ふるさとグランプリ

私が福井に帰らない理由《ふるさとグランプリ》


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記事:福居ゆかり (ライティング・ゼミ)

私が故郷の福井県を出てから、もう何年も経つ。
あと数年もすれば、故郷で過ごした時間よりも他県で過ごした年月の方が上回るだろう。

福井県内の人はその地理上、北と南に分けてそれぞれを「嶺北」、「嶺南」と呼ぶ。
嶺北と嶺南では方言を始めとして文化が大分異なるので、福井を知っている方、そしてこれから訪れるかもしれない方のためにあらかじめ断っておくと、私がここで記載しているのは主に「嶺北」の話である。

私は福井県が大好きだ。

自然は豊かで美しい山も海もあり、水も綺麗で美味しい。
そのおかげでお米に始まり、食べ物も海の幸山の幸ともに美味しく、お酒も美味しい。越前蟹や鯖寿司などは全国的に出回っており、あちらこちらで目にする。
眼鏡産業や越前和紙、越前漆器、打刃物……文化も多様に発展しており、福井産のものは伝統性があるけれど、今でも日常生活で使いやすい、美しいものが多い。
全国有数の恐竜博物館、曹洞宗の本山である永平寺、観光名所である東尋坊、朝倉氏遺跡などもある。
また、教育にも力を入れており、全国学力テスト、体力テストでは上位を占め、子どもを連れて遊びに行ける場所も多い。

これはほんの一部で、誇れるところはまだまだ山のようにある。まともに書いてしまうと、ガイドマップが出来てしまいそうだ。
福井は、本当にいいところだ。
日本で幸せな県ランキング1位なのも納得できる。

けれど、私が福井に住むことはもうないか、あってもずっと遠い未来のことだろうと思っている。

なぜ、福井を出たのか。
そして、帰らないのか。

私の産まれた町は福井でも都心の方ではなかった。
そのため、主な交通手段といえば車で、学生だった私は自転車に乗って移動するのが常だった。電車やバスはあるけれど、一時間に一本くれば良い方で、乗り過ごしたり遅延したりすると全く動かなくなり、不便だった。
そうなると、友人の家に遊びに行くにも親に送迎してもらうことが多かった。親にお願いすると、当たり前だが向こうの都合に左右される。ちょうど話が盛り上がったところでバイバイ、ということもあり、自由を奪われている気がした私は不満だった。

また、私が高校生の頃までは、北陸では本は発売日より一日遅れで入荷していた。
本が大好きな私は、よく発売日に本屋へ行っては、目当ての本がなくてがっかりした。
やっぱり、ない。
未練がましく、本屋の中を一周してみたりもした。
そして、一日遅れだったことを忘れていた自分を呪いながら、いっそ本屋にある発売日一覧もずらして書いてくれればいいのに、そう本屋に対して思っていた。

コンサートもなかなか来ない、流行りは一足遅れ、大きなショッピングモールもあまりない。テレビや雑誌の中の女子中高生はキラキラしていて、楽しそうで、羨ましかった。
電車に乗って自由に移動して、一番に新しいものを手にできる生活に、ものすごく憧れた。

なので、大学へ進学するときは地元を離れようと思っていた。福井を出て、もう少しでいいから都会に行きたい、と。
電車にほぼ乗ったことがないこと、親が反対したことにより東京や大阪は諦め、ほどほどの田舎の県へと私は旅立った。

家を出た私は、念願だった東京へよく遊びに行った。
そして都会の華やかさに目を奪われ、就職するタイミングでもう一度実家へ帰ることは選ばなかった。

一度、就職してしまうと帰ることは困難になった。年末年始の休みに数日、帰省するだけの故郷。いつかは帰ろうかな、そう思いながら一年、二年と過ぎた。
しかし、都会に慣れ、地元を離れた私はときどき無性に寂しかった。福井に帰ろう、何度もそう考えた。けれど、いざ帰ろうと思うと手が止まった。
なぜ帰ろうとしなかったのか。
それは福井が私にとっての「ふるさと」だからである。

「ふるさと」は、私にとって「帰る場所」であってほしい。
そこに住んでいても、もちろん帰る場所ではある。
けれど、ずっと住んでいるとその場所が「日常」となってしまい、「あたりまえ」になってしまう。
そうではなく、「日常から離れて、帰る場所」という心の拠り所にしたい。
そんな思いから、福井を離れていることに気がついたのだ。
そして、私はあんなに出たかった福井が大好きだということを。

いざとなったら、どうしようもなくなったら、帰ろう。その思いを支えにして、仕事が辛い時も、長く付き合った彼氏と別れて苦しい時も、ギリギリのところで耐えてきた。

歌人の俵万智さんが福井県にゆかりがあり、講演を伺ったことがある。
俵さんは、「福井が好きだから、福井に帰らない」とおっしゃっていた。そのことが中学生だった当時はピンと来なかった。そう言うのなら福井に住めばいいのに、と思っていた。
今ならよくわかる。
福井が好きだから、福井を離れるのだ。

いつか、ずっと先。「もし、何かあったらふるさとに帰ろう」そう思わなくなった、その時には福井に帰ろうと思う。
そして、福井での暮らしを満喫し、福井最高! と笑いたい。
昔と違い、本は発売日に手に入り、流行はネットで手に入る。あんなにデメリットだと感じていた事は、この10年であっという間に解消されていた。

今日も、心のうちのふるさとの空気を思う。いつか帰る、その日まで。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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