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プロフェッショナル・ゼミ

インフルエンザになったせいで、フランス出張と恋人になりそうだった女性を逃した時の話《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミプロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:高橋和之 (プロフェッショナル・ゼミ)

 

「インフルエンザのせいで出張も女性も台無しにした。病気になんか二度となるもんか」
心の中で叫んでいた。

しかし、その時は夢にも思わなかった。

 

インフルエンザにかかってよかった、と思う日が来ることになるとは。

 

 

昨年の2月に海外出張のチャンスがあった。
外資系の会社にいるのだが、転職して1年以上経つが海外出張のチャンスはなかった。
海外出張は昔から希望していたが今まで一度も経験がなく、これが初めてのチャンスであった。
しかも、行先はフランス。
フランスの音楽や絵画が好きなので、世界で一番行きたいと思っている国である。

海外出張が決まった時には心の中で
「よっしゃぁ!」

と、叫んだ。
滞在期間は一週間。
仕事がメインであり、観光する暇はほとんどないにもかかわらず、本当に心の底から楽しみであった。

出張の2週間前、社内には人がいつもより少なかった。
2月となると、季節柄風邪をひく人が多い。
自分の会社も例外ではなく、風邪が流行っていた。
せっかくの海外出張なのだから、風邪をひかないよう仕事中でもマスクをし、加湿器をつけて湿度を適度に保って万全の備えをしていた。

数日後、上司が急に会社を休んだ。
どうやら奥さんからインフルエンザをうつされたらしいとのことだった。
一般的には、インフルエンザにかかったら、薬を飲み始めてから5日+2日間、他人にうつさないために休む必要がある。
医療機器の会社にいるため、このあたりの管理は厳しく、インフルエンザになったら1週間休むルールが自分の会社にはある。

同じタイミングで、自分の隣の席の人も風邪をひいていた。
しかも、結構重症。
ゴホッ、ゴホッ、と咳がひどかったが、重症にもかかわらず頑張って会社に来ていた。
重症ならば休んだ方がいいのにと思いつつも励ます意味も込めて話しかけた。
「大丈夫ですか、無理しないで休んだ方がよかったんじゃないですか」
隣の席の人は、
「大丈夫、自分にしかできない仕事があるから頑張ってきているんだ、ゴホッ」
と、咳込みながら話す。
「インフルエンザのワクチンを打ったから、ただの風邪だよ。すぐ治るすぐ治る」
と、言う。精神的に気を持たせるため、すぐ治ると連呼したのだろう。
仕事のペースは本人の自由だし、早く治るといいなと思いながら仕事に戻った。

翌日は金曜日だったが、隣の席の人が休んでしまった。
何で休んだのだろうかと、疑問に思っていたらメールが届いた。

「咳がひどくて熱もあるなと思って病院で検査をしたところ、インフルエンザになりました。1週間会社を休みます。初めてインフルエンザになった!!」

とインフルエンザの陽性の証拠写真と共に、部内に対してメールが届いていた。
初めてなったことが嬉しそうなことが行間から読み取れた。
ずいぶんと能天気な人である。
ちなみに、インフルエンザのワクチンを打ったとしても、インフルエンザになることはある。
隣の席の人も例外ではなかった。

お大事にして下さい、と返信をしつつ冷静に考えた。
隣の席の人は昨日もインフルエンザだった。
インフルエンザは空気感染もするので、ウイルスをまき散らした可能性がある。
つまり、隣の席の自分にもうつる可能性があるということだ。

動揺してしまう。
今のところ、体調は悪くなく元気である。
インフルエンザになった人が隣にいたとしても、必ずうつるわけではない。
病は気から、とも言うし気にしないでおこう。
自分にはフランス出張がある、こんなところでインフルエンザになってなんかたまるか、と心の中で強く思った。

昼時になり、後ろの席の先輩が話しかけてきた。
「私たちもやばいかもね。上司もインフルエンザで休みだし、もう一人もインフルエンザになったし。うつらないといいけど」
と、先輩が言った。
「縁起でもないこと言わないで下さいよ」
と、自分は返す。
そして、先輩と声高に笑った。
二人とも元気だったからである。

 

