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背徳の胃もたれを約束する「天下一品」の幸福な味わい方について


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記事:Yushi Akimoto(ライティング・ゼミ)

 

時計の針が23時を回ろうとしているころ、仕事終わりと思しき男ばかり6人が、築30年ほどの平屋の公営住宅の一室に集った。みな、神妙な面持ちで席に着いている。決して大きくないテーブルを、大の大人が肩をすぼめて身を寄せ合い囲んでいる様子はどことなく奇妙であり、ともすれば滑稽ですらある。

 

テーブルの上に視点を移そう。ちょうど季節も秋の頃。真ん中にはカセットコンロの上に大きめの鍋が置かれていた。この大きさなら男6人の食欲にも十分耐えうるだろう。食べ始めるにはいささか遅い時間というのが気にかかるが。鍋の中身はまだ空だ。コンロの周りには、キャベツ、にんじん、えのき、豚バラ肉……鍋の具としてはよくあるラインナップだ。冷蔵庫で冷やされたビールと発泡酒が並べられている。人数分のコップもないようだ。男だらけの飲み会らしいといえばらしい。

 

「いやあ、今日も授業お疲れ様でした」

 

男の一人が口火を切った。「いやあ」という言葉を、ため息を吐き出すように切り出したものだから、「お疲れ様」という語彙のリアリティが否応なく強調される。なるほど、彼らは塾講師か何かのようだ。授業を終え、生徒を帰し、帰り支度を整える。そして職場から直行し、鍋の準備をしていたとなれば、この時間帯から飲み会に取り掛かるのも、まあ納得できる。

 

しかし……。

 

なにか、なにかこの部屋は妙だ。

 

この、男たちの目にうっすらと宿る、高揚感のようなものは何だろうか。まるで、いたずらを仕掛けた少年たちが、それと知らずに罠に近づくターゲットの様子を、物陰から眺めているかのような、わくわくとした瞳。年齢にばらつきはあるようだが概ね2030代と思しき男たちが、たかが鍋ごときで、これだけ気を昂らせるものだろうか。

 

「じゃあ、そろそろ、アレを……」

 

一人がおもむろに立ち上がった。

 

「ついに、いっちゃいますか……」

 

男たちは、にやつきをもはや隠そうともしない。そわそわし始める者もいれば、唾をのみ込む者もいた。彼らの企みが、とうとうお披露目となるらしい。

 

キッチンに向かった男が、真っ赤にデザインされた箱を持ってきた。言葉にならない感嘆の声が漏れる。その場にいる者の注目を集めたそのパッケージには、はっきりと、こう書いてあった。

 

「天下一品」

 

そう、京都発の全国的なラーメンチェーン「天下一品(てんかいっぴん)」、通称「天一(てんいち)」。その最大の特徴は、スープにある。鶏ガラを徹底的に炊きだしたというそのスープは「こってり」と「あっさり」の2種類から選択可能。しかし、天一フリークたちは一寸の迷いなく「こってり」一択だ。あの独特のスープを好む者たちは「ポタージュ」「シチュー」などと好き勝手に形容するが、あながち嘘ではない。とにかくどろどろなのだ。そして、とことん濃厚である。それが天一の熱狂的なファンが愛してやまない唯一無二のスープだ。

 

事の発端は一週間前のことだった。ある男の一言からすべては始まった。

 

「実は、天一を通販でお取り寄せしようと思っておりまして」

 

職場の休憩時間の雑談の中に、何気なく投げ込まれた一言。騒然とする同僚たち。

 

「え、まじで?」「天一久しく食ってない……」「そもそも天一ってお取り寄せできるの!?」「はい、通販してますよ。『こってり』『あっさり』選べます」「そりゃあ『こってり』しかねえだろうが!」「はい、もちろんオール『こってり』で、とりあえず、六食分、来週に届く手筈です、皆さん良ければ」「食べます」「食べたい……!」「お願いします、お金は払います」

 

あの天一の「こってり」が、自宅で食べられるなんて……。ということは、アレンジが、可能。トッピングも、付け合わせも、自由だ。男たちのイマジネーションがかき立てられていく。そのとき、一人の男が、禁断の一言を発した。

 

「……そうだ、鍋にしよう。天一鍋、どうだ?」

 

満場一致だった。ただでさえ飲み干せば具合が悪くなりそうなあのスープで、まさか鍋をするなんて。何の変哲もない鍋の具材たちが、どろどろのスープを身にまとい、絶え間なくあの中毒的な味わいを口に運んでくれるなんて。実にけしからんことじゃないか。

 

場面を公営住宅に戻す。すでに赤い箱は開封されており、麺、スープ、そして辛子ニンニクが6食分あることが確かめられていた。ラーメンたれと湯せんしたスープが鍋に投入される。紛れもない天一の香りが部屋に充満し、男たちの食欲をくすぐる。ぐつぐつと沸き立つスープに、鍋の具材たちを沈ませていく。豚の旨み、キャベツの甘みが、スープに溶け込んでいく。

 

そして、食材に火が通り、各自に配膳される。もちろん、ビールの準備も抜かりない。

 

「乾杯!」「おつかれーっす」「いただきまーす!」

 

各々、ビールで喉を洗い、熱々どろどろの鍋をほおばっていく。

 

「旨い!」「紛れもなく天一だ……!」「幸せとは、このことか」「ありがとう、ありがとう」

 

23時を過ぎ、男たちの食欲は爆発した。食材が瞬く間に消費される。丸1日食事を抜いた後のような食べっぷりだ。しかしながら、スープは継ぎ足しを見越して予備の分をきっちりキープしているあたり、この猟奇的な犯行が実に計画的なものであることが伺える。

 

野菜の水分がスープにいい具合に馴染み、予想をはるかに超えて「鍋料理」として成立していた。「こってり」の中で煮込まれた豚バラ肉の味わいが、実に暴力的だ。

 

さあ、お待ちかねの麺の登場だ。本当は別茹ですべきとは知りつつ、今回は袋から直接、ぐつぐつどろどろの「こってり」のスープに投入してみた。これも店舗ではありえない所業だ。具材と共に煮込まれ、徐々にシチューと化していく白濁のスープが、ねっとりと麺に絡みつく。うまい……うまくないはずがない。

 

時間が経つごとに、ラーメンが濃厚な白いマグマの中でその養分をすべて吸い尽くさんとする。その麺ごとお玉で掬い上げてしまうのは、麺もスープもすべてこの体に収めてやろうという男たちの本気と覚悟の表れ。これは、もはや、「背徳の塊」だ。そして、鍋は空になった。

 

そう。この天一鍋の2つのスパイスは、空腹と、そして、背徳感だ。

 

「ああ、これ、絶対、明日、胃もたれしてるわ」

 

そんな台詞をやけに嬉しそうに言い放つ彼らは、知っているのだ。遅い時間の食事が体重増加に直結することを。天一の「こってり」スープを深夜に飲み干せば、翌日の胃腸がどうなるかは確定的に明らかだということを。

 

それでも、彼らは己の本能のままに天一を味わい尽くすことを選んだ。しっかり辛くてしっかり臭い、天一名物・ニンニク薬味も、容赦なく動員した。明日のことは、明日考える。彼らは今を生きているのだ。上気したように赤くなった頬と、満たされた腹の底から湧き出る恍惚のため息。何か大きなことを成し遂げた後のような男たちの様子が、印象的だった。

 

「背徳の天一鍋」

 

いつしか、僕たちの間ではそう呼ばれるようになった。天下一品を愛してやまない方がいるならば、一度でいいからこの鍋を試していただきたいと思う。できるならば、背徳感付きで。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-08-31 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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