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幸せのお城に独居するのは幸せか ~あるおばあさんの生き方~


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記事:のんのん(ライティング・ゼミ)

 

 

忘れられない患者さんがいる。

わたしが地方の病院でリハビリの仕事をしていた時のこと。入院してきたそのおばあさんは、もう90近かったと思うが、いわゆる「ボケ」もなく、一軒家に一人暮らしで問題なく過ごしていた。たまたま転んだかなにかで、骨折して入院となったが、それによって認知症が進むこともなく、環境の変化にもきちんと対応して、経過も順調。リハビリを進める上では、ほとんど問題なかった。

 

まず、印象に残るのが、その人柄。

穏やかで物静かでありながら、常にニコニコしていて楽しそう。人になにかするたび、されるたび、

「すんまへんなぁ」「すんまへんなぁ」

「ありがとぉさん」「ありがとぉさん」

と、顔の前で両手を合わせる。なんとも憎めない、愛らしいおばあさんだった。

 

小さな体で丸い背中でちょこんとベットの上に座り、顔全体をくしゃっとさせて微笑む姿は、抱きしめたくなるほどのかわいらしさで、わたしだけでなく、病棟の看護師たちからも人気だった。おばあさんの部屋を訪ねると、常に慌ただしい病院業務の中で、誰もがなんだかニコニコほっこりした気持ちになることができた。

わたしもこんなふうにHAPPYなおばあさんになりたい! と心から思った。

 

でも、おばあさんを訪ねて来る人はほとんどいなかった。

 

聞けば、生涯独身。実母が亡くなって以来の独居生活。

「この歳になったら、仲良かったもんらも、みんな死んだり寝込んだり。寂しいもんよ」

と言いながら、いつもと変わらないニコニコ顔。

 

それでも、姪っ子にあたる実妹の娘を養女に迎えていて、またこの“娘”が優しくて、自分を実の母親のように慕ってくれている。今は遠く離れた他県に嫁に行ってしまったので会えないが、お婿さんも同様に優しい人で、いざとなったら自分を引き取ってくれる。だから退院したら、とりあえずしばらくは養女のところに身を寄せるつもり、とまた嬉しそう。

 

やっぱりねー。こんなかわいらしいおばあさん、慕うのもわかるわー。やっぱり素晴らしい人柄のもとには、優しい人たちが集まってくるんやねー。

ますますおばあさんのファンになるわたし。

 

それにしても、養女からの音沙汰はなかった。

 

入院時に事務方と連絡を取っており、骨折して入院したことは確実に知っているはずだが、そろそろ退院調整を図らないといけない時期になっても、影も形も見えなかった。

「世間知らずで育った子ぉやからねえ。のんきでねえ。こんなときは困るねぇ」

と、いつも通りニコニコのおばあさん。

 

じわじわと生まれ出るちょっとイヤな予感……。

おばあさんの了解のもと、わたしは養女に直接電話をかけた。

 

電話に出た養女は、いたって普通の人であった。

 

お墓を継ぐ人がいなくなる、などの理由で、親戚内で話し合って自分が養女になったが、ただそれだけのこと。自分にとっては、やはり「親」という存在ではない。もちろん近い親戚だし、形の上では娘であるから、入退院の手続きなどの、必要なことは手助けする。だけど、自宅に引き取るまでは考えられないし、当人がそんなことを言っていると、今聞いてびっくりです、と。

 

とても常識のある人の、とても丁寧で、とても困っている対応だった。

 

これが、遺産目当てにすり寄ってくる、二枚舌のゲスい養女なんだったら、まだよかった。まだわかった。

養女との電話を通して、また、実際に退院の前後、受験を控える娘を置いて1週間ほどこちらにきて、あれこれ段取りを整えてくれた養女を目の当たりにして、わたしはすっかりわからなくなった。

なんだろうか、このおばあさんの話と現実との乖離は。

 

相変わらず、おばあさんは「ボケ」てはなかった。記憶も日常の言動も、しっかりしていた。

養女家族と同居ということはあり得ず、独居に戻るしかない現実を知っても、

「やっぱり孫も年頃やし、ダンナさんを立てたりせんならんし、あの子もいろいろ大変みたいやねえ」

と、いつも通りのニコニコ顔で目を細めていた。

 

どうやら、いつもニコニコのHAPPYおばあさんは、いつもHAPPYな夢のお城に、ひとり引きこもって生きているらしかった。誰もがみんないい人で、みんなが自分に優しくしてくれる、幸せな世界の幸せのお城。おばあさんはそこにひとり、ご機嫌さんで暮らしているらしかった。

 

実際、おばあさんの周りに悪い人は誰もいなかった。養女も「いい人」だし。わたしを始め病院の人たちも、このおばあさんには皆優しかった。でもそれは、おばあさんが思っているような美しい親切心からではない。養女は養女なりの務めだし、わたしたちもあくまで仕事の一環だ。

それにおばあさんが気づいているのか、いないのか。単純に根っからのHAPPYな人なのか、現実から目を背けて、みずから籠城してしまったのか。答えは謎のまま残った。

 

「ありがとぉさん」「ありがとぉさん」

「あんたみたいに優しい人に担当してもらえて、わたしはほんまに幸せ者やわ」

と、これ以上ない愛らしいスマイルで、わたしに手を合わせて退院していったおばあさん。

 

それから数か月後に、おばあさんは亡くなった。

田舎なので、葬式が出るとそこらじゅうに看板が出て、身内じゃなくてもその情報はすぐに知れ渡るのだ。あとから偶然聞き得たところでは、風邪をこじらせて内科の病院に入院して、そのまま亡くなったそうだ。キャラクターも、家族関係も、いろんな意味で最後まであのまんま。“幸せ”のまま息を引き取ったそうだ。

 

忘れられない笑顔と、解決できないモヤモヤを残していったおばあさん。

 

おばあさんは幸せだったのか。

わたしも将来、あのおばあさんのようにHAPPYなおばあさんになりたい!だろうか。

 

その答えはまだ見つからないままである。

 

***
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2016-09-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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