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歌舞伎町での一晩が、私の人生観をガラリと変えたときの話


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記事:佐藤穂奈美(ライティング・ゼミ)

 

「もしもーし、いまなにしてんの? 今日新宿で飲めない?」

 

 

ヒロくんからの電話だった。

 

 

今週は残業続きだったから、明日は寝溜めするぞっ、と心ゆくまで寝る気でいたのに、鳴り止まない電話のせいで土曜日の朝はあえなく終了した。

 

「何してるもなにも、まだ朝の9時だよ?  仕事で疲れて寝てたんだけど……」

 

「まだ9時?  オレはもう朝ごはん食べて、散歩もしちゃったよ!  ていうかさ、ほなみ最近付き合い悪すぎじゃない?  彼氏と仲良くしてるのもいいけどさぁ、たまには俺とも飲めよなあー。まあ、いいや! そういうことで今夜19時に新宿東口のいつもの店で待ってるからっ!」

 

「え? ていうかまだこっちの予定言ってないし……」

 

「え、だめ……?」

 

私が断る雰囲気を察したのか、途端にションボリしたヒロくんの様子が声からありありと伝わってきた。

 

ああもうっ!!!  ションボリ攻撃はやめてくれっ

 

「…… いいよ、わかった。今日は元々予定なかったしとりあえず行くから」

 

「あ、ほんとっ?  待ってるからっ! またあとでねっ」

 

ガチャ

 

なんというバイタリティ……。

 

いっつもこうだ。異様なバイタリティと謎の強引さで振り回される。

 

ハア……。

 

一息ついて、思わずため息が出たが、不思議とヒロくんの強引さは私を不快にさせない。

そんなヒロくんの不思議な魅力に騙されて(?)私たちの友情は続き、大学で出会ってからもう8年になる。

 

うわあ……すごい人……。

 

ションボリ攻撃に負けて行くとは言ったものの、連日の残業で疲れていた私は、新宿の人混みに当てられて、駅に着いた瞬間から後悔していた。

 

その頃の私は、自分の働き方について悩んでいたし、だからといって仕事も忙しく、そのほかのことに目を向ける間もなかった。

 

パアーっと飲む、みたいな気持ちでもないんだけどなあ……、そんなことを考えながら待ち合わせ場所へ向かう。

 

あっ。

 

ヒロくんだ。

 

 

あっという間にもやもやしたきもちは忘れてしまった。

 

 

姿勢の良い立ち姿にビシッときめているジャケット。

髪はいつも通りしっかりセットされている。

遠目にもあそこにいるのはヒロくんだとわかった。見間違うはずもない。

 

そう、私はれっきとした恋人がいるにも関わらず、ヒロくんがすきなのだ。

 

「よっ!」

 

私のきもちを知ってか知らずか、ヒロくんはいつもみたいに片手を上げてぷらぷら近寄ってきた。

 

「久しぶり〜」

 

気心知れた私たちは挨拶もそこそこに、よく行く居酒屋で夕食を食べつつ軽く飲んだ。

 

「最近彼氏はどうなの?」

 

「それがさあ、もう仕事が忙しくて全然会えないんだよね……」

 

そんな感じで私がすこし寂しそうにすると、ヒロくんは身を乗り出してあれやこれやと私を励ましてくれた。

 

そうなのだ。ヒロくんは強引だけど、とてもやさしくていつも励ましてくれる。

 

ついさっきまで浮かない気持ちだったのに、ヒロくんと話すうちにだんだん元気になってきた。きっとヒロくんの強引さがいやじゃないのは、ヒロくんに会うと必ずげんきをもらえると分かっているからかもしれない。

 

そんなこんなでほどよく酔いも回ってきたとき、

 

ガタンッ

 

ヒロくんは突然立ち上がり「2軒目行くぞっ」と、高らかに宣言した。

 

ほろ酔いで気分がよくなっていた私は、「はあーい」と快諾し、店をでた。

 

