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私は源典侍(げんのないしのすけ)になろうと思う。


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記事:櫻井 るみ(ライティング・ゼミ)
 

日本が世界に誇る古典文学作品『源氏物語』。

誰もが一度は授業で習ったり、訳本を読んだり、あるいはマンガで読んだことがあるだろう。

 

その『源氏物語』の登場人物の一人に源典侍(げんのないしのすけ)という人物がいる。

 

覚えていない人もいるかもしれない。

そもそも源典侍が出てくる部分を習ってないという人もいるかもしれない。

 

何しろ『源氏物語』は長い。

長いし、登場人物も膨大な数になる。

2,3回しか出てこないようなチョイ役、覚えていなくて当然だと思う。

 

 

 

源典侍は若い光源氏にちょっかいを出すおばさんである。

いや、おばあさんと言ったほうが近い。

何しろ「紅葉賀」という章で初登場した時、すでに60歳近かったのだから。

 

特に「美魔女」というわけでもなく、「若い頃は美人だったんだろうなぁー……」というようなおばあさんである。

センスが良くて、教養もあって、人柄も優れていて、帝からの信頼も厚い……、なのに自分の年齢を無視した色ボケという、少々残念なおばあさん。

 

それが源典侍。

 

 

自分の年齢を省みずに色めきたつ源典侍に、光源氏(イケメン)とその親友・頭中将(とうのちゅうじょう・イケメン)はドン引きなんだけれども、その時、光源氏はまだ18,9……。

若かった源氏くん。そんなに年上の女性に言い寄られても、スマートに断る術は知らない。

そりゃあ、ドン引くってものだ。

 

結局、イタズラ心を起こした光源氏と頭中将にからかわれて笑われるが、それでも懲りずに源氏に言い寄るという、そういう話。

 

源典侍は「笑われ役」で、その章は重苦しい物語の中での「箸休め」的な話となっている。

 

 

 

源典侍が「笑われ役」なのは、教養も才気もありながら、こと色恋沙汰において年齢に似合わない言動をするからだ。

 

 

 

しかしながら私は思う。

 

 

 

年のいった女が恋愛にキャーキャー言うことの何がおかしいのかと。

 

 

 

光源氏や頭中将に言い寄る源典侍は、40歳近くになって『キュン』だの『萌え』だの『恋バナ』だの『隣の彼』だの『嵐』だのにキャーキャー言っている自分に重なる。

 

もしかしたら、言われている方はうんざりしているのかもしれない。

もしかしたら、私を見ている周囲の人に「あの人もよくやるよねー」と陰口を叩かれているかもしれない。

 

 

でも、しょうがない。

楽しいのだから。

男性にドキドキして、キャーキャー言って、キュンキュンしているのが、ものすごく楽しいのだから。

 

 

私から恋愛を取ったら、きっと何も残らない。

残るかもしれないけど、出涸らしみたいなものだ。

誰にもドキドキしなくなった人生は、多分ものすごく味気ない。

 

恋愛があるから潤っていられる。

恋愛があるから日々の生活を楽しんでいられる。

恋愛はスイーツみたいなもので、なくても困らないけど、でも、あったからといって余計なものではない。

 

だったら、ある方を選びたい。

 

 

 

きっと源典侍も同じだと思う。

本気で若い光源氏や頭中将とどうこうなりたいわけではない。

ただ、イケメンにドキドキしているのが楽しいだけだ。

からかいの対象として声を掛けられているとしても、やっぱり嬉しいし、「あわよくば……」という下心も忘れない。

 

源典侍は、今で言うところの「肉食女子」なのだ。

 

ただ、風雅な恋愛物語では、少女のように華やぐ心とババアの図々しさが極めて絶妙なバランスで同居している、肉食女子なそのキャラクターが際立つのだ。

 

 

もしも、身近な知人に源典侍のようなおばあちゃんがいたら、きっと私は仲良くなれると思う。

むしろ「先輩」と呼んで慕うかもしれない。

 

 

 

1000年前の恋愛物語が現代でもウケているということは、1000年前から人間の本質はきっと変わっていない。

事実かどうかは別として、恋愛が上手くいかなくて体調を崩して、寝込んでそのまま死んでしまうという話もあるくらいだから、1000年前はやっぱりそれだけ恋愛が生活の中で大きな比重を占めていたのだろう。

老いも若きも男も女も、最大の関心事は恋愛事。

それは「種の保存」という本能的な意味で当たり前のことでもある。

 

 

 

 

そういえば、全く「種の保存」に関係のなくなった老人ホームで、色恋沙汰の揉め事がしょっちゅう起きると聞いたことがある。

しかもわりとドロドロ。

 

元気な高齢者だ。

きっと恋愛にエネルギーを使えている間は、元気に生きていられるのだろうなぁ。

 

 

 

『源氏物語』の「朝顔」という章の中で源典侍はもう一度登場する。

時は流れ、その頃光源氏は30歳前後。

源典侍は70歳前後。

出家して、さすがに以前のように誘いかけてくるような言葉はないものの、久しぶりに会えた光源氏にはしゃいでいる……というシーン。

現代風に言うなら、「思わぬ場所で元カレと再会した」ような。

 

 

いいなぁ……と思う。

私も60になっても70になっても、男性にキュンキュンしていたい。

その頃には5歳差も9歳差も21歳差も、あんまり変わらなくなっているはず。

 

さすがに40歳差はどうかと思うけど……。

 

 
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2016-10-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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