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部下の言い訳を上司が求めた理由。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:南のくまさん(ライティング・ゼミ)
 
「あっ」
 
 
もしかしてやばいかも、と思った頃には時すでに遅しだった。
私は、それまでせかせかと歩いていた足をゆっくりと止める。一旦止めた足は、恐ろしいくらいに地面に根をはり一瞬で動けなくなった。そして、まるで200mほど全力疾走した直後かのように、ドッと額に汗が吹き出すのがわかった。そして頭は熱いのに、両手には冷汗をじんわり感じる。息が出来ない。苦しい。いくら空気を吸い込んでも、肺に上手く入っていかないのがわかった。苦しくて肩が勝手に上下する。
 
 
たった1秒ほど前の自分が自分でないように思えてくるような不思議な感覚に陥る。あれをやったのは誰だっけ?
ほんの一瞬前の記憶がぼやけている。
 
そのぼやけた記憶によると、たった寸秒足らず前に私は仕事において重要なミスを犯したらしい。

上司に報告せねば、と思った。自分のミスをだ。私は始末書を書きあげてそれを握りしめ、翌日早めに出勤し、彼女が出勤してくるのを待った。
 
 
「どうしたの」
血相を変えてじっともの言いたげに突っ立っている私に気付き、彼女は眠そうな目を丸くした。
「おはようございます。あの……報告なんですが今よろしいでしょうか……」
 
私は昨日の失態について始末書を参考に端的に話した。その間彼女は、私の首元あたりをじっと見据え「うん、うん」と静かに耳を傾けていた。
話しているとだんだん舌が回らなくなってきているように感じた。回らないというか、重い。口も乾いてきた。鼓動も早くなってきた。彼女を見ていたはずの私の目が、瞼が徐々になぜか下がってくる。気づけば私の視界に彼女の顔はなく、自分の少し汚れた白いスニーカーだけが映っている。
きっと今私はうなだれているのだ。

本来配置されるべきスタッフの人数よりもずいぶんと少ない数で仕事を回していて、そのせいもあって休日も少ない日々が続いていた。
7人体制でやるはずが4人~5人で補い、皆溺れかかっているような状態で仕事をし、休憩も満足にとれず着々と疲労が蓄積していた。それに加えて、不規則な勤務リズムである。昼過ぎに出勤して、夜遅くに帰宅。その翌日通常の朝に出勤、そのまた翌日は夕方から翌朝までの夜勤などと、人間の日周リズムを完全無視した生活が続きめまぐるしく毎日が過ぎていく日々だ。

夜勤を朝終えて帰ろうにも、その日の勤務者が少ない―。
じゃあもう少し昼前くらいまで働きますか……となる。人数が少ないと1人あたりの負担が当然倍増していた。
そしてとにかく忙しい。今目の前の事をしながら、次の事を頭で考えながら行動する。これをしたら、あれをしよう、あぁあれもしなきゃ……。対人援助職に就いている限り、ニーズは尽きることなく、かつ相手は待ってはくれない。

そんな窮地にとどめを刺したのは、私のポジションだった。私は26歳で、職場において最年少、おまけに部署異動してきて間もないときた。
新参者でしかも下っ端。これは「人1倍働かなくてはならない」。
 
「あ、私やります」
「今、手が空いてるのでやらせてください」
「大丈夫です、やっておきます」
 
 
人1倍働かなくてはならない、と思ったのは単に私自身が下っ端だからだけではない。
以前、「あーマジ今日若手ばっかじゃん。きついわー」と出勤者が掲示してあるボードを眺めた先輩達がため息混じりに言っている姿を見た事があったからだ。
先輩は、自分の仕事で忙しい上に若手のフォローまでしなくてはならない。若手である私は、極力先輩の手を煩わせないように自立して、かつ先輩と同レベルくらいに動けるようにならねばならない―私はそう思った。
 
「デキる奴」だ「手がかからない奴」だと思われたい、そんな承認欲求に駆られた。欲求というものは麻薬のようだ。最初は少し満たされればそれでいい。しかし次第にそれは少しでは物足りなくなる。もっと、もっと、と深みにはまっていく。自分で自分の容量を考えず、欲求に駆られた結果がこれだ。
私は自分でキャパオーバーなのをわかっていてもなお、猪突猛進していたのだ。
 

