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メディアグランプリ

プレイヤーズ・ファーストを貫くために「待つ」という監督の賭けもある


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記事:南英樹(ライティング・ゼミ)

 

「お前のチーム、ヤバくね?」

疲れた身体をシートに預けながら、一郎は言う。

「やべえだろ?」

孝夫は口を歪ませながら、嫌みたっぷりに笑って見せた。

「やべぇよ。だいたい、監督が練習を見に来なくなるとかおかしいだろ」

「だよな」

「その間、戦術レベルの向上は見込めないよな。その場合、監督に非があるのか、部員に非があるのか、はっきりさせるべきなんじゃないの?」

「なんで?」

「なんでっておまえ問題解決にならないだろ。監督に問題があるんだったらおまえら監督に対して指導に出てくるように要求していいし、しなきゃいけないハズじゃん」

「そうかもな」

「それをしないってのは、おまえらの怠慢じゃん。カネ払って大学に入ったんだから学ぶ権利があるわけだろ。その権利を行使しないってありえないだろ。それができないってどういうことだ? おまえらが指導に来てもらうための環境を整えていないんじゃないの?」

「どういうこと?」

「だからさぁ。指導者が話しをする場を与えないとか、私語ばっかりして話しの邪魔をするとか、チームをまとめようとする部員がいないとか。もっと言えば、練習の合間にスマフォいじってるヤツがいるとか、デタラメなプレイをするヤツを仲間の馴れ合いでほったらかしにしてるとか。心当たりあるんじゃないの?」

「あ。まさにその通りだわ。ハハハ」

「ハハハじゃねぇんだよ、孝夫。そういう環境はプレイヤーであるおまえらが管理してチームの方向性とかルールを決めなきゃダメだろ? そんなところまで指導者に依存していたら本末転倒だぜ。高校生とは違うんだ。自立してナンボ。自分でアタマ使って仕事みつけて問題解決する姿勢のないチームに、どんな指導者もやりがいを感じるわけねぇだろ。てか、そんな状態でさぁ、就職活動の時、大学でスポーツやってましたなんて言うんじゃねぇだろうな。だとしたらおまえ明らかにインチキだぜ。そんな人間、世の中が求めてねぇし。そんなの社内にいたら、イライラして仕事できねぇし。てか、会社が潰れるし」

「一気にしゃべんなよ、おまえの早口さぁ、ちっとも変わってねぇよなぁ」

「うるせぇ、話そらすなよ。おまえのチームのために言ってやってんだ」

 

ふたりは高校時代を同じチームで闘い、別の大学へ進んだ。一郎の通う大学はスポーツ科学部を持つ伝統校で、スポーツに関して幅広い視野を持った指導者たちが、選手たちの指導にあたっている。人格を持ったひとりの大人として選手と向き合い、自立した人間を育てる体制ができあがっているのだ。貞雄がこれだけ流ちょうにペラペラと言葉を繰り出すことが出来るのも、日頃からのそんな指導者たちの関わり合いがあってのものなのだろう。「この1年でずいぶん大人になったな」というのが、孝夫の正直な感想である。だが、正論を立て続けに並べ立てられて、少なからず反感を覚えてしまう自分がいることも事実なのだ。孝夫は素直になれないでいた。

 

「やっぱ、馴れ合いだよな」孝夫は腹の底でくすぶり始めた違和感に戸惑っている。伝統校に入ろうと思わなかったのも、なんとなくスポーツを気楽に続けられればいいやという思いからだったハズだ。チームの部員たちは一見、仲良くはやっている。だが、ひたむきにやっていた高校時代と違って、規律のないチームのだらしなさや、負けてもロクに原因を追求せず、責任を回避して同じ失敗ばかり続けているチームのあり方に、次第に不満が募ってきている自分がいることも事実だった。

 

「おまえ、何のためにプレイしているんだ? 誰かのため? 監督のため? 学校のため? それとも……、親?」

一郎はニヤニヤと笑いながら畳みかけてくる。

「スポーツって誰のものなんだ?」ふと、そんな疑問が孝夫の頭に浮かぶ。

 

「やってるおまえが本当に楽しめなきゃ意味ねぇんじゃねぇのか? おまえ、どうのこうの言いながら結局は、監督に依存してるだけなんじゃねぇの?」

孝夫は、返す言葉が見つからない。

「まぁよく考えろや。誰のためでもない、自分のために続けるんだったらな。プレイヤーズ・ファーストだろ。俺、そろそろ行かないと練習に遅れるから行くわ」

そう言い残して、一郎は席を立った。

 

プレイヤーズ・ファースト。それは、選手を主役として第1に考え、尊重するというスローガンだ。2020年東京オリ・パラリンピックを見据えて日本のスポーツ界が掲げるもののひとつである。それは、スポーツは本来それを楽しむ本人のためにあるということを謳っているものだ。しかし、指導者側の権威主義や見栄によって、この根本的な権利が選手から奪われた結果として、生じてしまう悲しい事件があとを絶たない。それは、指導者による選手への暴力や、追い込まれた選手の自殺、スポーツを ”やらされる” ことからその社会的意義を理解するに至らなかった選手による婦女暴行事件や賭博事件として、時にカタチを変えて表面化し、社会問題化する。

 

「俺が決断しなきゃならないのかも知れないな」

孝夫の胸の内で胎動するなにかが、少しずつカタチを成し始めていた。

 

 

***
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2016-09-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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