そして、何事もなく午後も仕事につく。
違和感がでたのは夕方の5時頃。

喉が少し痛くなってきた。
それに、少しだけ頭も痛い。
週末だし仕事しすぎて疲れたのかな、そう思いながら仕事を続けたがやはり喉が痛い。

念のため、風邪のひき始めであることも考え栄養補給をしようと思いコンビニへ。
風邪にはビタミンCを多めにとるとよい、とよく聞くので、ビタミンCの入った栄養ドリンクを買いに行った。
エレベーターで一階に移動し、地下二階にあるコンビニまで階段で向かう。
足取りは少しだけ重かった。

コンビニに入り、真っ直ぐ目的の栄養ドリンクコーナーへ。
ビタミンCの栄養ドリンクを手にする。
レジの手前で、偶然会社の人と遭遇した。

後ろの席の先輩である。
その手にはビタミンCのドリンク、全く同じものが握られていた。

「ちょっと、先輩。何同じもの買ってるんですか」
と、からかうように話しかける。
先輩もニヤニヤしながら答える。
「いやー、なんか夕方から喉が痛くってね。念のため栄養補給をしておこうと思って」
目的は全く同じだった。

「自分もですよ、喉がなんか痛くて」
「インフルエンザだったりしてね」
先輩が冗談っぽく言う。
「笑えないですね、それ」
と、苦笑いしながら答える。

この日は残業もほぼせずに、18時過ぎに帰宅した。
万が一を考え早く寝るためである。
早めに家に着き、晩御飯をとりのんびりと本を読んでいた。

夜の10時頃、体が熱く感じ少し汗をかきやすくなっていた。
同時に頭がボーっとしてきた。
喉も痛みが増してきていた。

嫌な予感がしたので、熱を測ることにした。
体温計を脇に挟んでしばらく待つ。
ピピピッ、ピピピッ、と測定が終わった音がすぐに鳴った。

37.8℃。

体温計は、熱があるということを示していた。

「これはやばい、早く寝て明日は病院だな」
と心の中でつぶやく。
インフルエンザの判断基準の一つは38℃以上の高温である。
他にも、全身の痛みなどもあるが、基本は熱の高さである。

 

翌日の土曜日、海外出張9日前。
朝起きて気が付いたが、残念ながらのどの痛みも相変わらずあるし、頭もボーっとしていた。
そこで、朝早くから病院へ向かった。
病院に行くと、マスクをして咳込んでいる人が多かった。

診察券を出し、問診票にのどの調子が悪いこと、頭がボーっとして熱があることを記載した。
受付の人に
「今朝は体温計りましたか?」
と質問された。
「今朝は計っていません」
「では、測定してください」
そう言って、体温計を手渡してくれた。

診断の順番を待ちながら、体温を測る。
ピピピッ、ピピピッ、と測定が終わった音が鳴った。
体温計は

38.3℃

と熱が上がったことを示していた。
「これはあかんなぁ、インフルエンザになってしまったか」
と、心の中でつぶやきつつ、受付の人に体温計を渡す。

 

病院は混んでいたので、30分くらいは待つだろうなと思っていたが、数分後すぐに呼ばれた。

先生が開口一番、
「インフルエンザかもしれませんので、検査をしましょう。鼻に綿棒を入れます。少し痛いですが我慢してくださいね」
と言われた。

いきなり、鼻に綿棒を入れられる。
かなり奥まで入れられたため、思わず、

「ひたっ、ひたたた」
と、変な声が出ていた。

痛いって言いたかっただけであり、額がどうかしたわけではない。
鼻に綿棒を入れられてまともにしゃべれなかった。

「はい、終わりましたよ。隣の部屋で待っていてくださいね」
と、先生が言う。

連れてこられた隣の部屋は隔離用の部屋であった。
つまり、インフエンザの疑いがある、ということであった。
さっき計った結果が38℃を超えていたので、いやな予感はしていた。

インフルエンザの検査は、5分位で結果が出るキットがあるので、とても早く診断が可能である。
5分経てば結果が分かるかな、と思いながらボーっとしていたが、2,3分も経たないうちに先生が来た。

「インフルエンザが陽性なので家で大人しくしてください。来週は会社も休んでくださいね」

「分かりました」
と、がっかりしながら回答する。

あーあ、インフルエンザにかかってしまった。
確実に隣の人にうつされたな。
出張に行けるのだろうか、ものすごい不安が押し寄せてくる。

先生が、
「これがインフルエンザのキットです。このAと言うラインに線が入っていたらA型のインフルエンザで、Bと言うラインであればB型に感染していることになります。Aのラインに線が入っているので、A型に感染しましたね」
と、解説をしてくれた。

