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窓際のにゃんこ


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記事:木村保絵(ライティング・ゼミ)

「うわー、気持ちよさそう」
一軒家のベランダ。カーテンが開いていて、窓際に籐のかごが置かれていた。
やわらかなタオルが敷かれているその上に、真っ白な猫が丸くなって寝そべっている。

「ふわーあ」
白い猫は、目を線にしながら気持ちよさそうにあくびをしている。
平日の午後に、窓際で日向ぼっこができるなんて、なんてしあわせなんだろう。

「うらやましいぞ、このやろー」
心の中でつぶやいてみた。

白い猫はペロペロと自分の毛を舐めながら、チラリとこちらを見た。
「本当に? 本当にあたしになりたい?」
ガラスのビー玉みたいなキレイな琥珀色の瞳に、心の中を見透かされているようだった。

わたしは慌てて目を反らし、目の前にある公園に向かって歩き出した。
心の奥に仕舞い込んでいた本音がチラリと顔を出しそうになった。
ダメ。そんなことになったら、泣いてしまう。

***
土日は人でごった返している公園も、平日の午後は比較的穏やかだった。
背の高い木々の隙間から漏れてくる陽の光を浴びていると、自分を取り戻せる感覚がする。

「すみません」「ごめんなさい」
普段なら街を歩いては、誰かにぶつかり、謝ってばかり。

いや、最近はそれすらもしなくなってきた。
混雑する駅のホームでは、後ろから蹴飛ばされようが、前から来る人が肩にぶつかっていこうが、
文句を言うこともできない。
こんなに痛いのにどうして黙って耐えなきゃいけないんだろう、と悔しくなる。

何者かになりたくて、数年前に故郷を飛び出した。
環境を変えれば、なんとかなる気がしていた。
だけど、東京の雑踏には何者にもなれなかった亡霊達が彷徨い続けている。
ホームと線路の境界線は、生と死の境界線でもあるのに、あまりにも無防備だ。
どうしてみんな平気な顔して歩けるんだろう。
それどころか、電車の到着が近付けば、我先にと誰かを押してでも前に進もうとする。
どんどんホームのギリギリまで追いやられて、それでも通りすがる人はみんな次から次へと肩にぶつかってくる。
自分の意思をしっかり持っていなかれば、境界線はすぐ側までやってきている。

「おかしいよ。こんなの人間の生活じゃないよ」
そう漏らしたくなる。
だけど、声にすれば、どんな返事が返ってくるかはわかっている。

「だったら出ていけばいいじゃない」

いつだってそうだ。強い者はそこに馴染めない人間を外へ追い出そうとする。
「そうだそうだ、おかしいぞ!」という反乱を起こさないために、小さな火種を消し、声を上げようとする意思を奪っていく。

どうすることもできず、気付けば、心も体もぐったりと疲れている。
何をしたわけでもないのに、何かを残せたわけでもないのに、拭い去れない疲労感ばかりが増していく。

川の底に沈んでいくような、そんな日々が続いていた。
プカプカ浮かびながら穏やかな流れを楽しんでいたのに、突然激流に飲み込まれる。
岩にぶつかっては、また次の岩へと流され、気付けば傷だらけで沈んでいく。

「帰りたいな」
心の奥に仕舞い込んでいた思いが、突然浮かび上がってくる。
元いた場所へ、あの穏やかな日々に。
帰るべき場所に。

故郷の胸がすくような濃い青い海と、生い茂る緑が目に浮かぶ。
陽の光が水面に反射し、眩しいほどにキラキラと輝いている。
寝そべった牛のようにどっしりと構える山は、どこにいても帰るべき場所を教えてくれる。
道に迷ったとしても、山を探せば自分がどこにいるのかが必ずわかる。
自分が進むべき方向、そこまでどれだけ距離があるのか、目で見て知ることができる。
一人で暮らす母の笑顔や、今は海を眺めなら眠る祖父母の顔。
輝く時間を共有した友人たちや、そんな友人のこどもたちを抱きしめた時のあたたかくやわらかな感触。
笑いすぎて痛くなった頬の感触までが、リアルに蘇ってくる。

あぁ、ダメだ。
封印していた思いが突然湧き上がり、目の前がぶわっと滲んだ。
あたたかい方へ、穏やかな記憶へ流されていきたくなる。

だけど。
今はまだ、帰るわけにはいかない。
自分で出ると決めたんだ。まだ何も得ていないし、残せてもいない。
夢のような居心地の良いその場所も、今手にいれようとすれば幻となって消えていく。
今はまだ、ここで踏ん張るしかない。そう自分に言い聞かせる。

