メディアグランプリ

それでもきっと、わたしは夫と添い遂げる


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記事:大森ちはる(ライティング・ゼミ)

朝8時半を過ぎた頃、一軒家の門前で、白髪の老夫婦がアウトドア用の折り畳みベンチに肩を並べて座っている。
おじいさんはアイロンがぴしっとあたったシャツを、おばあさんはプリーツのきいたスカートをいつも身につけている。
なにか会話をしているような日もあるし、ふたりただ、向かいのマンションの下で通園バスの到着を待つ幼稚園児たちに視線をやっている日も。
じきに、デイホームの名前が印字されたワゴン車がふたりの前に停まり、職員と思われるポロシャツ・チノパン姿の人が「おはようございまーす!」と元気ハツラツをひっさげて助手席から降りてくる。
おじいさんが杖を支えに立ち上がり、その人に手を取ってもらいながら、後部座席に乗り込む。
おばあさんはベンチに座ったままおじいさんを見届け、後部座席のドアを閉めて「それでは行ってきますね!」と挨拶する職員の人に、ぺこりと頭を下げる。
おばあさんの表情は、ここからは読み取れない。
発進したワゴン車が100mほど先にある交差点に差し掛かったあたりで、おばあさんはそれを目で追うのをやめて立ち上がり、ベンチをたたんでビルトインガレージの壁に立てかける。
そして、家の中に入っていく。

週に2~3回、駅から会社に向かう道すがらの住宅街で見かける光景だ。
最初から最後までを一連で見たことはないが、居合わせたシーンを繋ぎ合わせると、おそらくこうなる。
いいなぁ、と思う。
わたしも40年後、そうやって夫をデイホームに送り出す生活をしていたい。

***

夫とは、結婚して8年、付き合ってからだと15年。
こんなに経つのに、今でも1週間に7回くらい、「なんでこの人と結婚してんやろ」と自問している。
「愛だろ、愛っ」では片づけられない。

例えば、パジャマのズボンを後ろ前逆に履いてしまったとしよう。
そのことに気づいて一瞬ためらって、でも眠気で履き直すのが億劫で、違和感に折り合いをつけてそのまま寝てしまうことって、ないだろうか。
わたしは、ある。月に数回、ある。

夫との結婚生活は、そんな「折り合い」尽くしだ。
夫の愛車のスカイラインは、決まって娘(3歳)も含めて家族総出で洗車するが、家の中の掃除は、わたしが1年365日ほとんど一手に担っている。
食事のたびにお米を研ぐのは夫の担当――毎回炊きたての白米を食べたいのだそう――だったが、わたしが産休に入ると同時にドロンされて今に至る。
毎朝、娘を保育園に送るのも夫の役割――わたしより出勤時刻が遅い――だったのに、「部署異動したから慣れるまで代わって」と頼まれて以来1年8ヶ月、いまだ慣れないらしい。
エトセトラ、エトセトラ。

お酒のアテにこの手の噺をすると、「愛やな」とか「なんだかんだ言うて、大森にとって『負う』ことが美徳やねんな」と野次られることがある。
やめてちょんまげ! と思う。
「折り合い」を「愛」や「美徳」に翻訳コンニャクされるのは、複雑骨折だ。

「折り合い」は、文字どおり、折り合うこと。
大辞林曰く、「互いに譲り合って話がまとまる」こと。
わたしは何を対立項に、夫の分まで動くことを引き受けているのか。
はっきりとは確信を持てないが、それはたぶん、「ブレない」からではないかと推している。
彼は、動じない。
相手や状況によって態度や考え方が揺れ動くことがない。

2011年3月11日は、金曜日だった。
翌日からの土日で、蟹を食べに兵庫県香住町へ旅行したので、よく覚えている。
あの日、関西の地は揺れなかったが、地震がもたらした不安と混沌はどすんと伝播してきた。
わたしは「旅行とか行っとう場合ちゃうわ」と動揺した。
が、しかし、わたしの後ろ向きな「明日どうする?」に、夫はひと言「え? 行くよ」。
はっとした。
なに付和雷同してんねん、わたし。
わたしの、わたしによる、わたしのための自粛なんて、していらん。
夫のブレなさは9割方は面倒くさいけれど、たまに、たまーに、肝心なところを救われる。
確固たる「え? 行くよ」と、民宿の扉を開けたときの、奥さんの「来ていただけてよかった」と胸をなでおろされたような笑顔は、一生覚えておきたい、あの日与えられたものたちだ。

朕は国家なり。
日々の案件ひとつひとつ、夫王国との外交には骨が折れる。
一方で、そのブレなさが全方位的に徹底されているのを、好いな、とも思っている。
脆さを感じない。
この人と一緒に居たら、なんしか持ちこたえられそうだ。
圧をしのげそう。
どんな圧力がいかようにかかってくるのか、予定はないし、予想できないけれど。

***

匙を投げては取りに行き、ちゃぶ台を返してはもう一度ひっくり返す。
何百回でも何千回でも、「なんでこの人と……」と「そういう人を、選んだからや」を自問自答する。
「折り合い」の折り目が薄くなってくるたびに、ぴしっとアイロンがけをする。
そうやって歳をとり、ゆくゆくは玄関先でふたり並んでデイホームの迎えの車を待てたら、本望だ。

願わくは、わたしは「いってらっしゃい」と見送る側でいたいな。
じゃないと、「動かない」人と「動けない」人のふたり暮らしでは、家の中がしっちゃかめっちゃかになってしまうもの。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-09-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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