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ふるさとグランプリ

山梨の泥酔おじさんとの因縁《ふるさとグランプリ》


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記事:サイ・タクマ(ライティング・ゼミ)

日本百名山のひとつ、八ヶ岳を目当てに旅をしていた時のこと。

塩尻駅から甲府行きの電車に乗り換え、座席の一番端が空いているのを見つけて、腰掛けた。
5月の涼しい風と昼下がりのまぶしい光。
ここまでの道中で、木曽川を北上する光景に目を細め、列車旅の情緒に浸る。
実に穏やかな気分だ。

電車がゆっくりと動き始める。

ガタン、ガタンと揺れる度に、右腕になにか重みを感じる。
おっちゃんだ。

隣の人が睡魔に負けて頭を前後に「舟を漕ぐ」ことは珍しくない。

こういうのはわざとやっているものじゃない、お互いさま精神に則って許してあげよう……日本は平和だなあ……と、しばらくそのままにしていると、今度はおっちゃんの首と肩が、俺の視界にゆっくりゆっくりフェードインしてきた。

舟漕ぎの角度が、エグい。
凄い、と言うよりも、エグい、と言いたくなるぐらい、尋常じゃない。
こちらの顔面を目がけて頭が動いている。
接触しそうになって、思わず首を引く。

おっちゃんの後頭部は電車の揺れに合わせて5度ずつ傾いていき、日没前と正午を不規則なスピードで反復する天体の運行みたいだった。
角度に比例して、こちらに寄りかかる体重も、とてつもなく重い。
おっちゃんの白髪交じりの顔は、俺の胸のあたりまで落ちてくる。

こんな大胆な寝相は初めてだ。
そして臭い。最初は気がつかなかったけれど、強烈に臭い。

おっちゃんは、泥酔していた。それも相当に。

ぷーんと漂う酒臭さに加えて、どこかで失禁してしまったのだろう、尿の匂いも混じっている。
こいつはハードだ!!

最初のうちはそっと気付かせて、体勢を元に戻すように促していたのだが、何度繰り返しても、
おっちゃんは目を覚まさない。
それどころか、どんどんと角度が深くなっている。
座席の向かい側に座っているおばさん達も、怪訝な視線を投げかけてくる。

声をかけてみても生返事が続くので、とうとう腕を掴んで大きく揺すり、大声で呼んだ。
「おっちゃん!! おっちゃん、どこに行くの」「ここ、どこだかわかる」
そう言って目を覚ましてあげた。

それがまずかった。
ここから俺が降りる駅までおよそ1時間半、長い長い酔っ払いとの対話が始まった。

意識を取り戻したおっちゃんは、山梨の人のようだった。
「山梨によう来たなァ、よう来たァ~」
事あるごとにこのフレーズを連呼するおっちゃんは、自分の故郷が大好きで、悪い人ではなさそうだった。悪い人ではなさそうだったが、ものすごく面倒くさい酔っ払いだった。

少しでも他人行儀な受け答えをすると、頬を膨らましてふてくされるのだ。
綺麗なお姉さんならまだしも、初老の泥酔した男性が頬を膨らませたところで1ミリとて可愛くはないことを、おっちゃんをまじまじと見つめながら改めて認識した。

自分の目的地より手前で降りたりしないだろうかと淡い期待をかけて、「どこで降りるの」と聞いてみたが、残念ながら俺より先の駅で降りるらしい。

俺は静かに腹を括った。
もはや逃げ場なし。こうなったらトコトン酔っ払いの相手をしよう。

「兄ちゃんァ、どっから来たおォ~」
漫画だったらおっちゃんの目はバッテンで描かれているに違いない。
呂律の回ってない口は端のほうで少し泡立っている。
「神戸っす」
「神戸?? 関西か~。関西にはア、優しい人がおったアな」
その昔、吹田市付近で放浪していたころに、一宿一飯の恩を受けたことがあるらしい。
あてもなく宿なし生活をしていた、という経歴に首を傾げるところだが、人生いろいろあるだろう。
そのまま聞き流した。

否定するでもツッコむでもなく、へえ~、ふう~んと相槌を打ってやると、興が乗ってきたおっちゃん。

「よっしゃ、決めた、俺ァ神戸行く! 老後の夢が増えた! 飲もなぁ兄ちゃん、絶対やで!」

膝をしきりに拳で叩くおっちゃん。

おっちゃん、今叩いてるのは俺の膝だよ。俺の膝。
叩くなら自分の膝を叩いてくれよ。

あまりに何回も叩くので、1回だけ膝をサッと動かして避けてみた。
おっちゃんはスカっと外してバランスを崩して、ゆっくりと口を拭った。
少し酔いがさめたようだ。

「これな、やる」
唐突に長野のガイドブックをもらう。少し汚れている。何の汚れなのかはわからない。
要らない要らない、と社交辞令じゃなく本気で断ったが、もう本を握ろうともしないので、有難くいただくことにした。
長野特集のオズマガジン。若い女性向けの雑誌だ。おっちゃんのくせに。
「おっちゃん、なんでこの雑誌持ってんの?」
と訊ねてみたが、じっとこっちの顔を見るだけで答えてくれない。
この時のおっちゃんの瞳は、犬みたいに濡れていた。

電話番号を教えてくれ、と携帯電話を取り出した時はさすがに躊躇した。
「神戸に遊びに行くときは山梨の上等なワインを持っていくからな、だから案内頼むぞ」

かなり迷ったが、どうせ酔っ払いだから覚えちゃいないだろう。
シラフに戻ったときには、覚えのない名前と電話番号になるはずだ。
かといって嘘をつくのも気がひけたので、バカ正直に電話番号を教えてあげた。

最後におっちゃんはこんなことを言っていた。
「『袖振り合うも多生の縁』ちゅうてなぁ、多生っちゅうンは、仏教用語なんや!
 『多少』とちゃうぞォ~」

つまり、道すがらに知らない人と袖を触れ合うようなことでも、それは過去からの深い深い縁なのだ、という意味だ。

おっちゃんと俺の間にも深い因縁があるんだろうか。
本当に?

ふと、高校時代の古典の授業で目にした説話を思い出した。
老人に化けたり物乞いに化けたりして、実はその人が有難い神さまの変身した姿だったとか、そういう類の話を読んだことがある。

もちろん、おっちゃんは神さまではない。仮におっちゃんを冷たくあしらっていても、罰が当たったりはしてなかっただろう。おっちゃんを嫌がらなかったからと言って、良いことが起こったり金銀財宝を手に入れたりもしていない。
ちょっと汚いガイドブックは捨てようにも捨てられずにいる。

ただ、おっちゃんとの1時間半は旅の思い出として強烈な印象を残していった。
奇妙な出会いだった。
山梨が話題にのぼると、あのおっちゃんを思い出す。

「山梨の酔っ払い」として電話帳に登録した番号からの着信は、これからもおそらくないと思う。
でも、もし着信があったなら、その時は潔く出てやろうと思う。
その時はきっと、「袖振り合うも多生の縁」が少し濃くなっている。

泥酔する前に解散だけど。

***

この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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