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58歳専業主婦の母は今、青春真っ只中!


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記事:ちゃめさま(ライティング・ゼミ)

母から「2年ぶりくらいに舞台がある」という連絡を受け、久々に実家に帰ってきた。

甲府の夏は、暑い。全国1位の暑さといえば、埼玉県の熊谷だが、熊谷の気温が40度近いとき、大体僅差で負けているのが甲府だ。母はよく「どうせ暑いならば日本一になって全国に知らしめたい。悔しい」と、持ち前の負けず嫌い精神を隠さない発言をしている。

正直、この季節に甲府に帰るのはあまり気が進まないのだが、母ももう60近い。いつまで舞台に立っていられるものかと、突然に感傷的な気分に襲われたのだ。わたしは両親とはとても仲がよく、たまに旅行にも行くが、よくよく考えると母の舞台を見に行ったことがない。なんだかかわいそうな気もしてきた。

新宿駅で母が好きそうな可愛らしいブーケを買い、特急「かいじ」に乗る。新宿から甲府は特急で約1時間半。「あずさ」も甲府を通るのだが、「あずさ」は松本行きで長野まで行く電車だ。わたしは、たまに寝過ごして長野の方まで行ってしまい、駅までお迎えにきていた母に叱られる。だから「かいじ」に乗る。「かいじ」は甲府かその隣駅が終点だから、安心である。

暑さもやわらいだ時間に「かいじ」を降りると、珍しく父が迎えにきていた。明日に本番を控えた母は、今日もリハーサルで夜遅くまで練習があるからだ。羨ましいくらいに仲のよい両親。定年退職がない仕事でいまだに月に休みが3日ほどしかない父ではあるが、毎年母の舞台を欠かさず見に行っている。明日の舞台も当然見に行く。

実家に着いたのは22時過ぎであったが、母はまだ帰っていない。23時15分を回ってようやく母は帰ってきた。地方なので電車の便は悪い。練習には自分で運転して通っている。

ひょうきんで話し好きな母は、普段、最近食べておいしかったレストランやスポーツクラブの友人の笑い話について次から次へと話が途切れることがないのだが、この日は形相が違っていた。ブーケを渡したのだが、ほとんど見向きもしない。

「今日の練習ではアオキさんが怪我で脱落した。
マキちゃんも、フミさんも1週間前に怪我。
わたしももう、限界。こんなにテーピングして、ぼろぼろなのよ!
こんなに疲れきっている!
明日にちゃんと踊りきれるか緊張で。緊張で」

と殺気立っていて、確かに足はテーピングでぐるぐる巻きになっている。

まるでその姿は、部活の試合前日の高校生のようであった。
普段から年齢の割に若く見られる彼女はよく40代前半くらいと間違われるのだが、この日はむしろ、部活に自分の青春すべてをかけて打ち込む、一人の少女のように見えた。

翌日、土曜日。本番は、市民会館で行われるので、父とともに車で出かけた。この市民会館は、わたしが小さい頃にピアノやバレエの発表会がよく開催されていた会場である。ああ、懐かしい......。チケットを持って並ぶ人の列が思ったよりも長かった。わたしよりも数倍才能があった友人のバレエの発表会を見るために並んだ、小学生のときの自分がちらついた。友人はこんなに素晴らしい役をもらっているのに自分は......という切なさもほんのりと思い返される。

幕が上がり、1幕では子供のクラスの発表がある。わたしには叶わなかった、パ・ド・ドゥ。つまり王子と姫などの男女のペアダンスが数種類繰り広げられる。みんな、輝くように若くて、バレエが好きという気持ちが伝わってくる。ああ、いいなぁ、15年ぶりくらいに感じるこの空気感。そして2幕が、大人の発表。母はパリをイメージした作品に出ていた。

そう、58歳の母が夢中になっているのは、クラシックバレエだ。当時小学1年生だったわたしがお友達の影響で「バレエをやりたい」と言ったところ、どうしたわけか母は「じゃあわたしが先に習ってみる」と言い、通い始めた。当日は「そうか〜」と思ったが、今から考えるとちょっと不思議な発想である。わたしはその翌年にKバレエ教室に通い始めたものの、子供ながらに才能のなさを痛感していたため、中学受験をきっかけに、ものの数年でやめてしまった。

