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川崎Fの大久保嘉人選手がJ1最多得点を獲得。その時彼が魅せたパフォーマンスに込められたメッセージとは。


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記事:弥恵さま(ライティング・ゼミ)

ある日、私は親友からのLINEを受け取った。動画だった。
再生する前から、家のテレビモニターを撮影していることが分かる。恐らくサッカーの試合。
サッカー? そんなもの観る子じゃないのに。なんだろう……。
彼女はいつも大事なことを言わない。見れば分かるとばかりに動画だけ送られてくる。恐らく見れば答えが分かる。ヒントがどこかにあるはずだ。

私は、再生ボタンを押した。

そこに映されていたのは、川崎フロンターレのある選手が、ロスタイムで決勝ゴールを決めた瞬間だった。大久保選手だった。
笑顔で観客席に向かって走る大久保選手。そこに、歓喜のあまり次々に飛びついてくる他の選手たち。チームメイトにもみくちゃにされ、もう大久保選手がどこにいるのか分からない。

やっと選手の輪から出て来た大久保選手が魅せたパフォーマンス。

「なんで……! なんで大久保選手が!」
私は、スマホを持つ手が震えるのを感じた。

 

これは、私が見た、ヒーローになった2人の男性の話。
大久保選手と、もう一人の男性が、最後まで諦めなかった本当の話。

***

もう一人の男性は、落水洋介さん。
33歳。北九州市出身。
この動画を私に送ってきた、親友の弟さんだ。
落水さんには、奥さんとの間に、4歳と7歳の娘さんが居る。それに車椅子が1台。
これが落水さんの家族だ。
そして、33歳で彼は介護をされている。

落水さんが体の異変を感じたのは、3年ぐらい前からだった。落水さんも、最初は気付かないぐらい症状は徐々に進行した。

「歩きづらいな……」

最初は、ただそれだけのことだったらしい。ただ、少しおかしいな。落水さんは、それぐらいにしか思っていなかった。
それが、次第に足がもつれる様になり、杖無しでは歩けなくなり、そして落水さんは今、車椅子に乗っている。仕事も辞めざるをえなかった。
今年に入ってからは喋ることも難しくなってきている。

初めの内は、どこに行っても原因が分からなかった。落水さんには、病名さえなかった。
あったのは、「痙性対麻痺」という症状名だけ。
しかし、落水さんの足はどんどん動かなくなった。家の中でさえ生活するのが難しくなる。すぐに立ち上がれない、足を前に出せない、足の筋肉が硬直しつま先が上がらない。

こんな状態なのに……。
病名さえ分かれば、何か治療法があるはずなのに……。
見守る家族にも、焦りと苛立ちが出た。

そして、病名が分からないまま、落水さんはついに車椅子の生活になった。
だが、手の筋力も落ちてきている落水さんにとっては、車椅子を回すことも難しかった。車椅子を前に進めることが出来ない。娘さんと一緒に公園に行っても、一緒に走ることも出来ない。なかなか進まない落水さんの車椅子を、幼い娘さんが一生懸命押す。これが落水さんの人生に起こった変化だった。

そして、今年の1月。
やっと落水さんに病名が与えられた。

 

PSL。
原発性側索硬化症。100万人に一人に発症すると言われる難病だった。
治療法は、今のところ無い。

「病名さえ分かれば……」
それも間違っていた。

PLSは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)よりも進行が遅いと言われている。
2014年に公開された、『博士と彼女のセオリー』という映画を観たことがあるだろうか。「ビッグ・バン」セオリーを唱えたスティーブン・ホーキング博士の伝記映画。博士はALS患者だ。
専門的な説明はできないのだが、簡単に言うと、ALSは運動神経に命令を出すことができなくなる。そして、筋肉が勝手に痩せていくらしい。
落水さんの場合は、運動神経に命令を出すことが出来なくなってきているが、筋肉が勝手に痩せることはない。その分、ALSよりも進行が遅い。ただし、歩くことができなくなった落水さんは、筋肉を使う事ができないので、足がどんどん細くなってきている。

