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メディアグランプリ

「それ似合うね」大好きな彼がかけた呪いを解いたのは……


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記事:木村保絵さま(ライティング・ゼミ)

今にも雨が降り出しそうだった。
仕事を終えて、私は暗い路地を急いでいた。

「あはははははははは」
小さな窓から、ぼんやり明るい電球色と、楽しそうな笑い声が漏れていた。

「メイドはいいね」
「バニーちゃんもいいね」
月曜の夜からすっかりお酒が回っているようだ。

「昔、英語を習ってて……」
「落語をちょっと……」
「将来はパイロットに……」
「出版社で……」

生きてきた背景も、これから進む道もまったく違う大人が集まっていた。
性別も年齢も職種も体型も雰囲気もてんでバラバラ。
共通点と言えば、みんな一様に「黒」を身につけていた。
それが、ドレスコードとして、指定されていたからだ。

 

少し前まで、黒いお気に入りの服はたくさんあった。
レースの黒いワンピースも、
シースルーの黒いシャツも、ニットの黒いカーディガンも。

でも、
全部捨てた。
私にはもう似合わない。
いや、そもそも似合っていたのかどうかすらわからない。

「えー、そのスカートめっちゃ似合う! すごくいい!」
夏のセールで買った真っ赤なプリーツのスカートを、親友が興奮気味に褒めてくれた。

「あれ、珍しいね。いいんでしょ! すごい似合ってるよ」
サーモンピークの鮮やかな色のスカートを、母は嬉しそうに眺めていた。

「え、なんかいつもと違うね! 大人っぽくてすごくいいよ」
えんじ色のシンプルなワンピース。
私の見た目を茶化したことしかたない同級生が、真面目な顔をして真っ直ぐな視線で言ってくれた。

思い切って色味のある服を身につけた途端、周囲の目が嬉しそうに輝きだした。

 

「黒が似合うね。うん、すごくいい」
彼は、私をしみじみと眺めながら言った。
「うん、一番似合う」
彼は、優しい目で言った。

私は、彼が好きだった。

だから、
その日からいつも彼に会う時は黒い服を着た。
馬鹿の一つ覚えみたいに、黒を着ていればなんとかなると信じていた。
どんなに自信が無くなっても、もうだめだと思っても、
黒を着ていれば、きっと、彼の心を繋ぎ止められると信じていた。
いつの間にか黒い服は、お守りのように私の心を支えていた。

「女の人は、いつも華やかでいなきゃだめよ」
人生の大先輩は、真っ赤な花柄のワンピースでそう言った。

でも、黒を着なきゃ。
黒を着なきゃ、彼に嫌われるかもしれない。

黒い服を着なきゃ。黒い服を着なきゃ。

私に自信を与えてくれていたはずの黒い服が、呪いに変わっていった。

友人の結婚式に出る時も、奮発してお買い物をする時も、私が選ぶのは決まっている。

「あの……これの黒はありますか?」
気付けば、タンスもクローゼットも、黒で埋め尽くされていた。

 

「パーマはかけないほうがいいよ。ストレートでロングが一番似合う」
彼は、優しく微笑んだ。
美容室でパーマの部分を切ってもらい、ボブヘアにしてもらった。
「早く伸びて、早く伸びて」
私の髪がロングヘアになるまでに、彼の心が離れてしまわないか、心配だった。

私は彼を好きになる度に髪を伸ばし、
彼を諦めてはパーマをかけた。

女の人は失恋すると髪を切ると言うが、私の場合は逆だ。
再び彼に恋をする度に、パーマの残った部分を切り落とし、またストレートのロングまで伸ばした。

黒い服とストレートのロング。
彼への断ち切れない思いと一緒に、その呪いも私につきまとった。
「真実の愛のキス」
それが眠り姫にかけられた呪いを解く、唯一の方法。
私の呪いを解いたのは……

 

