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ふるさとグランプリ

池袋はいつまでたっても「まいりました」と言ってくれない。《ふるさとグランプリ》


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記事:との まきこ(ライティング・ゼミ)

この20年近く、池袋には数えるほどしか行っていない。おそらく、ほんの5〜6回だろう。

それ以前は、毎日来ていた。月曜日から金曜日まで。池袋にある会社に勤めていたからだ。
その会社には、以前勤めていた職場の上司だったO氏から誘われて移った。新規事業を立ち上げるから、そこでやってみないかと言われたのだ。

その新規事業の顧客はO氏がすでに用意していたが、オペレーションに関する部分は、私が一人でゼロから形にしていかなくてはならなかった。
当時、私は28歳。初めてのことへの不安、ビジネス経験の少なさ、精神力の弱さ、プレッシャーなど諸々を抱えながらも、必死だった。それに、脇役や黒子ではなく、自分が初めて表舞台に立てたようでうれしかった。

今振り返ると、荒削りけずりではあったし、ムダな動きもあったと思うが、それでもよく頑張っていたと思う。
何度も徹夜した。それでもなんとも思わなかった。自分の仕事が遅いから徹夜するハメになるのだとそのときは思っていたから、自主的にサービス残業にした。徹夜したことは、会社の誰にも言わなかった。
1分たりともサービスなんかしてやるものかというふてぶてしさを備えた今の私からは、考えられない。

最初の顧客であるH社の人たちは理解のある人たちで、仕事もしやすかった。私が若い上に危なっかしくも見えたのだろう。彼らはよく「頑張っているね」とやさしい言葉をかけてくれて、それが本当に励みになった。

途中で新しい社員も一人入れてもらい、仕事に慣れてきたこともあり、徹夜することもなくなってきた。そろそろもう少し仕事を増やせそうだと思っていた矢先に、私はクビを宣告された。

私が担当していたその事業をやめることにしたというのが、クビの理由である。
寝耳に水ではあったが、意外にも私は動揺することなく、事態をすぐのみ込んだ。
後から入ってきた社員は、事務職として残すという。彼女は私より少し年上だし、要領もよくないから、転職は難しいだろうというのがO氏の言い分だ。

「君はどこに行ってもやっていけそうだから」
とO氏は言った。
なんだか、体のいい別れ話みたいではないか。
「君は一人でも生きていけるけど、彼女のことはほっとけないんだ」
ということか。

O氏は、ごていねいに次の彼氏まで手配してくれていた。顧客であるH社に、私のことを引き取ってもらうよう、手はずも整えてあるというのだ。
とにかく私はその場で素直に別れ話を受け入れ、新しい彼氏のことは保留にさせてもらった。

それでも、やはりくやしかった。O氏との話が終わった後、私はトイレに駆け込んだ。くやし涙を我慢することができなかった。職場のトイレで泣いたのは、後にも先にもあのときだけだ。

結局、私は新しい彼氏のところにも行かず、退職した。いや、解雇された。
そうして、O氏とその周辺からきっぱりと縁を切った私は、池袋とも縁がなくなった。池袋はそんなに遠いところではない。行こうと思えばいつでも行けるのだが、私にとって取り立てて行く理由がある場所でもないのだ。

でも、何かしらの用があって何年かに一回は池袋の町に降り立った。そのたびにO氏とあの会社のことを思い出してしまう。
思い出すと同時に、ここでO氏にばったり会えないか、いつもキョロキョロしていた。O氏に会って、見返してやりたいのだ。

クビになってから初めて池袋に行ったときは、「あなたに世話してもらわなくても、こうしてちゃんと正社員として働いているのよ」というところをO氏にアピールして、見返してやりたかった。
でも、冷静に考えると、そんなの当たり前かと思った。これでは、まだ足りない。

そのまた数年後に池袋に行ったときは、「今、海外で働いていているの。すごいでしょ」と自慢してやりたかった。
でも、私は現地採用だったから、企業から派遣されて行っている人に比べて劣るような気がした。O氏を見返してやるには、まだまだ足りない。

そのまた数年後には、前よりもっと大きな会社に入っていることを。そのまた数年後には、役職が付いたところを。そのまた数年後には……。
まだまだだ。一つ上がるたびに、足りないものが一つ見えてくる。

O氏に勝ちたい。O氏をぎゃふんと言わせたい。「まいりました」と言わせたい!
「そんなちっぽけな会社でくすぶってるOさんなんかより、ずいぶん立派になったでしょう?」
と言ってやりたかった。
でも、今じゃない。もっと立派になってからじゃないと効果がない。

あれ?

もっと立派になってから?

それに終わりはあるのか?

手に入れたいと思っていたものは、自分のものになったその瞬間に色褪せる。だから「やっと手に入れた!」という実感も達成感も満足感もなければ、それを大事にもできない。こんな程度のものだったのか、こんなに簡単なことだったのか、と。
そうやって、その次が手に入れば完璧だという妄想に常に取りつかれ、永遠にたどり着かないゴールを目指して、私はせっせと走っていただけだった。

O氏は私なのだ。私が私に「まいりました」と認めれば、もう走らなくていいのだ。

だからといって、おいそれと「まいりました」とは、まだ言いたくない。
私はまだ走っていたいのだ。

でも、これまで走ってきた方向に走ることはやめた。
今は、方向転換をして、改めて走りはじめるためのストレッチをしている最中だ。
そっちに終わりがあるのかないのかわからないが、どうせなら、走っている間も楽しい方がいい。だから、こっちを走ってみようと思う。方向転換はいつでもできるのだから。

じゃあ、もうO氏のことはいいのかって?
いいえ、いつか見返してやりますよ。
私が私に「まいりました」と言えるその日まで、Oさん、どうかお元気で。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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