

当時私が憧れていた男性もNさんが好きだった。「孤高の人」というイメージなのに、柔らかな雰囲気があって、知的で、なのに学生会館封鎖の先頭に立ち、警察にお世話になったというワイルドな面もあるその彼に、私は心底シビれていた。だからその彼がNさんを好きで、彼女の自宅近くに住まいを移したと知ったときは、ショックだった。ちなみに、二人は付き合っていたのでなく、彼の片想いだった。

Nさんへの想いから引越しまで!

私はNさんに嫉妬ではなく、羨望を抱いた。

 

Nさんの姿に一歩でも近づきたいという思いが高じた私は、あろうことか、そのカーリーヘアに挑むという暴挙に出た。Nさんの素敵さが、私とNさんの容姿が真逆だという事実への客観性を完全に失わせていた。

 

当時、私が「身を任せていた」のは、学校の近くにある美容院のユウさんだった。「そういう目」で改めて男性美容師を見るようになってから、月に一度髪を切りに行くことを、ユウさんとの月一の逢瀬と、私は妄想していた。

しかし、ユウさんとのやり取りは、彼自身のキャラクターなのか、仕事という割り切りなのか、実に淡々としたもので、彼と会う張り合いはまったくもってなかった。そして格別素敵にもならなかった。

 

カーリーヘアづくりは、私の“下心”など、入る余地のない作業だった。相談して、提案されて、検討して、二人で作り上げていく深いコミュニケーションなど必要なかった。

「カーリーにしてください」。

私のリクエストに、ユウさんはふたつ返事で作業にとりかかかった。

 

そして……。

 

スタッフが3人がかりで大量のロットを巻きいの、長時間待ちいの、ロットを外しいので、かかること4時間以上。大仕事の末、仕上がったのはカーリーではなく、アフロだった。まんまるの大きな顔に大きなチリチリヘアがのっかった滑稽な姿に、私は混乱しすぎて、泣いていいのか、怒っていいのか、笑っていいのか反応ができない。ただただ美容院のイスの上で固まっていた。周りのスタッフたちは笑いをこらえている。ユウさんは明らかに焦っている。焦ってはいるが、しかし謝るふうもない。

 

帰り際、ユウさんは「もし、直したいということでしたら、また来てください」と、さらりと言った。悲しいとも、ムカつくとも、何とも言い難い気持ちだったが、思い返すと、そういうコトにはなったが、その行為にも別れ際にもこれっぽちの愛も感じられず、惨めな思いで別れた、という後に現実のオトコに散々味わされた感覚に酷似していた。

 

私の容姿はNさんに近づくどころか、むしろ遠ざかった。

憧れの男性に失恋し、美容師にも失恋した私の心に刻まれたのは、

「何も考えていないオトコに身をまかせてはいけない」だった。

 

カーリーヘアの一件の後も、私は美容師に期待しては裏切られ、オトコ遍歴を重ねた。

どうして、一人のオトコで続かないのだろう。

「今度はいいかも」と思って逢い続けるが、しばらくすると、「アレ?」となる。

私のワガママなのか、求めるものが大き過ぎるのか、相性なのか、縁なのか。

 

悶々としているところに登場したのが、タッキーだった。

 

タッキーは、これまでの美容師とまったくタイプが違っていた。

受け答えがナマケモノ並みの遅さなのに、ハサミを持つと別人のようにスピーディーで、指摘は的確、かつ彼なりのキレイやカワイイの解釈があった。

 

「前髪を切ってみたいんですけど、どうでしょう」との私の問いに、

「う〜ん・・・・・。切ると可愛くなっちゃうと思うんですよね」と答えた。

「それでいいじゃないか!」

「う〜ん……」

私が可愛くなるのは、タッキー的にダメらしかった。

 