母がカルチャーセンターにある「大人のバレエ教室」の門を叩いたのが34歳。その後、わたしが通っていたKバレエ教室の大人クラスに入り、トウシューズに入門。数年やっていたが、バレエ仲間が次々と「Nバレエスタジオ」に移ったことからここに移動した。

老舗であるKバレエ教室は、子供のためのバレエがメイン。大人クラスは発表会に出してもらっても大した踊りもさせてもらえず、扇子を持って立っているか歩いているだけ!という感じだったので、上手な人ほど物足りない内容。一方で、新設のNスタジオは少子化の世で知名度もない中、子供の生徒を集めるよりも当時ブームになり始めていた「大人のバレエ」に力を入れるという戦略をとった。大人の教室であってもトウシューズを履いて難しい振り付けでがんがん踊らせるというやり方をしたためにヒット。大人の趣味を見くびってはいけない。大人だからこそ、子供の頃の夢を叶えるために本格的にやりたいという人が多い。また、バレエを子供の頃やっていた人口は一定程度おり、その人たちは大人のクラスといえどもレベルが高いのだ。歩いているだけで満足するはずがない。現在Nスタジオは大人の生徒の方が子供よりも多いというだけでなく、結果的に子供の教室の方もバレエに親子で通うという構図が出来上がり、見事に成功している。

母はなんと24年間も休まずに週2〜3日のレッスンに通い続けている。スポーツクラブにも週5日通っているので、医者には「奥さん運動しすぎですから少し休みなさい」と止められているくらいである。

正直なところ、母は決してバレエが上手いというわけではない。(そして本人も自覚しているためか、積極的に発表会を見に来てほしいとは言わない。)パリを舞台にした作品でも、センターで踊るのは子供の頃から習っていた30代の女性たちだ。背も平均より低いし、上半身はかなり痩せてはいるが下半身はお世辞にもバレリーナ向きとはいえない、どちらかというとがっしりした骨格だ。

パリの群衆を演じる彼女は、絵描きを演じていた。先生から絵描きをやるように、という指示はなく、パリの町にいそうな職業を勝手に選んでやっているそうだ。こういうときに彼女は輝く。他人の目を気にすることなく、わたしは絵描きよ......!あなたはモデル役ね......!と突然に、なりきって踊り始める。

もう一つの作品は、妖精の役だった。58歳でも妖精の役をできるのですよ.......!背が低い彼女は、今度は最前列で踊っていた。緊張した面持ちで純白なチュチュを着てトウシューズで踊る母。
トウシューズはわたしも小学生のときに履いていたが、正直あれは人間の身体にとってかなり無理のある代物だ。足の指の皮がぼろぼろに向けてその皮が張り付かないうちにまた練習があるものだから、最初の頃はとにかく痛い。慣れてきてもわたしは履くたびに少し緊張していた。苦痛に耐え、体力のぎりぎりまで練習を重ねて、舞台に一緒に立つ予定だった仲間たちは次々と怪我で脱落していき......。普段映画などで泣くことのないわたしだが、気がつけば目元がじんわりと熱くなっていた。

情けないことに、30歳になって、わたしは絶望していた。望んだ人生が手に入らないまま、30代に突入してしまったことへの衝撃だった。あれもこれも夢のままになっていて、足踏みしている。幸い仕事は続けているが、もっとこんなことがしたいと思っていろんなことを始めてみてはやめてしまう、何もものになっていない。側にいるはずの愛しい旦那も子供もいない。

ショックなことに、気がつけば34歳で子供のころから憧れていたバレエに入門した母の年齢に近づいている。そして彼女は60近くまで続けており、これからもどんなに疲れようがぼろぼろになろうが、限界まで舞台に立ち続けるだろう。母はいま、青春の真っ只中にいるのだ。

30歳だからもう駄目だなんて言ったら、母と、彼女のバレエ仲間たちに笑われるだろう。ゴールは人それぞれ。何歳からでも、遅いことなんてない。そんな勇気をもらってわたしは静かに、甲府の駅をあとにした。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-08-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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