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納棺師が考える「お化け屋敷での正しい声のかけ方」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:大森あきこ(ライティングゼミ)

 

私は人に感謝されることに慣れていない。

疲れて帰ってバタバタとご飯の支度をしても、夜中に洗濯をしていても

「ありがとう」なんて言われない。それどころか家族からは

「おかずこれだけ?」とか「靴下が一つたりない」なんて言われる。

 

納棺師になりたての私はとても調子に乗っていた。

それは自分がしたことに対して「ありがとう」といわれる経験が極端に少ない主婦が急に「ありがとう」といわれる仕事と出会ってしまったからだ。

 

私は自分が遺族の救世主になれるかもしれないなどという馬鹿な妄想に憑りつかれていた。

 

青白くなった顔に赤みを足し、薄くお化粧するとご家族が

「ありがとう、まるで眠ってるみたい」と涙を浮かべる。

それは、遺族自身が、自分の力で元気な頃の大切な人の姿を見つけ出した結果だった。

 

しかし、わかっていない私はまるで自分が解決してあげた! というとんでもない誤解をしたまま突っ走っていた。

 

そしてすぐに壁にぶち当たる

 

いつも通り亡くなった奥様に化粧をしている時、ご主人が突然怒り出したことがあった。「全然変わってしまった! なんて事をするんだ!」一度怒り出したご主人の怒りは収まらなかった。綺麗にお化粧したのに……。うろたえている私を見かねて、勤続20年以上の先輩が対応にあたってくれた。

先輩は一度化粧を落とすと静かに話を聴きながら、私よりずっと薄いお化粧でご主人を喜ばせさた。しかも「さっきの人にもお礼をしたい」とまで言わせてしまった。

 

亡くなった奥様は、結婚式で化粧した自分の顔が、とても嫌いだった。

 

何十年も経つのに、その時とった写真を見るたびに旦那さんに愚痴をこぼしていた。

化粧をした奥様の顔をみて、ご主人も気づかないうちにそのことを思い出していた。そしてお化粧した奥様の顔が、まるでいやがっているように見え、怒りがこみあげてきたのだ。

 

私は急に怖くなった。

悲しんでいる人はいろんな感情に心が支配されている。悲しんでいる人と接することが怖いと思った。

 

誰でも悲しんでいる人を見るのは辛い。

だから、おばあちゃんの納棺式に小学生の孫を参加させてたくない、子供を死から遠ざけたいと思う。

ずっと泣いている遺族に「そんなに泣いたら亡くなった人が悲しむよ」なんて言葉をかけるのである。

納棺式で泣かなきゃ遺族はこれから泣ける機会を失ってしてしまうかもしれないのに。

 

それは孫のためでもなく、遺族のためでもなく自分が悲しんでいる人をみたくないからだ。

 

壁にぶち当たり、それでも毎日仕事は続く。

 

もちろん悲しい納棺式だけではない。遺族がワイワイいろんな話をし、笑って送ることも多い。

20代のイケメンの孫達が、次々とお婆ちゃんのおでこにキスをしてお別れをしたことがあった。私はきっと羨ましいという顔をしていたに違いない。

100歳のおじいちゃんの納棺式では、いつも酔っ払って寝ていたから、目の上のあたりをもっと赤くしてほしいとリクエストをもらった。言われたようにチークを入れると笑いが起こった。「そう、そう、この顔!」棺の中には紙パックの小さなお酒が添えられて、なんだか幸せそうに寝ているようだねとみんながほほ笑んだ。

 

どんな納棺式であっても、納棺師は1時間という時間で初対面の遺族に、安心できる存在だと認識してもらわなければならない。

失敗すれば遺族はすぐに心のシャッターおろしてしまう。一度おろされたシャッターはなかなか戻らない。そうなると遺族は自分の感情をだそう、大切な人の死に向き合おうなんて思えなくなる。

 

大切な人を失った「悲しみ」という感情は「怖い」という感情に似ている。

これからどうなってしまうのか、自分がこの感情に支配されてしまうのではないかという怖さ、真っ暗な暗闇で先がみえない怖さが、悲しみの成分なのかもしれない。

 

遺族はお化け屋敷のような真っ暗な通路を、これから何が飛び出してくるのか分からず、何の灯りも持たず歩いている。早くここから出たい。きっとそんなな状態だ。

 

今年のゴールデンウィークに友達数人とタダで富士急ハイランドにいける事になり、話の流れでお化け屋敷にみんなで入ることになった。

 

私はお化け屋敷は嫌いなので滅多なことでは入らない。

どんな場所か分かれば怖さも半減するかと思い私はネットで調べた。

どうやらこのお化け屋敷は「廃病院」が舞台になっているらしい、驚かすのも人なので怖さのバリエーションも多そうだ。

しかも一本のペンライトを持たされ、途中でそれを奪われてしまうらしい。

なんて怖い事を思いつく人がいるのだろう!

私は結局このネットの記事を読んで「怖気づいて」しまい結局、一人外で荷物番をした。

 

納棺師という仕事柄、お化けやゾンビのメイクを見ても怖くない。

頭が割れていても、どんな風に割れているのかしっかり見たくなる。偽物に目を覆ったりはしない。私が怖いのはお化けじゃない。何が飛び出してくるかわからない怖さと暗闇が怖いのだ。

そんな暗闇の中、ヒーローが登場して

大きな声で「安心してください! 出口はあちらです!」なんで急に耳元で叫ぶ。

もし、自分がこんなことされたら脅かしてくるお化けと同じ「敵」である。

全力で逃げるか、ぶん殴るかどちらかである。

 

きっと納棺師駆け出しの私はこんな感じだったに違いない。

 

お化け屋敷で人に声をかけるのは難しい。

 

私は考える。

お化け屋敷で一番の安心する瞬間はいつだろう。

それは出口の光を見つけた時ではないだろうか。この暗闇から出る事ができる。この怖さから解放される。それがお化け屋敷で唯一ホッとする瞬間だ

 

その灯りはそんなに近くではないけれど、しっかり明るく光っている。

そんな光になれたら私も、大切な人を亡くした遺族にシャッターを閉められることもなくなるのかもしれない。

 

お化け屋敷での正しい声のかけ方は、きっとこうである。

まずは急に近づかない。

声を出さず出口の明かりのようにそこで待つ。

そして向こうから近づいてきたところで静かに話す。

 

これができたら、遺族の悲しみにも寄り添えるのかもしれない。

 

いろんな経験をして、自分なりに勉強もした。以前よりは少し出口の明かりに近づけてるような気もする。少なくてもご遺族の耳元で「ヒーロー参上!」と叫ぶ事はなくなった。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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