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下北沢に行くとオバサンになります


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記事:うらん(ライティング・ゼミ)

 

 

あの、ここだけの話、下北沢には行かないほうがいいと思います。

 

私、知ってるんです。下北沢に行くとオバサンになってしまうって。

 

「若者に人気の街」なんて言われてますでしょう? そんな世評に騙されてはだめ。青山や表参道とは違んです。そんなにイケてません。

 

 

下北沢の街を歩いたことはありますか。

 

若い人の姿を多く見かけます。同じように、若くない人の姿も多くお見受けします。

 

ニット帽のお兄さんたちの間を縫って、オバサンがショッピングカートを引いて歩いている。花壇の縁に腰かけてタピオカチャイを飲む女子高生の隣には、おじいさんが休んでいる。待ち合わせスポットのベンチで、ガテン系のおじさんがお弁当を食べている。

 

そうなんです。シモキタは「遊び」と「日常」が入り混じっていて、ヨソ行き感がまるでありません。若い人も若くない人も、街に自然に溶け込んでいます。

せっかく気張ってジョガーパンツを履いていっても、これではただのジャージです。

ふんぱつしたサポサンダルも、つっかけにしか見えません。

街に足を踏み入れるやいなや、あれよあれよという間に周りの空気に馴染んでしまいます。そして、普段の自分になっていることに、すぐに気付くでしょう。

素の自分のままでいられる。すっかり緩んでる。「スカしているのも疲れるしな」なんて気分になってくる。

 

あれ? おかしい。非日常を求めてシモキタに来たはずなのに。

 

 

もう一度お尋ねします。

下北沢の街を歩いたことはありますか。

 

私、気付いてしまったんです。下北沢は歩くペースが遅いってことに。

 

これが渋谷なんか歩いてごらんなさい。ちょっとでもノソノソしようものなら、ぶつかられたり「ちっ」なんて言われたり、何をされるかと気が気ではありません。

青山辺りになりますと、大股で颯爽と歩かなくては! などという気持ちになってしまいます。私など、顔で弾かれないよう、表情までクールを演出していますもの。

 

下北沢には、そういう無言のプレッシャーはありません。ノソノソしている人が堂々とノソノソしている。ノソノソしていない人も、つい、のんびりと歩いてしまうのです。

 

気を付けて。そうなってしまってはシモキタの思うつぼです。

私も何度この手にはまったことか。気持ちがすっかり緩んで、のんびりぶらぶら歩いてしまうのです。

 

おかしい。今日はガールスコレクションで歩く山本美月になりきって来たのに。

 

 

シモキタに絡めとられて身体面では緩んでしまっても、心理面ではまだきゃぴきゃぴ。

そのうち、身体も心に追いついてくるはず。

シモキタで何をしよう。「日本初上陸!」なんてお店に行列している自分。セレクトショップで買い物をしまくっている自分。

まあ、なんて素敵なの。想像しただけでウキウキします。

下北沢には細い路地が網の目のように広がっていますが、スケールが小さい街です。どんなにノソノソしようと、歩いて十分まわれる広さ。

それなのに、路地を奥へ奥へと進んでも、いっこうに「日本初上陸!」は出てきません。セレクトショップも見あたらない。低層の古いビルや個人店ばかりです。

 

『分け入っても 分け入っても 古い店』

 

そんな訳の分からない句が口をついてしまうのが下北沢。

 

見ていると、シモキタの商店街には、昔ながらのお店と、新しい若者のショップとが混在しています。

創業50年のお蕎麦屋があるかと思えば、ニューヨーク・カップケーキのお店がある。赤・青・白のサインポールが回る床屋の近くには、エスプレッソのコーヒースタンドがある。草履屋がある。カフェがある。畳屋がある。アトリエショップがある……。え?

畳屋? 若者の街シモキタに畳屋?

驚いたことに、昔ながらの畳屋さんが、今も手作業で仕事をしているんです。

職人さんの手の動きは無駄がありません。仕事の流れがスムーズで美しい。見ていて惚れ惚れします。

畳の張り替えのある暮らし。そんな温かみのあるものが今でも続いているのね、この街には。

身体のなかで眠っていたDNAが反応するのでしょうか。どこか懐かしく、心が和んでしまいます。

 

って、おかしい。和んでどうする。「日本初上陸!」を探していたはずなのに。

 

 

先に申し上げておきます。

踏切の待てない人は、下北沢に行ってはいけません。

 

下北沢には踏切が結構あります。再開発が進んで、その数はだいぶ減りました。それでもまだまだあるんですよ、ふ・み・き・り。

 

不可解なことですが、シモキタでは踏切を待つ人に、イライラしている人がいません。

 

右から電車が来るといって、チンチンチンと鳴る。

それが行ったかと思いきや、すぐさま左からチンチンチンとくる。

どうせだったらということで、いや、そういうことではないと思いますが、左からのチンチンチンに合わせて右からもチンチンチンが始まる。

もう両方の矢印が点滅して、「何が何でも渡らせないぞ」という強い意志すら感じます。

それなのに、誰もイライラしていない。

「それでは待たせてもらいましょう」という風情で佇んでいます。

本当はイラついているのかもしれません。でも、見た目だけでは見破れない。

どんなに待たされようと、皆さん余裕の表情です。まぁ今すぐ渡れなくても今世紀中に渡れればいいかな、ぐらいの、心のゆとりを感じます。

 

たとえ心のなかではイラついていても、ここは見た目だけでも泰然自若を装うのが、シモキタでは正解です。

 

私も、なかなか渡れないことにはじめのうちはイライラしました。

ええい。そんなに渡らせたくないのだったら、分かりましたとも! おまえなんか絶対に渡ってやるもんか。渡ってくださいと言われたって渡らないぞ。来てほしかったら、そっち側からこっちに来い、と息巻いたものです。