……というような言い訳を言えるわけでもなく、私は自分の注意不足だのなんだのとミスのバックグラウンドに関してはあまり触れずに報告した。

 全てを話し終えた時、何を聞かれるのかはだいたいこれまでの経験で想像出来ていた。おそらく第一声は「なんで?」だ。
しかし、彼女は私の想像していた事とは違う言葉を投げかけてきたのである。
 
 
「ごめん、ここ最近のシフトだいぶきつかったよね」

えっ。
 
 
「あ、いやシフトは……大丈夫でした。自分の注意不足です」
驚いた。と、同時にシフトが大丈夫だというのは一瞬でついた真っ赤な嘘だ。正直、連勤なうえに眩暈がするような勤務だった。でも注意不足だったのは確かで、そんなの言い訳に過ぎない、と私は自分で自分を制する。
 
「いや、私のシフトの組み方がよくなかったんだと思う。わかってたんだけど……どうしても今この人数でしょ、ほんとごめんね」
ダメだ、そんなことを上司が言ってはいけない。もっと、こう「なんでそんなことをしたの?」と問い詰めてくれればいい。私はそう聞かれた時のための答えは十分に用意していた。しかしまさかこんな事を言われるとは思っていなかったので私は返答に窮す。

そんな私に、彼女は徐々に言い訳がましいことを聞きたいかのように言葉を引き出す。

「急いでた?ここ最近かなり忙しいしね」
「……焦っていました。次やらないといけないことを考えながら動いてしまっていたので」
「そうだろうね。自分で全部やろうとしてたね?」 
「……そうしないといけないと思っていました」

ははぁ、と彼女の表情に閃きが垣間見えた。

慢性的な人手不足だ。辛かったここ数カ月の疲労感と、忙しさの光景が彼女の言葉によってフラッシュバックで蘇る。言い訳に過ぎないが、あぁ私はきつかったんだ、きついなか認められたくて走りすぎたのだ、と思った。それに加え、想像以上に彼女が優しく私の心を引き出したせいで、気づいた瞬間には涙が止まらなくなっていた。
「あ、すみません……大丈夫です」
大丈夫?とも何も言われていないのに、私は勝手に自分でそう言い呼吸を止める。そうすれば涙も止まってくれると思ったのだ。必死で涙をこらえようとあたふたしている私を見て、彼女は苦笑したのちキリリと表情を正して言った。
 
「でもね、ちゃんと1個ずつ消化しないと。人の分まで仕事をやればなんかデキる人みたいな、変な風習がうちにはあるみたいだけど……。人の手伝いなんか、1割でいいから。自分の目の前のことだけでいいよ。自分の仕事だって完璧じゃなくていい。まずは6割できればそれでいいんだよ。あとは皆で補えばいいんだから」
 
 
意外だった。自分の仕事さえ完璧ではなくていいとまで言われるとは思いもしなかった。
皆で補う。そうだ、私達の仕事は個人プレーでもなんでもなくて、チーム力が試される現場であった。

はい、はい……と目尻に涙を溜めて、尻尾を垂れおとなしく話を聞いている私に彼女は続ける。
「今回のことは何も言わない。でも次はないからね。同じ失敗はしないこと」

人の行動には文脈があると言われている。つまり、ミスを犯すにあたって突如ミスが発生したわけではないという事で、ミスをするにあたってそれまでにどのような行動を取っていたかを把握・理解しない限りミス行動を理解することが出来ないという。
ミスした瞬間だけに着目しただけではなんの意味もないと言うのだ。言い訳こそ大事な情報源になるらしい。

そういえば最後まで彼女は私に「どうしてそんなミスをしたの」と聞かなかった。
忙しかったから、疲労が溜まりに溜まって注意力が欠けていたから、自分が欲張りだったから。
そんな言い訳とも言える今回の失敗の理由を、彼女は受け止めてくれた。
そして言い訳にこそヒューマンエラーの大きな要因が潜んでいることもきっと彼女は知っていたのだろう。

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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