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沢木耕太郎先生が教えてくれた、人生は「旅」ということ


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記事:小矢(ライティング・ゼミ)

懐かしい! 一気に青春時代が蘇る。

先日、東京から仙台へ出張した帰り、新幹線内にあるトランヴェールに、あの沢木耕太郎氏を見つけたのだ。

トランヴェールとは、JR東日本が発行している利用者向け車内サービス誌のこと。各座席の前ポケットに入れられていて、持ち帰り自由だが、実際持ちかえる人は少ないのだろう。いつもくたびれた雑誌が入ったままだ。

新幹線を利用するとき限定で読む雑誌。たいてい、気楽な旅エッセイや、観光情報が載っていて、時間潰しにはぴったりの長さなのだ。

そのトランヴェールの巻頭エッセイで、あの沢木耕太郎氏が宇都宮線について書いている。バックパックを背負って宇都宮線に乗った話だ。もちろん、JR東日本の依頼だから、日本のローカルな旅を書くのは当然だけど、宇都宮線に乗っている沢木耕太郎氏を想像すると、なんだかおかしかった。

沢木耕太郎氏と言えば、なんといっても『深夜特急』だろう。インドのデリーからイギリスのロンドンまで、バスを使って一人旅する「私」の物語。バックパッカーの走りであり、教祖のような存在。20~30年前、若かった私は、ワクワクしながら読んだものだ。

今では内容をよく覚えていないが、旅を通して「私」が変化していく様に、自分をオーバーラップしたものだった。ひところ、『深夜特急』と地球の歩き方がいろいろな国のホテルに読み捨てられていると聞いたことがある。あれを読んで仕事をやめて世界を放浪する青年もいたとか。本には人生を変える力があるのだ。出版されてから50刷になっていると聞くから、もはや古典だ。

旅は非日常だ。だからこそ、土地の人々は適度に旅人を放っておいてくれる。その距離感が、自分を見つめるのにちょうどいい。旅は人を成長させてくれる。そんな思いで、バックパックを背負って旅に出た若者は多かったと思う。

『深夜特急』はあの頃の私にとって、自由の象徴だった。自分はいったいどう生きたいのか、自分は何者か、全くわからなかった私。何もないのに、普通に就職して、普通に結婚して、といった未来から逃れたかった私。

『深夜特急』は私のバイブルだったけど、私自身はバックパックを背負って、一人で辺境の地を歩いて、自分を見つけるなんて想像もできないほど臆病者だった。そして、そんな臆病者の自分を変える術を持たなかった。
結局、私は女子大を出て、石油元売り会社に就職した。
正直、仕事はつまらなかった。

当時、女性社員はあくまで補助として見られていたし、2~3年勤めて、結婚して……、そんな雰囲気がまだあった。あの頃の同期の女性社員は、皆つまらなそうな顔をして働いていたように思う。ランチの話、つきあっている彼氏の話、結婚の話、習い事や遊びの話、旅行の話。
心が満たされることはなかった。

一方、今より一般的ではないけれど、派遣社員という働き方もあった。ただ、海外へ行くための資金稼ぎなど、今より明確な目的を持っている人が多かったように思う。私とは別世界の人に思えた。
「なんで私は私なんだろう」
「私は何をしたら心が満たされるのだろう」
「人生って何だろう」

ウイルスに侵されていくように、私は、答えのない問いを考え続けていた。
ある日、友人に紹介されて、未来が見えるという占い師のところへ行ったことがある。

「私は何をしたらいいんでしょうか」
「自分で自分を縛っていますね。心を解放した方がいいです」
「心を解放するために何をしたらいいでしょうか」
「一人旅をしなさい。それも海外に。一番開運になります」
「……」

「ど、どこへ行ったらいいでしょうか」
「自分で考えなさい。ただしツアーにのってはダメ」

海外へ一人旅……。

沢木耕太郎氏が心に浮かぶ。

とにかく、何かを変えたい。でも、怖い。
私はさんざん迷ったあげく、『深夜特急』の最終目的地である、イギリスへ一人旅をすることにした。

イギリスなら割と安全だろうし、日本人も多いと聞く。日本から飛行機とホテルだけ予約して行けばなんとかなるだろう。

結局、5日間会社を休むことしにして、わずか1週間だが一人旅を計画。当時の私にとっては、それでも清水の舞台から飛び降りる覚悟だったのだ。

バックパッカーのような気分で、格安航空券を購入。

成田発大韓航空機でソウルまで2時間、ソウル経由でイギリスのヒースロー空港まで12時間という旅だ。途中、気圧の関係で大韓航空機が大きく揺れたときは、爆破事件があった後だけに命が縮むような気持ちだった。