 

それでも、シモキタの踏切を待っていると、なぜか他の皆さんと同じように、のどかな気持ちになってくるのです。

そうして、いつの間にか、しずかなること風のごとく、動かざること山のごとしの自分になっていることに気付くのでした。

 

おかしい。スケジュールが分刻みのシティ派ガールを目指していたはずなのに。

 

「オオゼキ」というスーパーの前にあった踏切は、開かずの踏切として有名でした。

小田急線が地下に入ったことでお役御免となり、今はもうその姿はありません。

2013年3月23日、夜中の1時03分下り最終列車をもって、その踏切は幕を閉じました。そのとき、踏切とのお別れをするために多くの人が集まったのです。

そんな夜中なのに。なんか、みんな、集まってる!

 

最終列車が通りすぎると、あたりには歓声と拍手が沸き、さらには「ありがとう、踏切~!」の声があちこちから上がったではありませんか。

 

ありがとう? 踏切に? おおお。シモキタの人、熱い。

待たされたのに、「ありがとう」

私を待たせたけれど、憎めないヤツ。

 

名残惜しくて写真を撮ったり、行き交う人がハイタッチをしたり。その場にいた人たちが、シモキタ大好きという気落ちを分かち合っていて、それはそれは盛り上がったのなんのって。

なんだか私も言いたくなってきました。

「踏切、ありがとう!」

 

おかしい。自称ドライな女ではなかったか。いつ人情派になったか、私。

 

 

いけない、いけない。

これではシモキタの熱さに開眼しはじめています。もっとクールダウンしなくては。

 

「もっとクールダウンしなくては」と口では言いながら、あるホットスポットに足が向いてしまうのは、いったいどういう仕組みなの、私の身体は。

 

向かう先は『こはぜ珈琲』というお店です。

そこでは、落ち着いた内装の店内で美味しいコーヒーが飲めます。

 

今、(そんな所、たくさん知っているさ)と思われましたね? 思われましたね?

それが、少し違うのです。

そこに行くと、不思議な幸福感が得られるのです。

 

そのお店には、「恩送りカード」というものがあります。

「恩送り」ってご存知でしょうか。

「恩送り」というのは、誰かから受けた親切や善意を、直接その人に返すのではなくて、他の誰かに返していくことです。

「恩」といっても、「恩返し」のような重いものではありません。もっと軽いもの、善意のギフトみたいなものです。

その善意を受けた人は、さらに他の誰かに送って、その誰かがまたさらに……。そうやって、世の中に善意の連鎖が起きてくる、という考えです。

 

『こはぜ珈琲』の「恩送りカード」は、こういうシステムになっています。

ドリンクを一杯購入するごとに、カードにスタンプが一つ押されます。スタンプ12個でいっぱいになり、そうなると誰かにコーヒー一杯をプレゼントできるのです。

サービスを受けることができるのは、本人以外の人です。カードに贈りたい相手を記入する欄があり、そのカードが店内のボードに貼られます。

贈る相手は誰でもよく、知人の名前を書いてもいいですし、たとえば「池袋で働いている人」と書けば、池袋で働いている人がお店を訪れたときに一杯プレゼントされる、という寸法です。

他にもたとえば、「福岡出身の人」とか、「ハゲ人」とか、なんでも構いません。該当する人が自己申告すると、サービスを受けることができます。

 

今、(自分でためたポイントなのに、自分が使えないなんて)と思われましたね? 思われましたね?

 

でも、そこがいいんです。

知らない誰かが、自分の贈ったギフトを受けて喜んでいる。ラッキーなんて思っているかもしれない。

そんな姿を想像すると、幸せな気持ちになってきます。

自分からのギフトで、誰かの気持ちが一ミリでもアップしてくれたら嬉しいな。そういう気分になってくるのです。

 

以前、『あたえる人があたえられる』という本を読んだことがあります。

あれって、こういう感じのことかな。なんてことを考えながら、今日もボードにカードを貼りました。

 

お店がこのサービスを始めると、シモキタのお客さんは「それ、いいんじゃない?」と、このシステムをすぐに取り入れてくれたそうです。ボードに貼られるカードの数も、みるみるうちに増えていきました。

これが、六本木や赤坂のお店だったら、こうはいかないような気もします。

 

「へへ。今日も贈った」

このトキメキを味わいたくて、このお店につい足を運んでしまいます。

 

人をこんな気持ちにさせるなんて、んもう、シモキタ訳わかんない。

 

シモキタがどんな技を使っているのか知りませんが、その術中にはまると、この街にいる人のことが愛おしくすら思えてくるので、くれぐれも用心してください。

 

そして、やたらと世話をやきたくなる。何かをしてあげたくなる。

 

でも、私は気を付けていることがあります。

それは友人にこう釘を刺されているから。

 

「知らない人に平気で話しかけるようになったら、オバサンの始まりだからね」

 

分かります、分かります。そういうことって、時々ありますもの。

バス停で並んでいるときに、後ろの熟女が「なかなか来ませんね」と声をかけてくる。エレベーターで乗り合わせた中年女性に、「今日は蒸しますねぇ」と共感を求められる。

 

もちろん、どんなに人情派になってしまおうとも、そんなことはしないつもりです。

 

 

でも、今、ちょっとした衝動に駆られていて、それを抑えるのが大変。

 

目の前で、若いカップルが手元のスマホと通りの先の交差点とを交互に見て、何かを話しています。

スマホ見て、交差点見て、スマホ見て、交差点見て……。

 

あああ。だめ、つい言ってしまいそう。

 

「どちらかお探しかしら?」
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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