可愛くなってはいけないならと、私はある日、「美人に見えるようにしてください」と言ってみた。タッキーは「えー」と言いながら、ズリズリ後ずさりした。

ヘアスタイルの出来よりタッキーの反応が面白く、リクエストは抽象化していく。

 

「モテるようにしてください」。

ある日、リクエストしてみた。

漠然とし過ぎている。

タッキーは、ちょっと困った顔をしていたが、

「何歳の人にモテたいですかぁ?」といつもののんびとした口調で聞いてきた。

「え?」

予想外の質問だった。

「20代と30代と40代と50代では、ウケるヘアスタイルは違うんですよぉ」

なるほど、ごもっとも。

しかし、私を見て20代の男子もターゲットに入れるか?

「20代いけますか?」

「はい、いけます」

これまたタッキー的には、ヘアスタイルで何歳にでもモテるようにできるらしかった。

可愛いのはダメ、美人は後ずさりするほど抵抗、なのにモテるようにはできると言う。わからない。

 

私は完全にタッキーのペースに呑み込まれ、どんな仕上がりも「タッキーだからこれなんだ」と、思うようになった。

しかも、「身をまかせている」感をなぜかタッキーには持てない。持とうとしても持てない。手の動きを見ても、セクシーさを感じない。

この感覚は何なんだ?

 

! もしや、これは、タッキーを受け入れているから、そう感じるのではないのか?!

タッキーの手の動きはセクシーというのではなく、といって単に作業をしているというのでもない、意思を持ち、目的地に向かって走っている。そんな感じだ。

それでいいんじゃないのか?

そして、これからもずっとタッキーでいいんじゃないか?

 

その日、タッキーの店に行ったのは、予約どおり、かっきり午後2時だった。ところが、ドアが開かない。押しても引いても開かない。店のガラス越しに中を覗いても、タッキーの姿が見えない。土曜日である。営業していないわけがない。

こうなったらと、道行く人の視線を気にしつつ、私は店のドアをドカドカ叩いた。

「頼もう!」。

店の中に人影が見え、ドアが静かに開いた。

「頼もうって。あの、いますから」。

「だって、開かない……」

言いながら、身長180センチあるタッキーを見上げると、その目が濡れて光っている。タッキーは私をイスに促した。わずかな時間の沈黙。

 

「今日はどうしますぅ?」

いつものタッキーだった。

その日、決めていたヘアスタイルの写真を示すと、「ああ、いいんじゃないですか」と、珍しく素直な言葉が返ってきた。

目が濡れていた、と思ったのは、私の見間違いだったのか。

 

タッキーは、いつものように走り始めた。

タッキーを見ながら、「へアスタイリングって、二人三脚なのではないか」と、ふと思った。美容師の足元をおぼつかなくさせ、結果、転んでしまうのは、伴走者、つまり私のリクエストの仕方が悪いからかもしれない。

そんなことをぼんやり思った。

 

仕上がったスタイルは、示した写真のとおりでありながら、それ以上に私にフィットしていた。

二人で歓声を上げた。

「おー!!」

タッキーは鏡越しに「さすが、テンサ〜イ」と弾んだ声で自画自賛した。

私は「ほんと、この人、天才かも」と思った。

もう、タッキーでいい。タッキーでいいんだ!

 

お会計をしながら、タッキーの濡れた目のことを思い出した。

「あの」と言ったのは、二人同時だった。

「あ、どうぞ」と発言権を譲った。

「あの〜、僕、この店を閉めるんで」

「へ?」

「前からお願いしてた、知り合いのパリの店へ行けることになったんですよぉ」

 

ハー!?

じゃ、あれは、うれし泣き?

店のドアを閉めてまで、一人うれし涙にくれていたってわけか。

問いただしてみる。

「ここまで大変だったんですよ。ホント、うれしくて」

「私はどうすればいいのさ!」

「はぁ、すみませ〜ん」

 

タッキーはその夏、パリに発った。

 

私の“カレ”探しは、終わらない。

 

 

 


2016-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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