なんとかつかまり立ちで歩こうとしても、落水さんの足は上がらない。だから、そのまま、足の甲がずりっと床に擦り付けられる。そうやって、足の甲をずりずりと床に引きずりながら一歩一歩進む。
落水さんは、いずれ手も動かせなくなり、喋ることもできなくなり、寝たきりの状態になってしまう。脳みそだけは動いたまま。でも、落水さんの考えていることを、周りに伝える術がない。

 

どれだけ怖かったかなんて、私には想像できない。
家族をどう養っていけばいいのか。介護への知識のなさ。制度への知識のなさ。そして自分の将来の姿が見えてしまった時の恐怖……。私が想像できる全ての感情を並べても、表現しきれないほど怖かっただろうと思う。

 

 

しかし、そんな状態の落水さんに、今起きているのは奇跡の連続だ。いつも友人達の笑顔に囲まれている落水さんを見ると、彼が難病と闘っていることを忘れてしまうぐらいに。
この奇跡の連続のきっかけが、大久保選手だった。

落水さんと大久保選手は、小さい頃からサッカーをやっていた。小学生の時に、共に北九州の選抜チームに選ばれ、そこで2人は出会ったのだ。落水さんは、大久保選手に病気のことを話していなかったそうだ。しかし、大久保選手は人づてに落水さんの状態を知り、彼に連絡をした。

これが、落水さんに起きた奇跡の始まりだった。
あの大久保選手のパフォーマンスで、多くの人に落水さんの事を知ってもらえるきっかけになった。

 

***

私は、再生ボタンを押した。

そこに映されていたのは、川崎フロンターレの試合。その映像を私は真剣に見た。まるで推理小説を読むようにヒントを探した。私は、アナウンサーの興奮した声と映像に集中する。

ロスタイム3分。0-0のまま。

「さぁ、ここは全員で押し上げていく! チョン・ソンリョンの大事なキック!」
アナウンサーの熱狂的な声に、この3分が重要な局面であることが分かる。
川崎のゴールキーパーがロングパスを出す。
一旦、相手選手のヘディングで戻されるボール。すぐに川崎の選手がカットし、ボールを前へ押し出す。

「原川、先ほどいいパスを出しました! 田坂。絡んだ! 小林悠!」
一人、二人、三人と、川崎フロンターレの選手が流れるようにパスを出す。あまりに見事なパスワークに、私は息をするタイミングを逃した。ゴール前、左サイドの小林悠選手にボールが渡った瞬間、彼は右サイドにボールを飛ばした。

「田坂。絡んだ! 小林悠!」

「おおくぼーーーーーーーー!!!」

小林選手からのクロスボールに、右サイドから全力で上がって来ていた大久保選手が、絶妙のタイミングで頭から飛び込んだ。
そのまま、ゴールネットを突き破る様に一直線にボールが飛んだ。

「おおくぼーーーーーーーー!!!」
「うおー! きたー!」
アナウンサーと解説者が興奮し絶叫する。観客席では、川崎フロンターレの旗が続々と立ち上り、観客総立ちで全員が頭の上で拍手する。絶叫、鳴り物の乱れた音、大久保選手に駆け寄るチームメイト。いたるところで、タオルを振り回す観客。大歓声に包まれるスタジアム。アナウンサーも解説者も、好き勝手に思ったことを叫ぶ。

「大久保ー! やりました! J1最多得点、単独トップ! 159ゴール!」
「いや、小林もすごい! すごいクロスですよ!」
「この時間帯! あり得ない展開ー!!」

この試合、何度も何度もゴールを狙ったが決めきれなかった大久保選手。試合終了ギリギリでゴールを決めた。
観客席に走り寄る大久保選手。歓喜のあまり、飛びついてくるチームメイト。
もみくちゃにされ、彼がどこにいるのか分からなくなる。

