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メディアグランプリ

あの日、路上でナンパしてきたおじさんに、私はもう一度苦情が言いたい


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記事:永井里枝(ライティング・ゼミ)

 

「CD、1枚ください」

声をかけてきた男性の顔を見て、「この人、知ってる」と思った。

太めの眉をハの字にしてニッコリ笑い、肩には一眼レフを下げている。

間違いない。ツイッターで見かけた「とりましょか?」の人だ。

 

その日、私は天神のど真ん中で路上ライブをしていた。

弾き語りをやっていこう、と決めて間もない頃。どうやったらライブというものができるのかわからず、見よう見まねで始めたのが路上だった。

家で録音したシロウトくささ丸出しのデモCDと、中古で買った61鍵のキーボードを担いで、夜の街に繰り出すのである。

 

一人でも立ち止まって聞いてくれる人がいたらいいな。

あわよくば、CDを手にとってもらえたら嬉しいな。

誰かライブに呼んでくれるような友達ができたらいいのに。

 

そんな思いを胸に、来る日も来る日も天神に向かった。

 

 

福岡という街は、音楽への熱量がとても高い。

天神や中洲といった繁華街では必ずと言っていいほど路上で歌っている人がいる。そして、その路上ライブを目当てに集まっている人もたくさんいる。

中にはプロデューサーと書かれた名刺を出して、よからぬ商売の話を持ちかけるような人もおり、そういった人への対処で少々疲れることもあった。

 

「とりましょか?」の人に声をかけられたのも、そんな怪しげな人を追い払った直後だった。ツイッターの情報を見る限り、アーティストの知り合いが多そうだ。この人はおそらく悪い人ではない。妙な親近感を覚えて、それまでの緊張感が解けた。

CDを渡した後も15分ほど歌を聴き、その男性はどこかへ消えていった。

家に帰ったらダイレクトメールでお礼を送ろうかな。そんなことを考えながらしばらく歌い、帰り支度を始めようとした時、その男性が同じ場所に戻ってきたのだ。隣に、ムーミンのようなフォルムの男性を連れて。

「この人は知らない」

少しずつ近づいてくるムーミンに警戒心を抱きつつ荷物をまとめていると

「すみません、○○というイベントをやっている者ですが……」

と声をかけられた。

それは福岡で10年以上続く歴史あるイベントで、いつかはそこに出たいと目標にしていたものだった。ムーミンはメジャーアーティストも輩出したそのイベントの主催者であり、「とりましょか?」の男性はイベントの専属カメラマンだったのだ。

 

 

それから数カ月が経ち、イベントの出演者の欄に私の名前が載る日がきた。

ライブ経験の浅い私がこのイベントに出てもいいのか? 一緒に名を連ねるアーティストを見て、何度もそう思った。

そしてあろうことか体調を崩し、全く声が出なくなってしまったのである。

 

「逆流性食道炎です。胃酸で声帯がやられていますね」

医者でそう言われた私は、薬をきちんと飲み、夜には体を起したまま眠った。食べ物も消化の良さそうな物を選び、どうにかして体調を戻そうと試みた。

しかし残念ながら、改善するどころか悪化の一途をたどり、イベントの1週間ほど前にはギブアップ宣言をせざるを得なかった。

 

 

自分が情けなかった。

半泣きの状態で出演辞退の連絡を入れた。

声が出ないのでメールを打つほかなく、それでまた「なんで声出ないの!」と、悔しさが増した。

 

当日、自分が出るはずだったライブを見に行くことにした。他のアーティストはもちろん、急遽私の代わりに出てくれた方もみんな素晴らしく、やはり自分が立つべきステージじゃなかったのかもしれないと思った。

「もう誘ってもらえないだろうな」

肩を落として帰ろうとする私に、2人は優しく「次は期待してるよ」と声をかけてくれたのだった。

 

 

それから2カ月後、ようやく立てたそのステージで私は何をやったのか。緊張しすぎてほとんど覚えていない。演奏も歌も、おそらく3割も力を出せていなかっただろう。

それなのに、またその2カ月後も出演依頼がきた。

 

 

次も、また次も、懲りずに誘ってくれる2人のおかげで、段々とレギュラーメンバーのような感覚で出演することができるようになっていた。

仕事終わりでそのまま会場に向かい歌う日もあったし、失恋した翌日に泣きながらステージに立ったこともあった。今思えば本当に迷惑な話だけれど、そんな私を丸ごと受け入れてくれる優しい空気に包まれていた。

共演者との繋がりも回を追うごとにどんどん広がった。路上で声をかけられたあの頃にはほとんどいなかった音楽仲間も、今では数えきれないほどになった。このイベントに関わり始めてから、人間関係が爆発的に広がっていったのは間違いない。

 

 

「イベントがお休みに入る」と聞いたのは、最初の出演から1年半くらい経った頃だった。もう既に、このイベントありきで自分のライブスケジュールを組むようになっていた。

正直に言うと、寂しいとか悲しいとかそういった感情よりも「不安」の方が強かった。

人との繋がりも、ステージ経験も、ほとんどがこのイベントから始まったようなものだし、今後どうやってそれを作っていけばよいのか、漠然と考えてはみるものの答えはみえてこなかった。

 

 

いざ、お休みに入っても、それは変わらなかった。今まで与えられた環境でその恩恵にあずかっていたことを実感した。もちろん、他にもお誘いをもらってイベントに出ることはたくさんあったし、そこではまた違った経験ができたのも事実だ。しかし心のどこかで、イベントの復活を待ちわびている自分がいた。

 

 

 

「いやー、悪い道に引き込んでしまって、すみません」

久しぶりに会った「とりましょか?」のおじさんは、そう言いながらお好み焼きをつついていた。路上で声をかけたことで、私の人生を変えたという自覚があるのだろう。

「本当ですよ、まったく」

もう冗談も言えるようになった私は、イベントがお休みに入ってからの事を話し始めた。

CDのリリースを終え、これからは歌だけに限らず様々な表現方法を探っていきたい。そんな思いを持ち始めた頃だった。

 

「それならね、おもしろそうな所があってですね……」

また眉をハの字にしてニッコリと笑い、天神にあるという本屋を教えてくれた。

聞き慣れないその本屋では、いい大人たちが夜な夜な集まり、文章を書くための講義を受けているという。

謎すぎる。でも、気になる。

すぐにネットで検索し、ホームページを開いた。

「今すぐ行きたい!」

そう思わずにはいられなかった。

だいだい、この店構えはなんなんだ! センスが良すぎる。居心地いいに決まっているではないか。

こうして天狼院書店を紹介された翌日にはお店に行き、ライティングゼミを受講する羽目になったのである。

 

 

 

ああ、またしても、人生を変えられてしまった。

「もしもあの時……」という人生の分岐点は誰にでもある。しかし、1度ならず2度までも、その分岐点に存在するとは。この先もまだ、そこにいてくれるだろうかと不安になってしまうではないか。

そんな私を尻目にニコニコ笑う「とりましょか?」のおじさんには、ファインダーの奥からその人の夢や未来が見えているのかもしれない。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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