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オカマが説く。「豊胸手術なんてやめなさい!」


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記事:弥恵(ライティング・ゼミ)

 

「だから、やめなさいって。あんたどうせ、私みたいに孤独死するんだから」

 

あぁ、もう。

オカマって本当になんで、こんな恐ろしい事をガツガツ言ってくるんだろう。確かに、そうよ。確かに私は、このまま独身を貫くんじゃないかと自分でも思っている。もちろん、結婚できれば、それは嬉しい事なんだけども、あまりにも周りに、「あんたは、一生結婚できない」と言われるもんだから、あぁ私はそうなのかと思ってしまっている。

でも、そんな事を、わざわざ面と向かって言わなくてもいいじゃないか……。

 

 

だいたい、彼女とは初対面の時から最悪だった。友人に連れて行かれたオカマバーで、ママをしていたのが彼女なんだが、最初から彼女は「あんたブスねー」と私に言ってきた。

いや、オカマバーとは、そういうものらしいのだ。だって、彼女たちは男にモテたい訳だから、女の私は敵らしい。

 

「もう、あんたブス」

「化粧、下手ねー」

「なんか、色気がないわ」

 

散々、私はこう言われた。

綺麗な着物に、綺麗に結われた髪。組んだ足が着物の裾から見えるが、もちろん綺麗にスネ毛は処理されていた。少し男っぽさはあるが、ぱっと見れば女だ。美意識は、恐らく私より高い……。

まだ20代前半だった私は、そう言われ正直に凹んだ。シュンとした。女性に、面と向かって「ブス」とか言う勇気、なかなかないでしょう? 恐らく今なら、もう少し笑いに変えることができたのかもしれないが、しかし今でもこの女を殴りたくなる程、腹が立つ時がある。

しかし彼女も、まさか目の前に座っている私が、まだ20代前半だとは思わなかったらしい。昔から老け顔な私は、大抵5歳ぐらい上に見られる。そんなに若いと知っていれば、あそこまで敵意むき出しにしないわよ、と彼女は今更ながら言うのだが、しかし相変わらず彼女は私に毒を吐く。

もちろん、その店の、全てのオカマがこんなに意地悪な訳じゃなかった。私に優しいオカマも居た。私は、優しくしてくれる、ヒゲ跡が隠せないオカマさんに、「コーラください……」と泣きそうになりながら言った。なぜか、そのオカマさんは、化粧もせずカツラも被らず、顔はそのまま男性なのにスカートを履いていた。理解しようとしない方が、脳みそが楽な時もある。深入りはしないでおこうと、本能的に思った。

 

それにしても、私はどうもオカマとか、おネエとか、ゲイとの相性が悪い。大抵私は嫌われる。

以前付き合っていた男にも、ゲイの友人がいた。その彼(ゲイだから彼でいいそうだ)からも私は同じような事を言われた。

 

「お前と、Oは釣り合ってない!」

「んで? お前らいつ別れるの?」

 

会う度に、彼はこう私に面と向かって言ってくる。どうやら彼は、私の彼が好きだったらしく、猛アピールをしていたらしい。だから、私を彼女として紹介されると、腹が立ったらしい。もちろん私の彼はストレート。私と別れたところで、ゲイの夢は叶わないのだが、まぁそんな私と、「ネコ」の彼との会話を存分に周囲は楽しんでいた。「ネコ」なぞというゲイ用語を私が覚えてしまったのもヤツのせいだ。

 

 

しかし、どういう訳か私は、彼女達、もしくは彼等と結果的に仲良くなってしまう。そしてなぜか今、私はこのオカマの彼女に豊胸手術について聞いているのだ。

 

 

だって、ほら。

女の私より、胸でかいんだん……。

 

 

「ねぇ、やっぱり痛いの?」

「痛いわよ! 私の場合は、筋肉の下にシリコン入れたから、一番痛いのよ」

「んで、それ、みんなが言うように、手術した後揉むの?」

「そうよ。これマッサージしないと、固定されちゃって動かなくなるらしいのよ。一番面倒なのが、あれね。重労働した時ね。筋肉使うと、シリコンが変に動いて、なんか変なところに収まっちゃうのよ。だから、こうマッサージして、ちゃんとした場所に戻すの」

 

着物の上から、胸を揉みしだく彼女が羨ましくなった。私の胸は、手の平で収まるのに、なんか彼女のは収まってない。なんだそれ、偽物なのに。

 

「ねぇねぇ、ちょっと触っていい?」

「あら、やだ。いいわよ」

 

そういって、私と正面に向き直る彼女。

ぺちっと、手の平を彼女の胸に当ててみたが、着物の上からなのでよく分からない。

 

「うーん。柔らかさは良く分からんけど、デカイよね……私のよりデカイよね……」

「あんた、その貧乳に悩んでるわけ?」

 

ゲラゲラと笑いながら、「貧乳」と言ってくる。

あぁもう本当、なんでこの人は、こうもストレートに言ってくるんだ……。

 

「そんな貧乳貧乳言わんでもいいやん!」

「貧乳! ペチャパイ!」

「もー、うっさいデブ! しょうがないの、遺伝だから!」

 

こうして罵声を浴びせ合うのが通例となってしまっている私たちは、ひとしきり罵りあえば、とりあえずお互い気が済んでしまう。

 

 

「いいなー。私も豊胸しようかな。いくらぐらいしたの?」

「げっ。あんた、マジでそんなこと言っての?」

「だって、胸大きい方がやっぱり得じゃん。男はおっぱいしか見てないって言うし」

「やめときなさい、そんなもの。おっぱい星人と付き合わなきゃいいだけの話なんだから」

「いや、まぁそうなんだけど。でもおっぱい大きい方が、服も何着ても様になるじゃん。ビキニとか、なんでも着れるじゃん。私、水着の時めっちゃパット入れなきゃなんだよ? それでも谷間できないもん。」

「だから、やめときなさいって。あんたも私みたいに孤独死するんだから」

 

 

孤独死? 豊胸の話してんのに、孤独死?