カメラが観客席に移り変わる。
「YOSHI METER」が158から159に変えられる。未だ興奮冷めやまない観客を映すカメラ。

やっと、選手の輪の中から出て来た大久保選手を再びカメラが捉える。柔らかい顔をしているが、そこには自信が満ち溢れていて、妙な生気が漂っている。
スタッフから、白い布を渡される大久保選手。
おもむろに、その白い布を広げた。たった少しの時間だった。興奮した様子で、Tシャツを上下にゆする。布がはためき、文字がしっかり見えない。ほんの一瞬……ほんの一瞬だけ見えたその文字に、私は周りの音が聞こえなくなった。

 

「負けるな、落水洋介」

 

真っ白のTシャツに、青い文字でそう書かれていた。
その映像が映されたが、アナウンサーも解説者も何も言わない。そこに書かれた意味が、分からないのだろう。

 

しかし、私はその瞬間、全身の鳥肌が立つのを感じた。

「なんで……! なんで大久保選手が! もう、なんて人!」

決勝得点。J1最多得点を決めた瞬間、彼は落水さんに向けメッセージを発した。私の親友の、弟さんに向けて。

***

落水さんは、大久保選手からこう言われていた。
「次、得点とったら、お前の名前を出すから」

そう言われてから、3試合目か4試合目。家でスカパーを観ることができない落水さんは、毎回車椅子でスポーツショップに向かい、そこで観戦した。

誰もが諦めていたであろう、あの時間帯。落水さんも、「今日はダメかな」と諦めていた。しかし、大久保選手は諦めてなんかいなかったのだ。
そして、約束通り落水さんの名前を掲げた。

「マジかよ。マジでやりやがったよ!」

落水さんは、興奮するばかりで涙も出なかった。自分の事なのに、自分の事じゃないような、ドラマか映画を観ているような気分。ただただ、大久保選手がやりとげたパフォーマンスに、彼は興奮するだけだった。

「大久保は、僕のヒーローだよ! でかい男だよ! ありがとう、ありがとう、ありがとう!!」
そう落水さんは、あの時のことを語る。

 

この時、大久保選手自身も辛い思いをしていたはずだった。
大久保選手の奥さんも、現在辛い治療に耐えながら闘病しているから。それなのに、大久保選手は落水さんにメッセージをくれた。
「負けるな」と。

 

 

このパフォーマンスは、スポーツ番組やスポーツ新聞でも取り上げられ、その後SNSで落水さんへの支援の輪が広がった。
全てが困難に見えた現実。恐怖、怒り、焦り。全ての負の言葉が降りかかってきていた落水さんに、大久保選手は奇跡を起こしてくれた。

落水さんは今、多くの人に応援されている。落水さんに出来ることは少なくなってきているが、それでも毎日、目の前のことを一生懸命楽しく過ごしている。
色んな人が落水さんに会いに来てくれ、体の動かせない彼を外に連れ出してくれる。色んな人がPLSの事を知ってくれるようになった。

「怖がっても、しょうがないから。病気は進行するから。病気でも、前向きに毎日楽しく生きる。それが、僕に出来る一番の恩返しだから。」

こう、落水さんは私に話してくれた。

***

これが私が見た、2人のヒーローの話。
落水さんは、PLSと戦いながら、今の彼に出来る仕事を探している。彼の家族を養うことを、今でも諦めていない。そして、彼の人生を諦めてなんかいない。

電話口の落水さんは、思っていた以上に喋れなくなっていた。私が思っていた以上に進行が早い。ブログやFacebookを見るだけでは、こんなに進行していたなんて分からなかった。それぐらい、いつも明るいから。いつも元気な姿を見せてくれるから。ゆっくりゆっくり話す落水さんは、やっぱり暗くなんかなかった。

「お写真、使わせて欲しいんです」
「えっ、じゃあ写真屋さんで加工してきていいですか?」
と冗談を言う。

「いえいえ、十分イケメンだからいいです!」
「なんなら、僕の兄の写真使ってください。いっつも言われるんですよ、お兄ちゃんはイケメンなのにねって」
ゆっくりゆっくり、こうやって冗談を言う。

私の2人のヒーローは、絶対諦めたりなんかしない。
今日も2人はどこかで、諦めずに戦ってる。

 

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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