メディアグランプリ

後悔しない結婚式の引き出物の決め方


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記事:遠山 涼(ライティング・ゼミ)

 

知り合いの結婚式の引き出物で、カタログギフトをもらった。

 

世間では二人の名前が入ったやたらデカいお皿や、二人の顔写真がラベルにプリントされたボトルワインを引き出物として参加者に配る新郎新婦がいるらしいが、それらの品はもらっても迷惑という人が多いみたいだ。

 

でも案外、僕は嫌いじゃない。実際そういうものをもらったことは無いけど、それらの品はまず他では手に入らない代物だし、もらう人のことを考えてない感じが二人の盲目で真っすぐな愛を表しているようで、それはそれとしてあってもいいんじゃないかと思う。だからといって別に要らないし、僕も決してほしいとは思わないけど。

 

それに比べてカタログギフトは何だか無機質な感じがして、あまり好きではない。

もらった人それぞれが欲しいものを選べるようになっているのは、確かに便利だ。

でも本音を言えば、相手が何をもらったら喜ぶかを考える時間の存在が感じられない贈り物は、何だか寂しい。もらってもそこまで喜べない人が多いのではないだろうか?

 

でもそう考えると、自分たちの名前入り皿をあげる新郎新婦は、相手のことを考えていないことになる。

いや、その皿をもらった人たちがとてつもなく喜んでくれると、本気で思っているのかもしれない。

 

とにかく、タダで何かがもらえてしかも自分で選べるというのはおトクなことには違いないので、僕はカタログギフトをぱらぱらとめくった。

 

何を選ぼうか迷っていると、ふと思い出した話がある。

むかし誰かに聞いたような気がする、こんな話だ。

 

9歳か10歳くらいの少年が、母親と姉と三人で暮らしていた。

父親は単身赴任で遠く離れて住んでいた。

その父親の会社の部下が結婚式を挙げて、その引き出物が少年の家に送られてきた。

その中身がカタログギフトだったのである。

 

少年はその日、初めて「カタログギフト」というものを知った。

少年はおそるおそるカタログを開いた。

 

するとそこには、普段はまず食べることができないような高級なお菓子やデザートから始まり、霜降り肉や山盛りのカニ、外国のおしゃれな鍋やクルージング体験チケットまで載っていた。

「この中からひとつ、タダでもらえるのか!?」

「こんなものをくれたお父さんの会社の人は、とんでもないお金持ちなのではないか!?」

興奮しながら少年がページをめくっていくと、あるページの片隅にデジタルの電波時計が載っていた。

 

少年にとっての電波時計。

今の子供たちはどうか知らないが、その少年にとっては間違いなくただならぬ憧れの対象だった。

電波時計。それは1秒たりとも狂わない時計。

海を渡り、山を越え、人工衛星を経由して飛んでくる(らしい)電波をキャッチすることで、正確な時刻を知らせ続ける近未来の時計。

 

それはもはや時計ではなく、夢のマシンだった。

 

いつの間にかどんどん遅れてしまうアナログな時計や、自分で時刻を合わせないといけないデジタル時計とは格が違う、本物の時刻を伝え続けることができる唯一のアイテム。電波時計を持つ者のみが、本当の時刻を知る者であり、電波時計を持たざる者は偽りの時間の中に生きていて、それに気づかずに過ごしている。

 

「電波時計がいい!」

少年が叫ぶとすぐに、冷静な姉が言った。

「このカニの盛り合わせがいい」

母親は笑って言った。

「お母さんもカニがいいなあ」

 

少年は耳を疑った。

 

たしかにカニはおいしいし、少年も大好きだった。

カニは何か特別なお祝い事やイベントの時にしか食べられない、特別な食べ物だった。

そんなにカニを何度も食べたことがあるわけではないので、少年はカニの味をよく覚えていなかったが、それでも好きだった。

カニの味が好きなのではなく、カニを食べる時は何かいいことがある時であることが多く、みんな嬉しそうにカニを食べているその空間とその時間が好きなのかもしれないと思った。

 

さらに、当然、少年の家にはすでに時計があった。

居間には大きくて普通に見やすい丸時計。

母親の枕元には見た目古くてボロボロなのに毎朝アラームをきちんと鳴らす目覚まし時計。

少年の枕元にも姉にもらったデジタルの目覚まし時計があり、姉は携帯電話を買ってもらってから時計を必要としなくなっていた。

 

「じゃあ、カニでいい……」

見るからにしょんぼりしてしまった少年を見て、母親は訊いた。

「本当にカニでいい? 電波時計はいい?」

姉が母に続いて言う。

「そんなに電波時計が欲しいの? そんなに言うなら譲ってあげても別にいいけど」

そんな風にして手に入れる電波時計なんて、ぜんぜん欲しいとは思えなかった。

「いらない! カニでいいよ!」

少年は涙をこぼしながら叫んだ。

 

「本当にいいの?」としつこく聞いてくる母親に何度も怒りをぶつけ、姉との不毛な言い合いを経て、

結局はカニの盛り合わせを注文することで話は落ち着いた。

 

後日、少年の家に電波時計が届き、少年はブチ切れた。

「何でだよ! いらないって言ったじゃん!」

母親はなだめたが、少年はその電波時計を意地でも使わないぞ、と誓った。

 

その後しばらく、母親が電池を入れたその電波時計は、居間の机の上に置かれることになった。

居間でごはんを食べる時も、テレビを見る時も必ずその電波時計は視界に入るのに、少年はその時計で時刻を知ることを意地でもしなかった。たまにうっかり時刻を確認してしまうことがあると、そのあとしばらく不機嫌になった。

 

それがどういう訳か、大人になった僕の家にその電波時計はある。

実家を出た後も何度か引っ越しを繰り返したのだが、その度に繰り返してきた荷物整理でも捨てられずに生き残ってきたこの電波時計は、今ではもう10年以上前の古びた時計だ。

 

電池を入れれば一応動くが、最近はろくに電波をキャッチしない。

 

たまに電波をキャッチしてやる気を見せたかと思えば、何故かちょうど1時間遅れの時間を表示して紛らわしいので、今は前後をひっくり返して、壁に向けて置いてある。

それでも机の上の貴重なスペースに鎮座している電波時計は、もう一生捨てられないかもしれない。

 

いつか自分が引き出物を何にするか決める立場になる時がやってきても、僕はそんなに迷わずに決められそうな気がする。だってカタログギフトで不本意ながら手に入れてしまった電波時計を大切にする人もいるわけだし、新郎新婦の名前入りのデカいお皿だろうと顔写真付きのボトルワインだろうと、もらって喜ぶ人が一人もいないとは言い切れないだろうから。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-08-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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