ヒロくんはずんずん歌舞伎町の街を歩いてゆく。

 

歌舞伎町のだいぶ奥まで進むと、ピンク色の怪しいネオンが光るラブホ街にさしかかった。

 

「あの店はほんと若くていい子がやってるんだよなあー」とかつぶやくヒロくんの後ろを置いていかれないように速足でついていくと、お目当ての店についた。

 

「いらっしゃいませー。カウンターにどうぞ」

 

カウンターに通され、とりあえずビールを頼む。

 

「俺もさあ、こうやってほなみと飲めるのもあと1年だと思うんだよなあ。明日や1年後に死ぬってわけじゃないけど、あと10年は生きられないと思う。だからさ、いろいろ忙しいとは思うけどたまにはこうやって飲もうよ」

 

「まあ、そんなこと考えたくないけど、たしかにそうだよねえ……。あ! てか、私またお腹空いてきちゃった! なんかおつまみないですかっ」

 

私は、カウンター越しに店長さんに話しかけた。

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

てか、じゃねえよ! って?

 

なにそんな重いはなしを てか! とか流してんだよって?

 

いやだって、そうなんだもん。

 

ヒロくんは今年で84才になる。

 

 

ヒロくんの家にあるのは、なかなか年季のはいった固定電話だけなので、毎回電話を切るときガチャンとうるさい。

今時スマホで「ガチャン!」はない。

ヒロくんは結構なじいさんなので、とりあえずめっちゃ早起きだ。だいたい毎朝4時に起きて奥さんの手料理をワシワシ食べ、サッサカ朝のお散歩に行く。

昼前には一日の大半の日課を終え、あとはねこの福ちゃんにおやつをあげたり、本を読んだりして過ごしている、私のちょっと年上の友達だ。

 

ヒロくんとは大学生時代にやっていたカフェのバイトで知り合った。

ヒロくんご夫婦は週に2度はモーニングを食べるために、私のカフェにやってきた。

ヒロくんの来る時間はだいたい朝とても早いので、あまりお客さんもいない。よく会うので、食事を出したついでに雑談をするうち仲良くなった。

 

仲良くなるにつれ、今度は奥さんと三人で飲みに行こう! となり、飲みに行くようになった。

正直最初はあまりにも年上すぎて気を使うし、なるべくヒロくんご夫婦の会話に合わせようと考えすぎてしまって、ぜんぜん楽しくなかった。

 

だけど、とても楽しみそうにしているヒロくんご夫婦と断るに断れず行った2回目の飲み会の時である。

 

歌舞伎町のスナックに場所を移し、いい感じに酔ってきたヒロくんの奥さんであるさっちゃんが「あのね」と私に言ってきた。

 

「なんか、この年になってもさあ、これからの人生もっと楽しく生きるにはどうしたらいいかな、とか、新しい趣味始めてみようかな、とか、私の人生これでいいのかな、とか夜になるといろいろ悩むのよねえ」

 

「えっ? いまだに?」

 

失礼なことに私は露骨に驚いてしまった。

 

だって私の祖父は「よく若いころは苦労したけど、今は家族に囲まれて悩みもなく暮らせて本当に幸せだなあ」とか言う人だったし、そうじゃなければ「若いうちはそれくらい苦労しておくのがいいもんだぞ! 社会はそんな甘くない」みたいな説教してくるジーサンにばかり会ってきた。だからなんとなく、年上の「おじいちゃん」や「おばあちゃん」は自分と同じように今を試行錯誤するような悩みなんか持っていないと思っていたのだ。もう人生を十分楽しんで、ゆったり長い休暇期間に入った人たち、というか。

 

だから、私にとって80才を過ぎても自分の生き方に悩みを持っているという事実はもう、目から鱗だった。その年になれば、今の自分が「私は本当はなにがしたいのかな」みたいな面倒な悩みから解放されると思っていた。

 

年上だって思って何を話そうとか悩んでたけど、自分と悩んでいることは同じじゃん!

