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ワーゲンバスは、タイムマシンだった。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:八千子(ライティング・ゼミ)

あなたは、タイムマシンに乗ったことはあるだろうか。
少なくとも、私にはその経験は、ない。
今のところは。

私が勤めているカフェは、20席にも満たない小さな店である。しかし、大きな特徴がある。「ワーゲンバス」と呼ばれる乗用車が、店のまんなかにドカンと鎮座しているのである。

「ワーゲンバス」とはドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲン社が製造していた商用向け自動車の愛称で、正式にはフォルクスワーゲン・タイプ2という。現在は製造終了となっているが、テレビCMなどで使用されていることもあり、何となく形だけは知っている人も多いと思う。しかし、実際に町中を走っているのを見かけることは少ないだろう。

その車が小さな店のまんなかにある。車の大きさは良く見かけるハイエースや、10名程乗車可能な送迎用のミニバスと同じくらい。車が店のまんなかにある、というのはお分かりいただけないかと思うが、例えるなら6帖のワンルームにダブルベッドを部屋のまんなかに置いて、その周りで生活をしていると考えていただけるとありがたい。

……邪魔なのだ。圧倒的に邪魔。ダブルベッドの場合、場所はとるけれど、視界が開いているため、圧迫感はそれほど感じないかもしれない。しかし、ワーゲンバスは高さもあるため、視界が遮られてしまい圧迫感この上ない。
店長の趣味が高じて「ワーゲンバスのあるカフェを作りたい」というコンセプトのもとつくられた店のため、あまり文句も言えないが、お客さまの顔も見えないし、慌てているとドアの突起にぶつかることもあり、後日青あざができていることもしばしばある。
「店長、この車、めちゃくちゃ邪魔なんですけど」
と、何回言ったか数えきれない程だ。店においてあるワーゲンバスは現役で、公道を走っている。平日は店内から動かないが、お店が連休になると店長はワーゲンバスでキャンプへ出かけている。実際に走っている車は、2年に1度の車検が義務付けられているためワーゲンバスも車検を通さなければいけない。
「車検から当分、戻ってこないってこともありますよね? 部品が無いとか、エンジントラブルが発覚するとか。戻ってこなくても良いなあ」
わざと意地悪に質問しては、「いや、そんなことは無いはずだから……」と店長を困らせている。

カフェがオープンしたばかりの頃は、お客様も不審に思っていたらしく、
「実は入ってみようか、ずっと迷ってたのよ。お店の中に車があるなんて、ちょっと変わってるから……」
申し訳なさそうに告白してくれる女性のお客さまも少なくない。カフェがオープンしてこの冬で5年になるが、ずっと入るのをためらっていた、と言われるお客さまは今でも時々いらっしゃる。そりゃそうだ。私だったら、こんな変な店、どんな人がやっているのか分からないし、怖そうな人が店員だったらいやだから入ろうと思わない。中には、「こんな大きな車があるなんて、変よねえ。車庫かと思ってた」とあからさまに眉をひそめながら同意を求めてこられるお客さまもいる。ええ。変だと思っていますよ。私も。さすがに5年も経てば、かなり慣れましたけど。

しかし、男性のお客さまにワーゲンバスの人気は高い。それも60代以上と思われるおじさま達に。「私も昔、乗ってたんだよ。懐かしいなあ」と声をかけてくれる。店長の車で、今でも現役で走ってるんですよ、と伝えるとぜひ店長さんと話がしたい! と目を輝かせ、店長は嬉しそうにおじさまとワーゲンバス談義で盛り上がる。

「この車、とっても懐かしいわ」
ある時、とても上品なおばあさんがお会計時に話しかけてくれた。昔はたくさん走っていたらしいですね、と無難に返事をしたら、
「この車に、若い頃主人が乗っていて、よく海にドライブに行ったのよ」
と話してくれた。
「もう、主人は10年も前に亡くなったんだけどね。この車、最近ほとんど見かけないから思い出さなかったけれど……。たまたま外を歩いていたら、お店の中に車があって……。つい懐かしくなって、お店に寄らせていただいたの」
そう言って、目を細めながら、ワーゲンバスを見つめていた。ものの数十秒の出来事だったが、そこには不思議な空気が漂っていた。
「ありがとう、また近くに来たら立ち寄らせてもらうわね」そう言っておばあさんは帰っていった。

素敵なおばあさんだったな、コーヒーカップを片付けながら、ある考えが頭に浮かんだ。

おばあさんにとって、このワーゲンバスはタイムマシンだったんだ。ワーゲンバスを見つめていたあの時間は、亡くなられたご主人との思い出を見つめていたんだ。あの数十秒は、過去にもどっていたのだろう。あのおばさんだけじゃない。店長と楽しそうに話しているおじさま達も、昔の思い出を胸に、ワーゲンバスについて話しているんだ。話をしているときはそれぞれの思い出のなかにタイムスリップしているんだ。そう思うと、なぜか涙が出そうだった。

人にはそれぞれ思い出があり、それは何をきっかけに胸にこみ上げてくるかわからない。思い出の場所かもしれないし、道に咲いている花かもしれない。シャツについている一つのボタンがきっかけになることだってあるだろう。
このワーゲンバスが引き金になったように。
私にはまだ、思いがけず過去にもどった経験はない。だけど、いつかきっと、タイムマシンに乗る日がくるのだろう。過去にもどったその時に、あのおばあさんみたいな笑顔になれるよう、いま、しっかりと歩んでいきたい。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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