先生は続けて話す。
「最近は、会社にキットの写真を送って証拠にする人が増えています。診断書代わりになりますから撮っておくといいですよ」
とアドバイスをしてくれた。

こうなったら開き直るしかない。
今日のランチをFacebookに載せるようなのりで写真を撮った。

「インフルエンザになりました」
と、ネタでFacebookに投稿しようかと思ったけどやめることにした。
会社への連絡も月曜の朝でいい。
それよりも先に連絡しないといけない人がいた。

 

 

ちょうどこのころ、弘子さんと言う女性と仲良くなっていた。
美術館、映画館、ショッピング等、何回かデートをしていた。
一緒にいる時間はとても楽しく、趣味も似ており会話も弾んでいた。
そろそろ告白しようと思っていた、自分にはとても魅力的な女性だった。

この土曜日の午後からもデートをする予定であった。
キャンセルをしないといけない。
お詫びを入れないといけない。

病院を出て、薬局で薬をもらった。
帰途につきながら弘子さんへ電話をする。
残念ながら、電話は繋がらなかった。
代わりに、インフルエンザになって今日は会えなくなったこととそのお詫びをするメールを送った。
先ほど撮った陽性の写真も添付した。

数分後、電話がかかってきた。
「大丈夫、インフルエンザになっちゃったの辛くない?」
と、心配してくれた。
「何とか大丈夫と言いたいのだけど、ごめんね。今日会えなくなっちゃった」
申し訳なさそうに答える。
「気にしないで、それよりもお見舞いに行ってもいい?」

とても嬉しい提案である。
正直なところ夢のようなシチュエーション。
ただの風邪なら、居酒屋の定員みたいに

「はい、喜んで」

と答えるのだが、今かかっているのはインフルエンザ。
うつすのを防ぐために全力で断らないといけなかった。

「ありがとう、とても嬉しいのだけど、うつす可能性があるから気持ちだけいただいておくね」
「そっか、しょうがないね。あんまり無理言ってもしょうがないからまたメールするね」
「ありがとう、本当にごめんね」
「気にしないで、それよりも早く治してね」

優しい言葉が嬉しかった。
体調を崩しているとなおさらである。

病院から帰った後も翌日の日曜日も、自宅からは出ることなく部屋で大人しく過ごした。

月曜日の朝、出張7日前。
上司に証拠写真と共にメールを入れた。
上司はインフルエンザから復活し、出社していたようだった。
すぐに電話がかかってきた。
「お前もインフルエンザか、今週は休みでいいよ」
上司は落ち着いた声で言った。
「フランス出張どうしようか、上司と相談させてくれ。また連絡する」
「このタイミングで申し訳ありません」
と、電話越しに頭を下げてお詫びする。
「気にするな、それよりも無理せずしっかり休めよ」
とだけ言って上司は電話を切った。

「はぁ、今週は休みかぁ。のんびりできるけど、出張は絶望的だなぁ」
ため息をつきながら独り言が出てしまう。

数時間後、上司から出張のことを知らせる電話がかかってきた。
「フランス出張は俺が行くことになった。海外出張は体力使うから、お前は来週大人しく日本にいた方がいい」
と、予想通りの内容であった。
「分かりました、申し訳ございません」
「さっきも言ったが気にするな、俺もフランス行きたかったんだ」
多分部下にフォローをいれたかったのであろう。
なぜなら、2ヶ月前に上司はフランスに行っているからである、しかもプライベートで。
いい上司だと思いつつ布団に入る。

「フランス、行きたかったなぁ」
布団で横になりながらつぶやいてしまう。
体調は、薬が効いたせいかだいぶ良くなっていた。
熱もインフルエンザにしては高くなく、なぜか37.5℃であった。
どうやら、インフルエンザになったとはいえ軽め症状であったようだ。

それなりに頭も働くので、メールで上司にお願いをして、仕事用のパソコンを自宅に送ってもらうことにした。
メールチェック位はできそうだった。

 