 

そう気が付いたら、ヒロくんご夫婦に対する見方が180度変わった。

 

それまでは、ヒロくんが「おれはさあ、もう寿命も長くないから朝すごい早く起きちゃうんだよな。もういやになっちゃうよ」みたいなことを言ってくるとき、「そうですかあ、でもまだまだお若いじゃないですか」とか言っていた。

 

しかし、ちがうのだ。

 

ヒロくんのよく言う寿命トークは26才の女子が「最近、オールとかまじできついんだよねえ。次の日一日寝ちゃうもん」と同じなのだ。

 

だからヒロくんへの正しい返しは「4時!? 4時って夜だよ? ああ、まあ、でもいいんじゃない? なんか早起きのほうが健康そうで」くらいでよいのだ。

だってお互い自分の普通のことを話してるだけだもの。

ちょっと年が違うから、体力とかは違うけど、結局話してる内容とか考えてることって自分と同じなんだ……。

 

そりゃ今まで会話かみ合わなかったよね。ごめんね、ヒロくん。

年齢って言うフィルターがあまりにも強すぎて、知らず知らずに年寄りというカテゴリーにヒロくんを放り込み、年寄りは話が合わないひとというレッテルを貼っていた。

ヒロくんやさっちゃんだって自分と同じように悩む人だなんて思わなかった。

 

「あああーーーーー! なんか私、ばからしくなってきちゃった」

 

だんだん笑いがこみ上げてきた。

 

「え、なんで?」

 

さっちゃんがきいてくる。

 

「なんかさ、私なかなか自分のやりたいことが見つからなくて、毎日焦ってて。でも悩むのって辛いから、いつかおばあちゃんになったら『ああ、わたしいま満ち足りてしあわせだわ』って穏やかに暮らすことを夢見てたんだよね。でもさ、今もさっちゃん悩んでるじゃん。なんか、もう70とか80過ぎても悩むんだったら、もうこういう自分のきもちから逃げたり、焦ったりするんじゃなくて、もう一生かけてじっくり向き合っていけばいいんだなって。そしたら、もう人生の一大事みたいに毎日悩んでた自分がばからしくなってきちゃった」

 

「うふふ。そうよ。何才になってももっと楽しく生きるにはどうしたらいいかって、自分はこのままでいいのかって悩むわよ。この人だってそう。」

 

ヒロくんを指さしながら、そう言うさっちゃんはなんだか楽しそうだ。

 

たぶん、さっちゃんもヒロくんもちゃんと自分の人生を自分の手の中にしっかり握っているんだ。

ただ全てを受け入れて時を重ねていくのではなくて、ちゃんと毎日自分がどんな風に生きたいか考えてる。

 

悩むってことは、人生をよりよくしていきたいって真剣に考えているってことなんだ。

 

 

わたしがヒロくんご夫婦と本当に仲良くなったのはこの日からだ。

 

 

 

 

 

悩むのはつらいし、面倒くさい。

 

もう、今のままで十分幸せだなって悩むのをやめたくなる時もある。

 

だけど悩み続けていていいんだ、きっと。

 

2人と飲んだ歌舞伎町の夜が私を変えた。

もちろん今も悩んでいることには変わりないし、たまにどよんとしてしまうこともある。

でも悩み方が変わったと思う。

いやだなあ、つらいなあっていうよりは、「もっと人生を楽しむためには今なにをしたらいいだろう?」と悩むようになった。

焦ることもなくなった。

毎日悩んで、すこし成長して、私もいつか、もっとたのしいことがあるんじゃないかってわくわく悩めるばーちゃんになろう、そう思えるようになった。

 

 

 

 

 

「おっ! きたきた」

 

さっき頼んだビールとつまみがカウンターにおかれる。

 

「じゃあ改めて……」

 

 

「かんぱあーい!」

 

 

明るいグラスの音が響く。

 

明日からまたどんな楽しいことができるだろう?

 

子どものようにわくわく企む、26才と84才の夜がまた更けていく。
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

 

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2016-10-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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