「あはははははははは」
黒い服を着た大人達が笑っている。
9月の終わりも近いのに、みんな汗をかきながら狭い部屋で肩を寄せ合っている。

「あ、あの鹿の写真の!」
「遠くに見える肉団子が食べたい」
「え、あの4回泣くという?」
「いやー、やっぱりバドワイザーでしょ」

狭い空間でみんなが一斉に喋り出すから、目の前にいる人の声すら聞こえづらい。

今日は、東京天狼院書店の3周年記念パーティーだ。
ドレスコードは天狼院のイメージカラーの「黒」

天狼院書店に通い始めてから黒い服を捨てたのに、
わざわざ黒い服を着てこいという。
厄介なお店だ。

そう、私にかかった黒の呪いを解いたのは、
残念ながら「王子様の真実の愛のキス」ではなく、
天狼院書店だった。

本を読み、文章を書く。
ただそれだけがこんなにも楽しいだなんて。
長年の眠りから目を覚ましたように、私は天狼院書店に夢中になった。
人見知りで無愛想な私は、知らない人のいる飲み会にはほとんど参加しない。
初対面の人ばかりの合コンなんて拷問としか思えず、一度も行ったことがない。

それなのに、天狼院書店のパーティーなら、楽しそうだと思ってしまう。
「あぁ、行ってよかったな」そう思える自信がある。

「あ、じゃあとりあえずフェイスブックを…・・・」
「あ、じゃあLINEのQRコードを」
まだ顔と名前も一致していないのに、連絡先の交換が始まる。

日常生活なら絶対にしない。連絡先の話題はいつも笑いながら避けている。
だけど、ここにいると、不思議と天狼院マジックにかけられてしまう。
この人がどんな文章を書くのか知りたい。
読みたくてたまらない。
自分には書けない文章を、世界観を、描写を。
読みたい、読みたい、読みたい。
「僕は書いていないです」という人にまで
「絶対に書いた方がいいよ!」と、お客さん達が新しいお客さんに魔法をかけていく。

 

「あはははははははは」
顔と名前の一致しない人達が、みんな笑っている。
ただそこにいるだけで、楽しくて仕方がない。
もっといたい。あの人とも話がしたい。あの人にもあれを聞いてみたい。

急にドキッとして、
チラッと腕時計を見た。

あぁ、だめだ。もう帰らなきゃ。

今夜は月曜日だ。
23時59分がメディアグランプリの締め切り時間だ。
「え、まだ書いてないの?!」
そこで笑っている人達は、みんな既に記事を投稿済みだ。

「すみません、帰ります!」
と宣言をすると「え、もう?」と言われる。
でも「まだ書いてないんで」と言うと、「あぁ」と納得される。

そこにいる人達のほとんどは、締切の怖さを知っている。
チッチッチッチ……
23時59分を1分でも過ぎると、夢は現実に戻ってしまう。

「魔法が解けてしまう前に……」

私は息を切らし、慌てて家に帰る。
書かなきゃ、書かなきゃ。

書いている間は、私は眠り姫にもシンデレラにもなれる。
カボチャとハツカネズミは、美しい馬車に生まれ変わる。

せっかく「黒の呪い」から解放されたというのに、
今度は「書く楽しさ」に取り憑かれている。

急いで走って家に向かう途中、ふと見上げると電信柱の先に、蜘蛛の巣が張っていた。
蜘蛛が獲物を捕まえる為に張り出したその罠は、キラキラと輝いていた。

「え、もしかして私、罠に……」
いやいや、まさか。

見るもの全てから色んな想像が始まってしまう。
もう、呪いも魔法も罠もいらない。
私は私の言葉で、世界を作っていく。
言葉を通して新しい仲間に出会い、一段ずつ階段を上っていくんだ。

「あはははははははは」
鮮やかなサーモンピンクのスカートを褒めてくれた母が笑っている。
「あなたも大人になったんだね。
段々年を取るとさ、黒が似合わなくなって、鮮やかな色を着たくなるんだよね」

な、なんと。
私が長年かけられていた黒の呪いを解いてくれたのは、
王子様の真実の愛のキスでもなければ、天狼院書店マジックでもなければ、
ただの老化現象に伴う自然な生理現象だったのか……。

はぁ。ドテカボチャになってしまう前に、自分で自分に魔法をかけなくちゃ。

 

 

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2016-09-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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