通り過ぎてゆくベビーカーを押す幸せそうな家族の姿が、胸を締め付ける。
手をつないで嬉しそうに笑い合うカップルの姿を、直視することができない。

鬱蒼とした人混みに疲れて、平日の公園と逃げ込んだのに、
人混みが消えて空間が広がると、自分のそばには誰もいないことに気付かせられる。
気付くのが嫌で走り続けていたのに、疲れて足を止めた瞬間、目を背けていた現実に襲われる。

「にゃー」

突然草むらから黒い猫が現れた。
少し痩せていて、右耳の辺りは土で汚れている。
背中にも枯れ草が乗っていて、左後ろ足は傷の跡なのか、少し毛が薄くなっている。

触りたい。あの猫のあったかい毛を撫でて、心臓がドキドキしているのを感じたい。
衝動のような願望に突き動かされ、早足で黒猫を追いかけた。

「待って!」
心の中でそう叫ぶと、黒猫がチラリとこちらを振り向く。

「嫌だよ。そんな義理はないね」
プイッと前を向いて、スタスタと走っていってしまう。

「待って、待って」
自分でもおかしいと思いながらも、必死で猫を追いかける。
猫に触りたい。あの猫に触りたい。

ちょっと前までは、職場の近くを丸々と太った虎猫がうろついていた。
低い声で「にゃー」って鳴きながら足元に擦り寄ってくる。
アゴの辺りを撫でるとゴロゴロ言って、気持ちよさそうに目を細めていた。
「あんたも大変だね」と言いながら頭を撫でると、嬉しそうな顔しながらも「うるせー」と頭を左右に動かしていた。
満員電車と混雑するホームを抜け出した後、仕事を始める前にあの虎猫に触れる数分に癒やされていた。
気付くとあの猫が、支えになっていた。
心の隙間にスッと入ってきて、じんわりあたたかく埋めてくれていた。
だけど、ある時忽然と姿を消した。
あれからもう何ヶ月も経っているのに、いまだに姿は見えない。
どこかへ行ってしまったんだろうか。もう、会えないんだろうか。

仕事が終わるころ、ドアを開ければそこで待っていてくれた。
朝は角を曲がると日向ぼっこしている姿が目に入る。
猫だけが気付く声で話かけると、ハッ! っとこっちを振り向いて、ドタドタと寄ってきた。

こんな大きな街の中で、嫌というほどに人が溢れる街の中で、わたしを認識してくれる存在がいることが、救いだった。
だからこそ、あの虎猫がいなくなってしまったことが、わたしの不安を大きくした。
わたしもこのまま、何者にもなれず亡霊となってこの街を彷徨うんじゃないだろうか。
ただひとり、消化きれない思いと不安を抱えながらただ日々を消化していくのではないか。
そんな不安が、拭っても捨てても、ゾンビみたいに襲い続けてきた。

「いやだ、そんなのいやだ!」
そう思いながら黒猫を追いかけた。
猫のあたたかくてやわらかいお腹に触れたり、手を舐めるあの下のザラザラの感触を味わうことで、
自分がここにいることを、確かめたくなった。

一瞬でもいい。あたたかさに触れて安心したかった。
それなのに、あっという間に黒猫を見失ってしまった。
どこにもいない。
どこにいったんだろう。

草むらの辺りをキョロキョロしても見当たらず、はたと足を止め、顔を上げた瞬間、その光景にギョッとした。

公園の中にある大きな池を囲むように設置された丸太の柵。
ベンチに座りきれなかった人が、腰をかけて休んでいる。
20cm置きに、ひとりかふたりずつ、並んで座っている。
その数は30人くらいいただろうか。
こんなに広い公園で、座れる場所を求めて集まってきた人達。
その全員が、スマートフォンを片手に、下を向いていた。
後ろには大きな池があって、見上げると今日は雲ひとつない快晴だ。
目の前には、まだ緑の葉が生い茂る木々が立ち並んでいる。

なのに、そこにいる全員が、下を向いてスマートフォンの画面を睨んでいた。
背を丸めて肩を落とし、ただ人差し指を上下しているだけだった。
ふたりで並んでいる人達も、会話もせずにそれぞれが無機質な画面に夢中になっている。