翌日、パソコンが届いた。
中にはメモ書きがあった。
「パソコンは1日30分以上開くなよ。あと、フランス出張のことは気にせず俺に任せろ。差し入れをいれておく。お大事に」
段ボールの底に先日コンビニで買ったビタミンCのドリンクが3本入っていた。
差し入れを見て思わず笑ってしまった。
いい上司に恵まれたな、と感謝をした。

 

その週は、ずっと自宅から出ることはなかった。

まるで檻の中にいるような気分だった。
何か悪いことをしたわけではない。
ただ、インフルエンザになっただけである。

でも人と会うことはできない、外に出ることもできない。

とても孤独であった。

もちろん、メールで会話をすることも、電話をすることもできた。
片思い相手の弘子さんとも会話をした。
この時間は心身ともに安らいだ気がした。

だが、外に出られないこと、仕事もできないこと、人と直接会えないこと。
何より弘子さんと直接会えないことが本当に苦痛であった。

たった1週間だけなのだけど、ひどく長く感じていた。
早くこの、自宅と言う名の檻から自由に出られる日が来ないかと強く願った。

 

1週間が経ち、月曜日になった。
久々に会社へ出社できるようになった。
上司はフランスへ旅立ったので会うことができなかった。

隣の席の人は嬉しそうに、
「インフルエンザお互いに大変だったね」
と、能天気なことを言う。
原因はあなたですから、と思うと少し腹立たしかったが、
「そうですね、元気になってよかったですね、お互い」
とだけ答えた。

後ろの席の先輩は元気そうだった。
先輩はインフルエンザにならなかったらしい。
「いやー、災難だったね、社内でうつされて」
と、隣の人に聞こえないように会話をする。
「本当ですね、先輩はインフルエンザにならなくてよかったですね」
「ビタミンCのおかげかな」
「先輩、それ私も飲みましたよ」
二人で大笑いする、この先輩とは仲が良い。

この日から、仕事には完全に復帰できた。

 

そして、もう一つの大事なことをやっと再開できることができた。
夜になり、弘子さんにメールをした。
「インフルエンザ治って、普通に仕事再開したよ。いろいろありがとう」
すぐに返事が来た。
「よかったね、これでまた元気に仕事できるね(^^)」
と、一緒に喜んでくれた。
「次の週末に時間あるかな。この間のお詫びもしたいし、遊びに行こう!」
とデートに行く誘いをする。

が、なかなか返事は来なかった。
数時間後、唐突に弘子さんから電話がかかってきた。
「今大丈夫かな、お話したいことがあって」
弘子さんの声のトーンはあまり明るくない。
何か深刻な話がありそうであった。
「大丈夫だよ」
少しドキドキしながら返事をする。

「実は、2日前に彼氏ができたの。それで、もうこれ以上は遊びには行けないかな。ごめんね」

「そっか、おめでとう」
とお祝いを言うが、声のトーンは高くはない。
正直なところ青天の霹靂であり、ものすごく落ち込んだ。
仲は良かったと思っていたし、お見舞いなんて話もしてくれたからそれなりに好意も寄せてくれている、なんて思っていた。
だが、勘違いだったのだろうか。

弘子さんは、なぜか彼氏ができた背景を話し始めた。
声のトーンはなぜか嬉しそうではなく、少し低めであった。
インフルエンザで自分とのデートがキャンセルになった日に、友人に突然合コンに誘われ参加したこと。
その時に偶然出会った男の人と意気投合をしたこと。
そして、一昨日告白されてOKしたこと。

 

インフルエンザになって、出張だけでなく恋愛のチャンスも逃すのかと絶望的な気分になった。
なっていなければ、恋人として付き合い始められたのかもしれない。
そもそも、もっと早くに告白していればよかったのかもしれない。

ただひたすら自分を責めてしまう。
でも、どんなに後悔しても時間も弘子さんも戻らない。

5分位だろうか、弘子さんは話し続けた。
その間は口を挟まずにずっと弘子さんの話を聞いていた。

「それじゃあ、そろそろ切るね」
と、弘子さんが言った。
「体調には気をつけて仕事がんばってね。あと、素敵な彼女ができるといいね」

苦笑しながら、
「ありがとう、色々頑張るよ。お幸せに」
と言って電話を切った。

その日は体中から力が奪われたかのように気力がわかず、ただひたすら落ち込んでいた。

「あー、もう。インフルエンザのせいでフランス出張も女性も台無しにした。病気になんか二度となるもんか」
心の中で叫んでいた。
怒りからなのか、悲しみからなのか、思いっきり物を投げたい衝動にかられたが、我慢をする。
自分の部屋だから、何か投げたら大変なことになる。
バッティングセンターにでも行って、かっとばしたい気分だったが、時間も遅いので寝ることにした。