 

 

「あんた考えてもみなさいよ。私たち孤独死するのよ」

「いや、勝手に一緒にするな」

「黙れ! とにかく、私もあんたも孤独死まっしぐらなわけよ」

「はぁ? それどう繋がるん?」

「まぁ、聞きなさい」

「はい。どうぞ」

「孤独死よ孤独死。誰も私が死んだ事に気付かないと思うのよ。多分、腐敗して、臭いが出だして、お隣さんが大家に連絡するのよ。隣のオカマの部屋からめちゃくちゃ臭いがするんですよ! というか、最近あのオカマ見ました?! とか、騒ぐわけよ隣人が。それでやっと気付いてもらえるわけ!」

 

あぁ、オカマの声って甲高い……。興奮してくると、ほんと甲高い……。

 

「……はぁ。それは悲しいね。んで?」

「ほんっとに、頭悪いわね! 腐乱死体よ腐乱死体」

「見るもおぞましいね……」

「そうよ、普通はそうよ。おぞましい……で終わるのよ。でも、私たちは違うのよ。死体の横に、なんか転がってるのよ」

「ん? 何が? そのカツラが?」

「違うわよ! ほら、これ!」

 

そう言いながら、彼女は両手で自分の胸を掴んだ。

 

「ひ! おっぱい! シリコン?!」

「やっと気づいたか、このバカ!」

「ひっ! やだそんなの! 死んだ後に、見知らぬ誰かに、このばーさん豊胸してたぜとか思われるわけ?!」

「そうよ! あんたは、生物学的に女だから、まだマシよ! 私は下の工事が終わってないんだから!」

「ひっ! そりゃまた、なんて面倒くさい女! 死んでからも、なんて迷惑な女! いやしかし、シリコンが転がるぐらい腐敗してるんだよね? そんなら、下も腐ってて、もう分からないんじゃ……」

「……。あんたに男が出来ない理由はそれよ……。エグいわよ……。」

「え? そうなの? いや、待って。最初に孤独死だとか言い出したあんたが悪い!」

「あーもう! ほんと腹立つわねあんた!! バカな女は嫌いよ!!」

「はぁ?! 今バカっつった?! あーもう!」

「とにかく! 私は生きながらにして恥をさらしているのに、死んでからも笑い者にされるのよ。だって孤独死した上に、シリコンパッドが死体の横にコロコロっと転がってんだから! ついでに言ってしまうと、私アゴと鼻筋もいじってるのよ! だから、顔の周りにも、なんか転がってるはずなのよ! もうギャグよギャグ! だからやめなさい。あんたも、どうせ孤独死するんだから」

「確かにー! そんなのやだー! 死んだ後も笑われるとかやだー! って、顔もいじってんの?!」

 

 

私はこの時、彼女のこの説得に妙に納得してしまい、豊胸手術なんて、やっぱりしなくていいやと思ったのだ。しかも、自分が孤独死をすることも、なんだかすんなりと受け入れてしまった……。

 

しかし、それにしても、驚いた。

彼女がそんなことを、真剣に考えているとは思っていなかったから。

 

「ねぇ。本気で孤独死すると思ってんの?」

「そりゃ、考えるわよ」

「ところで、何歳なの?」

「あら、そんなこと女性に聞くもんじゃないわ」

「あぁ、そうだよね。でも、マジでそんなこと考えてるの? だって今彼氏いるじゃん」

「ほんと、結婚して子供が高校生ぐらいになっててもおかしくない年齢よ私。でも子供も作れないし、この私が早死にすると思う? きっとパートナーの方が私より早く死ぬわよ」

「ふーん。寂しいの?」

「……。全く、あんたは本当にガツガツとものを言ってくるわね。だから嫌いなのよ」

 

 

あぁ、どこかで聞いたセリフ。

つまるところ、彼女も私も似た者同士だったみたいだ。

 

「寂しいなら、一緒に住んであげてもいいよ」

「はぁ? 嫌よ、あんた男連れ込むでしょ!」

「はぁ? それはあんたやろ?! 男取っ替え引っ替えしやがって!」

 

こうしてまた、私たちのバトルが始まった。

しかし、彼女は結果的に、いつも私の悩みをこうして笑いにして慰めてくれる。そのままでいいと言ってくれる。彼女がそのままの自分でいるように、私にもそのままでいろと言ってくれる。

 

「ところで、介護が必要になる前には、下の工事もしといれくれるかな? 私それじゃオムツ替えてあげられない」

「あんたに世話になるぐらいなら、老人ホームに入るわよ!」

「おぉ! そしたら、毎日喧嘩売りにホームに行ってあげるよ!」

「あんたなんか、面会禁止よ!」

 

「寂しいくせに」と思ったが、言葉には出さなかった。ただ、私はニヤニヤしながら、彼女のそのデカイ顔を見た。

もういいや、おっぱい小さくても。なんだかんだ、こうやって笑える私の人生面白いじゃん。「人生ギャグ」ぐらいで、ちょうどいいや。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-09-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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