なんだか、悲しくなった。
この街にはこんなにもたくさんの人がいるのに、
色んな人が身を粉にして作り上げているサービスが溢れているのに、
何者かになりたいともがき続けた誰かの夢が形になっているのに……。
そんなことには目もくれず、小さな画面に吸い込まれて一歩も動き出せない人達が、そこには溢れていた。

もしかしたら、これからの行き先を調べているのかもしれない。
地図で場所を確認したら目的地に向かう。そのために一度足を止めただけかもしれない。

だけど、その数の多さにわたしは動揺していた。
そして一瞬で目が覚めるような感覚がした。

「行き先を決めなきゃ。自分を持たなきゃ」

東京は、想像以上に大きな街だった。
行き先を決めなければ、どこにも行けない。
気付けば人混みに流されて、本意ではないところに辿り着いてしまう。

東京だけじゃない。
色んなことが便利になりすぎて、情報や誰かの声が、常にこんこんと湧き出て溢れ出している。
自分軸をしっかり持って判断しなければ、気付いた時にはその濁流に飲み込まれてしまう。
さらにその自分軸も、竹のようにしなやな強さを持っていなければならない。
曲げられないほどに硬いものであれば、何かにぶつかった衝撃で、ポッキリと折れてしまう。

あぁ、下を向いている場合ではない。
前を向いて歩き続けなくちゃ、と背筋が伸びた。
色んなことに挑戦して、失敗して、時には溺れながらも、それでも進み続けなければ。
そうでなければ、東京で生き抜くこともできず、故郷に帰ることもできず、彷徨い続けてしまう。
小さな画面の世界に入り込んで、そこから抜け出せなくなってしまう。

10月も半ばを過ぎると、東京でも風は冷たくなる。
数時間外を歩いていたら、指先はすっかり冷えてきた。
「よし、もう帰ろう」そう決めて、来た時より軽い足取りで家路に着いた。

公園を出て住宅街の坂を上り、またさっきの一軒家の前まで戻ってきた。
日はもう陰ってきているのに、あの真っ白の猫はカゴの中でぼんやりとしていた。

「あー、あんたか。おかえり」
白猫は、興味なさ気にあくびをしている。

「ただいま。まだそこにいたの?」
「そりゃそうよ。ここがあたしの居場所なの。他に行く場所なんてないわよ」
「そっか。辛くない? ずっとそこにいたら、抜け出したくならない?」
ガラス越しにくつろぐ白猫に、そっと聞いてみた。

「ならないわよ。あたしね、こう見えてさんざん冒険してきたのよ。
傷だらけになって、自分より大きい猫とも闘って、なんとか生き抜いてきたの。
それでようやく今のやさしいご主人に出会って、穏やかな日々を過ごせるようになった。
あたしのおでこやお腹を撫でながら、しあわせそうに微笑んでくれる。
そんな顔を見ていたら、それ以外は何もいらないって本気で思う。ここがあたしの居場所なのよ」
そう言って白猫は、自慢げに得意げに微笑んでいる。
「そっか、しあわせそうだね」

「で、あんたは? やっぱりあたしになりたい? 今の生活を投げ出して、あたしになりたい?」
またガラスのビー玉みたいな琥珀色の瞳で、まっすぐにこちらを見つめている。

「んーん、ならない。今はまだいい。そりゃね、ちょっとはうらやましいな、そんな生活したいなって思うよ。
でもさ、わたしは猫じゃないから。呼び名をつけるとしたら、都会で奮闘する独身OLだから。
「窓際のにゃんこ」はしあわせそうだけど、「窓際の独身OL」じゃ痛々しいでしょ。
そんなのにはなりたくない。わたしはわたしのやり方で、しあわせで穏やかな日々を手に入れるよ」
「あ、そう。あんたが本気なら、一日くらい代わってあげてもいいと思ったのに残念。
じゃ、気をつけて帰りな。もう日が暮れるよ」
そう言って、白猫はカゴの中で丸くなり、目を閉じた。

「変な休みだったなー」そう思いながら歩き出した。
明日からはまた変わらぬ毎日が始まる。
明日は少しだけ早起きしてみよう。
そうすれば少しだけ違う景色が見えるかもしれない。
建物の屋根が地平線に代わるその街も、燃えるようなオレンジ色に染まっていった。

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-10-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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