 

翌朝。
どんなに落ち込んでいようが、今日も仕事である。
「朝なんかこなければいいのに」
と、心の中でつぶやく。
身体は元気でも、気分は最悪である。

正直なところ会社をサボりたいと本気で思った。
何かをしたい気分では全くなかった。
でも、インフルエンザで休んでいた分、仕事は溜まっている。
逆に働いた方が気は紛れるかもしれない、と思い直し出社をした。
思った通り夢中になって仕事ができたので、その週の仕事はそれなりにはかどった。
いつもよりもケアレスミスは多かったが。

 

あっという間に一週間が過ぎ、翌週の月曜日。
フランス出張に行った上司と久々に会話をした。
「フランス出張お疲れ様でした、本当にご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げて詫びる。

上司はなぜか大笑いした。
「気にすんな。それよりも元気そうでよかった」
豪快に笑い飛ばす。
「代わりに俺が行って良かったよ、散々な出張だった。海外経験が豊富な俺でも今回の出張はやばかった。正直なところ、お前に行かせなくてよかったと思っている」
と上司は続けた。
「何かあったんですか?」
と質問すると、上司は笑いながら延々と不幸話をしてくれた。

飛行機のトラブルのせいで、空港で何時間も待たされたこと。
やっと飛んだ飛行機が悪天候でとても揺れて、いつか墜落するんじゃないかと生きた心地がしなかったこと。
仕事は普通にこなせたが、ホテルがダブルブッキングのせいで部屋がなく、別のホテルを探すのが大変だったこと。
街中を歩いていたら、後ろから二人組の男が来て、こっそり鞄を開けて財布をすられそうになったこと。
他にも散々な目にあった出張だったことを聞かされた。

この話を聞いてさらにお詫びをする。
上司は慌てて言いつくろう。
「ごめんごめん、責めているのではないよ。いい不幸のネタがストックできたよ。このネタは俺のもんだ。こういう不幸のネタはビジネスでは美味しいからね。特に外人受けがいい」
と、大笑いしながら答えた。

どんな不幸もネタに変える、この上司のポジティブさは見習いたいと思う。
部下のフォローもしっかりするし、本当にいい上司だと思った。

それと同時に、上司と同じ場面に遭遇したら間違いなく対応できなかっただろうとも思った。
そこまで海外経験は豊富でなかったからである。
今回の出張がキャンセルになってよかったと思ってしまった。
フランスにはプライベートで行けばいいだろう。

出張について吹っ切れたおかげでこの週は特に仕事がはかどり、インフルエンザで休んだ分の遅れを取り戻すことができた。
これで仕事の方は一応元通り。

 

でも残念なのは弘子さんのこと。
意外と長く引きずっていた。
自分で思っていたよりもずっと愛していたのだなと改めて思った。

次の出会いがあれば引きずることもないだろう。
だが、その後一ヶ月は次の出会いもなく、引きずり続けていた。

落ち込み気味の日々が続いていたが、ある週末に、古くからの友人と新宿西口のカフェに行った。
そこはコーヒーがとても美味しいお店だった。
バリスタで世界一をとったことがある人が経営するお店だそうだ。
コーヒーが大好きな自分にとって、お気に入りのカフェの一つである。

「いやー、ここのコーヒーはいつ飲んでも美味しいねぇ」
「まったくだ」
友人は左手でコーヒーを飲みながら同意する。

そのままのんびり雑談をしていたが、友人が唐突にインフルエンザの件を切り出してきた。
友人にはインフルエンザの話と、出張と女性を逃した件を話していた。
「いやー、災難だったな。フランスに行きたいって、昔から言っていたからなぁ」
「確かに残念だ。まぁ終わったことはしょうがない」
「女の件も残念だったねぇ、と言いたいところだが、その後を聞きたいか?」
「何の話だ、その後って?」

