メディアグランプリ

Google翻訳と欠けた器


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三根翼(ライティング・ゼミ)

 

「うーん……確かにこれまでとは違う……」

 

Google翻訳は格段に良くなった。そんな情報がネットを騒がせた。

この話題にもっとも関心を抱いたのは、おそらく私のような職業翻訳者だろう。

 

私もさっそくいくつかの英文をGoogle翻訳にかけてみて、そして思わずうなった。今まではかなり不自然な文章が出力されていたが、それがだいぶ改善されている。これが無料で使えるというのだから、翻訳者が騒ぐのも無理はない。

 

今後数十年間で、あらゆる人間の仕事が機械に取って代わられるとも言われている。

 

私は翻訳者だから、翻訳のことについて語ろう。Google翻訳は、欠けた器に似ている。

今までのGoogle翻訳は欠けの大きい器だった。

技術の進展に伴い、器の欠けが小さくなった。

だから、Google翻訳をどう扱うかは、欠けた器をどう扱うかを考えてみればいい。

 

私の家には、ひびや欠けの入った茶碗やカップがあった。もちろん、口を切ってしまうような危険な欠けがあるものは捨てていたが、そうでないものは日常的に使っていた。ただし、お客様が来たときには、こうした欠けのある器を決して使ってはいけないと躾けられていた。

 

Google翻訳の出力結果は確かに向上した。確かに人をうならせるものがあった。ただ、よく考えてみれば、驚いたのはあくまでこの出力結果がGoogle翻訳のものであると知っていたからではなかろうか。Google翻訳がそのまま企業のウェブサイトや書籍に使われていたとしたら、そうでなくてもそれが人の翻訳した文章だと思っていたら、私たちは別の驚き方をしただろう。今までよりは明らかに良くなった。でも明らかにまだ欠けがある。このままではお客様に出せない。

 

ある人はこう考えるかもしれない。まず機械翻訳を使い、その出力結果を人間が直せば、翻訳の労力が削減できるのではないだろうか?

実際にこうした方法を採り入れている企業もあるし、私もそうした仕事をしたことがある。ただ、これがなかなか思うようにはいかないのだ。欠けた器を継ぐことはできる。しかし欠けた器を欠けのない器にするよりは、新しく買った方が早いかもしれない。実際に機械翻訳を手直ししたことはあるが、まともな文章にしようとするとどうしてもかなりの部分を変えることになる。そして、そうやって努力してできた文章も、一から翻訳したのに比べて決して良くならないのだ。

仕事中、私は何度も「品質はもっと落としていいから速度を上げてくれ」と言われた。質を下げろと言われたのは初めてだった。当然、これはお客様に出せるような翻訳ではない。あくまで社内でのやりとりに使われるものだ。それでも私は何度も不安になった。これを読む人たちに、どれほど伝わるのか。少しの誤読が悲惨な結果をもたらすようなことは山ほどある。そうでなくても、不自然な文章は読み手に余計な負担を与える。

 

機械翻訳が向上すれば、別の問題も出てくる。

下手な翻訳だと、間違いを見つけるのはたやすい。

最近、あるテレビ局が”Love trumps hate.”という言葉を「トランプは嫌い」と訳して話題になった。もちろんこれは誤りだ。ここのtrumpは「勝つ」という意味の動詞だ。だが「トランプは嫌い」という誤訳はテレビ局のチェックを通り抜けた。なぜか? 「トランプは嫌い」という言葉は、意味が通じるからだ。ちゃんとした日本語になっているからだ。これが「ラブトランプが嫌い。」(2016年11月4日現在、Google翻訳で”Love trumps hate.”を日本語に訳した文)とでもなっていれば、さすがに誰かが直しただろう。でも忙しい業務の中では、自然な日本語になっている文をチェックする余裕がなかった。おそらくそういうことなのだろう。

 

『ウォーリーをさがせ!』という絵本で遊んだことはあるだろうか?

赤と白の服を着た人たちだらけの集団に、同じく赤と白の服を着たウォーリーが混じっている。もしウォーリーが紫の服を着ていたら、ウォーリーをさがすのは簡単だ。ところがウォーリーも同じような服を着ているから、なかなか見つけることができない。

 

一見すると自然に見える翻訳というのは、こうした危険をはらんでいる。つまりある程度自然な翻訳だと、人間のチェック機能がうまく働かなくなってくる。Google翻訳はまだまだ完全ではない。器の欠けも大きければ見つけやすいが、小さければ見逃してしまう。カップのふちにある欠けは、小さければ余計に唇を切ってしまいやすい。つまり、よくできた機械翻訳を直して使おうなどという考え方は、カップのふちにある見えにくい欠けを継いで使おうということに似ている。

 

もちろん機械翻訳が使える場面はある。あるIT企業は、なるべく機械翻訳しやすいように文章を書くなどの工夫をしている。また、娯楽目的で外国語の記事を読むなど、大雑把な内容がわかればそれでかまわないという場合もある。そして、簡単な文章しか訳せない翻訳者、大雑把な訳しかできない翻訳者というのは、機械翻訳の進歩とともに淘汰されていくかもしれない。

 

翻訳者である私は、今まで通りお客様に満足していただけるようなものを納品し、適切な対価をいただくことにしたい。可能な限り高い品質のものを納品する。値下げはしない、できるわけがない。Google翻訳が向上したとしても、私が翻訳にかける手間は変わらないからだ。

ある翻訳が正しいか間違っているかを判断するのは人間だ。この判断には、原文と訳文を慎重に読むことが必要になる。この原則は、これからどんなにGoogle翻訳が発展しても変わらないはずだ。

(そもそも企業との取引では、契約上もGoogle翻訳などの使用は禁止されていることが多い。なぜならGoogle翻訳を使うと、そのデータはすぐさまGoogleのサーバーに保存されるからだ。日本企業が特許や機密文書の翻訳にGoogleを使うとしたらぞっとする。)

 

ただし仕事は需要と供給の世界である。

もし世間が、お客様に出す器に少しくらいの欠けがあっても構わないと考えるようになれば、その時には翻訳の仕事も減るだろう。この国がそういう人たちであふれたとしたら、その時は、私も身の振り方を考えなければならない。

 

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2016-11-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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