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「父さんが真珠のネックレスを道で拾ったって言うのよ」


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記事:サトウ(ライティング・ゼミ)

「父さんが真珠のネックレスを道で拾ったって言うのよ」
母が電話先でそう言った。

父は学校の教師を60歳の定年まで勤め上げ、現在63歳。その父が真珠のネックレスを道ばたで拾ったという。真珠のネックレスは、高島屋の紙で包装された箱に入っていて、実家近くの道端に落ちていたらしい。実家は田舎にある住宅街だ。
でも、そんなおかしな話を聞いたのに僕は驚かなかった。

真珠の話が出てくる今から10分前、僕は仕事の帰り道で渋谷駅に向かっていた。
母の電話がかかってきたのは109の前あたりだったと思う。

「もしもし、ちょっと聞いて。さっき旅行会社から電話があったのよ」
思えば母の声は、はじめは興奮気味だった。

「ふーん。どっか行くの?」
「それがね。旅行会社の人が、今度の北海道旅行の件で変更があるから連絡したって言うのね」
「へぇー、北海道?」

北海道といえば、二十年前の夏に家族四人で行った記憶がある。あの時は父が急に「来週、北海道行くぞ!」と言い出して、あれよあれよと話が決まっていった。当時はまだゆるい世の中だったので、小学校の先生である父にとって八月は毎日休みみたいなものだった。

父は基本的に自由奔放な性格で、父が母にプロポーズしたのは大学2年生の時だったという。いわゆる学生結婚というやつである。さらに、結婚したのに父は講義をさぼり、母が無理やり大学に連れて行っていたらしい。わが父ながら、それはさすがにまずいだろうと思う。

「それで? いつ行く予定なの?」

二十年前みたいに「来週行く」なんて父が言い出したのかな、と思いながら僕は母に質問した。

「……そんな予定なんてない」

目の前の歩行者信号が点滅を始めた。母は続ける。

「旅行会社の人は2人で申し込んだのを前提に話してくるのよ。選べる浴衣プランがどうとか……」

僕は渋谷のスクランブル交差点から視線をあげて空を見上げた。これは雲行きがあやしくなってきた。
駅ビルにあるアニメ映画の看板が目に入った。熱帯魚が微笑む横にはキャッチコピーが書いてある。
『忘れられない夏をあなたニモ』。
いやいや、忘れられない夏つくっちゃだめでしょ。

「聞いてるの?」

「聞いてる、聞いてる」
動揺のせいか、早口で二回言ってしまった。

「それでね。私が知らないって伝えたら、旅行会社の人はちょっとあわてて、『また電話します』って切ったのよ」

信号が赤になり、僕は立ち止まった。携帯を握る手が汗をかいている。
母の声が妙に冷静になってきている。これはまずい兆候だ。いい加減な父に笑顔で連れ添ってきた母だが、怒ると怖いのは母の方だ。
僕の前で信号待ちをしているバイクがブルルッ! ブルルルッ! とエンジンをふかした。

「私、これはあやしいなと思って、あの人の机の引き出しを全部ひっくり返して探ってやったのよ」

淡々と話す分、余計に怖い。
車の信号が青になり、バイクが雷のような音をたてて弾丸のように発進した。バイクには母の怨念が乗りうつっていたに違いない。

「そしたら、ラッピングされた箱があってね。開けてやったのよ。中から真珠のネックレスが出てきたの。私の誕生日でもないし、結婚記念日でもない。そもそも、もう何十年もそんなもの、もらってない」

母の怨念はバイク一台どころではなかった。余裕で暴走族を結成することができるレベルだろう。
歩行者信号が青に変わった。でも僕はその場から足を動かせず、母の話を聞き続けた。

「それで、さっきあの人が車で帰ってきたから待ち伏せしたの。玄関で真珠を突き出して質問したのよ。『これどうしたのって?』」

玄関で迎え撃つとは!?。現物証拠という不意打ちに父もさぞや面くらったことだろう。自分ならどう謝るかな……。父が悪い局面ながら、僕は少し父に同情した。

「……それで?」

他の歩行者が横断歩道を進んでいく後ろ姿を見ながら、僕は母の言葉を待った。

「そしたら、あの人、こう答えたの―――。 『道で拾った』 って」

僕は思わず笑ってしまいながら天を仰いだ。先ほどのアニメの看板が目にはいる。

『忘れられない言い訳をあなたニモ』。
看板にはそう書いてあった気がした。

***
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2016-11-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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