この友人は弘子さんと知り合いではない。
だが、弘子さんのフルネームは教えていたし、仕事なども簡単には話していた。
友人は、弘子さんのフルネームと仕事から、この友人の会社の後輩が弘子さんと知り合いだということが分かったそうだ。
世の中狭いなと思った。

「簡潔に言うが、お前二股かけられてたぞ」
「はい??」
「確か告白しようとしてたよな、受け入れられるかはさておき、元々彼氏がいるぞ」
「へっ!!」
言葉にならない言葉が出た。
「すまん、その話信じられない。そんなことをするような人には思えない、思いたくない」
と反論する。
「その気持ちはよく分かる」
と言いながら、友人は話を続けた。

つまりはこういうことだった。
弘子さんには元々彼氏がいた。
彼とたまたまケンカをしていて、別れようかと悩んでいた時期に自分とデートをしていた。
そんな最中に自分がインフルエンザになりデートがキャンセルになったので、偶然誘われた合コンに行った。
自分ではなく、合コンで知り合った男性と付き合いはじめたが、結局彼氏とは仲直りしてしまった。
そして、今は二股をかけている。

呆然としながら、なんとか質問をする。
「なんでそんなに詳しく知っているんだ?」
「いやね、会社の後輩に相談されてね。友人から彼氏が二人いて困っているって。どう相談にのればいいですか、ってね」

呆然として魂が抜けそうになった。
今なら、幽体離脱できる自信がある。

そんな様子を見かねてか、友人が質問をしてきた。
「お前、彼氏がいる女性と付き合えるか?」
「彼氏がいるって事前に聞いていて奪うならまだしも、隠されていたら無理だね。昔浮気されて死にたくなった記憶がある」
と、言いながらコーヒーを飲む。
美味しいはずのコーヒーに、味は感じられなかった。

「素敵な人だったんだけどなぁ、女性って分からないねぇ」
と、天井を見上げながら友人につぶやいた。
「女性から見たら男も分からんだろうよ」
友人は笑いながら左手でコーヒーを飲む。
左手の薬指にはめている指輪が、照明の光に反射して光っていた。
友人は結婚して2年目、なかなか説得力のある発言である。
ちなみに、奥さんとはいつもラブラブらしい。

複雑な気持ちだが、付き合わなくてよかった、そもそも告白しなくてよかった、と思ってしまった。

 

たった1週間、インフルエンザで寝込んだだけだったのだが、出張と恋愛と言う人生の危機を回避したようだった。

インフルエンザになっていなければ、フランスに行って苦労しながら仕事をしただろう。
もしかしたら強盗の被害にあって路頭に迷っていたかもしれない。

インフルエンザになっていなければ、弘子さんに告白をしていただろう。
もしかしたら、弘子さんと付き合えていたかもしれない。
だがそれは、彼氏がいることを分からないままである。

インフルエンザになっていなければ、は全て仮の話。
それらは起こらなかったからどうなっていたかは分からない。
だが、どちらもうまくいかなかったであろうことは明らかであった。

複雑な気持ちではあるが、インフルエンザになってよかったと喜ぶべきなのだろう。
特に恋愛については。

付き合って数ヶ月後に、
「実は、もう一人彼氏がいるの」
なんて言われた日には再起不能である。

 

本当に人生は分からない。
何がきっかけで幸せになるか、不幸になるか。
禍福は糾える縄の如し、とはこのことだ。

 

今回の件で、色々なことを考え直すようになった。
まずは、体調管理。
特に冬場に自分が体調を崩したら、早めに病院へ行くことにして、風邪やインフルエンザをうつさないよう気をつける。また、日ごろから運動をして病気にならない身体を作り、早寝早起きなどの健康的な生活習慣をするようにしようと強く思った。

そして、今回は偶然危機を回避できたが、今度似た様なことが起きたとしても、回避できるとは限らない。
だから、何かトラブルがあっても冷静に対応できるようになりたいし、色々な人と会って人を見る目を養いたい。
色々な経験を増やすことで、何が起きても動じることが少ない人間になっていきたいと思った。

 

そして、何より思ったこと。

健康なまま、より幸せな人生を生きたい。

 

いろいろなことを気づかせてくれたインフルエンザに、心から感謝をしたい。

 

辛いから、もう二度となりたくはないが。

 

 

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