しかし、そこまでは順調だったのだ。

事態が本当に悪化したのは、ヒースロー空港に到着してからだった。

空港からロンドンの中心部までは地下鉄で移動する。キョロキョロしながら、疲れ切った足取りで大きなトランクをひきずっている東洋人は、スキだらけだ。

カモがネギしょって、出汁まで沸かして歩いているようなもの。
いきなり、変な男に目をつけられてしまった。

浅黒い肌の、目つきの悪い男。
そいつが早口の英語をまくしたてながら、私につきまとい始めたのだ!
正直、その男の言っている英語がわからない。

「No!」と言っても、ニヤニヤしながら、ずっと後ろをついてくる。
絶対離れようとしないのだ。
大きな荷物を持っていたので走って逃げることもできないし、助けを呼ぶごともできない。

田舎から東京に出てきた家出娘につきまとっているチンピラをイメージしてほしい。田舎娘は、チンピラに騙されて変な店で働かされるというストーリーが浮かぶ。

普通は、正義の味方が現れてくれるのよ。
沢木耕太郎先生助けて~! と心で叫ぶ。

ああ、だから女一人旅なんて、キケンなのよ。
地下鉄に飛び乗っても、その男はついてきた。
私が降りる駅までついてくるのは明白だった。

ニヤニヤしながら、じっと獲物を見つめている。

駅を出てしまったら、何をされるかわからない。

どうしよう~!!

混雑した車内で一人パニックになっていた。

英語も十分にできないから、その場にいる人にどう伝えていいかわからない。
大きなトランクが邪魔で敏捷な動きもとれない。

その時、混雑で埋まっていた座席の一つが偶然空いた。
私はすぐさま座り込んだ。成田を出て以来、本気で疲労困憊していたのだ。

その男は、扉の近くで、相変わらずニヤニヤしながら私を見ている。
さて、どうするか。

次の駅で、私の隣に座っていたイギリス人のおじさんが降りていった。
その時、奇跡が起こったのだ。
私は天使の声を聴くことになる。
一人の若い男性が入れ替わりに乗ってきて、私の隣の席に座った。
「ご旅行ですか?」

日本語?
日本語だ!

「は、はい!」

見ると日本人の男性が微笑んでいる。
この機会を逸してはならない。

私は、これ以上ないほど親しげに、日本語で話し始めた。

その男性は企業から派遣されて、ロンドンで働いている駐在員だという。
一人で大きなトランクを持っている日本人を見て、気まぐれに話しかけてくれたのだ。

「大英博物館へ行くといいですよ。今、特別展をやっていて……」など、たわいもない会話を続ける。

つきまとっている男の顔からニヤニヤが消えていく。
二人は知り合いだと思わせたい。

思いっきり、親しげに私は彼と会話を続けた。
もちろん、あと少したったら、自分の窮状を伝えて、
知り合いのふりをしてもらおうと思っていた。

つきまとい男は、しばらくは私たちの様子をうかがっていたが、
やがてあきらめて、次の駅で降りていったのだった。

やった~!!

電車の扉がしまった途端、私は、ほーっとため息をついた。
日本人の男性は黙り込み、役割が終わったとばかりに次に停まった駅で降りていった。

「さようなら、よい旅を」
「ありがとうございます。さようなら」

連絡先を交換することもなかった。
危機一髪。
偶然? それとも、何かに守られている?

沢木耕太郎先生が微笑んでいるような気がした。

その一件で何かがはずれたのか、私は大胆になった。
すると、イギリス一人旅は、本当に素晴らしい出会いがてんこ盛りの、とても楽しい旅になったのだ。

イギリス最終日、私は持参した『深夜特急』をホテルの部屋にそっと置いてきた。
やればできるじゃん。簡単じゃん。
次の人に、その気持ちを手渡したくなったのだ。
「なんで私は私なんだろう」
「私は何をしたら心が満たされるのだろう」
「人生って何だろう」

残念ながら、問いの答えはわからなかった。
だけど、それでいいんだ。

その旅は確実に私を成長させてくれたけど、きっと、それだけではダメだったのだろう。

今、私は、「書く」ことは「人生を変えること」だと知っている。
「書く」前にはなかった世界へ「書いた」後には行くことができる。

ただ、目的地は自分で決めるしかない。
バックバックに夢だけ入れて、さあ出発しようか。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-09-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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