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プロフェッショナル・ゼミ

クソつまんない映画を人に勧めてはいけない本当の理由《プロフェッショナル・ゼミ》


*この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:土田ひとみ(プロフェッショナル・ゼミ)

『なんなんだ、この映画は……。クソつまんねえ!!』

いかん、いかん、私としたことが。思わず汚い言葉を出してしまった。いくら心の中とは言え……。この映画が悪いのか、隣にいる彼が悪いのか……、もうどちらでもいいからこの苦痛な時間から解放されたい。
左隣に座っている男は、真っすぐとスクリーンに視線を向けている。映像が彼の眼鏡に反射され、青く光っている。時々、右手だけを忙しそうに動かし、キャラメルポップコーンを頬張っている。
『はあ……。この映画が面白いのかな。私たち、趣味が合わなそうだなあ。でも、温厚で誠実そうで、悪い人じゃないんだよなあ』
左隣の彼をぼんやりと眺めながら、そんなことを思った。私の視線に気づいたのか、彼が私に笑いかける。右手でキャラメルポップコーンを差し出しながら、照れた微笑みを私に向けるのだ。
『いや、違うし。ポップコーンが欲しいわけでも、あなたに見とれてました的なアレでもないし』
また心の中で毒づきながら、私は暗闇の中で作り笑いをし、キャラメルポップコーンを一つまみ手に取った。口の中にそれを放り込むと、キャラメルが凝縮されて固くなったポップコーンの感触を感じた。
『やった! 当たりのヤツだ! このキャラメルがたっぷりついたところ、好きなんだよね~! よし。暗闇の中でこの濃厚ポップコーンを口にしたのだから、今日はいい日だったことにしよう。このデートは楽しかった! そういうことにしよう!』
私は、頷きながらスクリーンを眺めた。 

「映画、どうだった?」
満面の笑みで、先ほどまで左隣にいた彼が正面から訪ねてくる。カフェのテーブルに向かい合い、私は作り笑いを浮かべた。
「私にはちょっと難しかったかな……」
それ以上の感想は伏せておいた。
「そうか~。確かにちょっと難しかったよね~。でも、その考えさせられるところが、僕にはツボだったなあ」
右手にコーヒーを持ち、脚を組み、斜め上を見ながら嬉しそうに男は話した。
『ああ、やっぱり私たち趣味が合わないね、きっと。でも、仮にこの人と結婚したところで、毎日映画見るわけじゃないし……。大丈夫、大丈夫』
心の中で冷静に言い聞かせながらも、私は相変わらず作り笑いの仮面のまま時々コーヒーをすすった。
「このあとどうしようか? お腹すいてない?」
男は映画の余韻にまだ浸っているような表情で言った。
「お腹は……すいてないかな。明日早いし、今日はこれで失礼します。また、誘ってくださいね!」
早く帰りたい一心で、いつもより半音高い声で言った。

「ただいまー」
パンプスを脱ぎ捨て、私は大きな足音を立てながらリビングに入った。
「おかえりー」
同居人のマリコが顔にパックを丁寧に伸ばしながら鏡を覗き込んでいた。
「どうだったのー? 商社マンとのデートはー?」
私は「うーん」と曖昧に返事をしながら、冷蔵庫から缶チューハイとチョコレートを取り出した。
「あ、あたしにもビール取ってー! それと、サバ缶も!」
マリコは相変わらず鏡を覗き込みながら、ビールを受け取るための左手を後ろにいる私の方へと伸ばした。
いつも通り私たちは、恋バナを肴に酒盛りを始めたのだった。

マリコは既婚者だ。子供はいない。
私たちが同居することになったのは、いつものマリコの思いつきだった。旦那さんが単身赴任の間だけ、という条件付きだ。
「シェアハウスってやつ、やってみたかったんだよね!」
マリコはいつも天真爛漫だ。それは、結婚してからも変わらない。いつも好奇心にあふれていて、そしてそれを実践するのだ。周りが驚こうが、変人扱いしようが、マリコには関係ない。私はマリコに振り回されながらも、その潔さというか自由な感じが羨ましくて、ついつい言うとおりにしてしまっていた。

「で、今回の商社マン君はどうだったのよ?」
サバ缶に醤油をたらしながら、マリコは身を乗り出して私に聞いてきた。
「どうって……。悪い人じゃないのよ。とてもいい人なの。誠実そうだし……」
「ふーん。でも、その顔は恋してる顔じゃないよね。だって、この前のテニスコーチ君の時はさ、ルンルンしながら帰ってきてたもん」
図星だった。しかし、私は缶チューハイをぐいと飲み込んでから、すぐに反論した。
「で、でもさ! テニスコーチ君はさ、カッコイイし好きだけど、私に気がなさそうだし……。それに、生活が安定しないじゃない? それに比べて、商社マン君は頼りがいがあるのよ」
「ふーん。安定ねえ。そんなに安定が大事なのかなあ……」
マリコはいたずらそうに笑いながら、サバ缶を私の口に押し付けてきた。私は、なされるがままに、サバ缶を口に入れた。口の横から垂れた醤油を拭いながら、またしても私は反論した。
「そういうマリコの旦那さんだって、公務員じゃん! 安定してるじゃん!」
「あたしの場合は、一番好きだった人がたまたま公務員になっただけだよ。大学時代から、彼のことがだーいすきで、絶対この人と結婚するって思ってたんだもん。やっぱり結婚は一番好きな人としたいと思わない?」
マリコは待ち受け画面に映る旦那さんにキスをした。
私は小さくため息をつき、缶チューハイをすすった。
『私だって一番好きな人と結婚したいよ。でも、生活が成り立たないような人とは結婚できないじゃない。私は、自分を押し隠してでも、安定した人と結婚したいんだ! 私は間違ってない!』
待ち受け画面をうっとりと見つめたまま、マリコは私に言った。
「ところでさー、今日見た映画面白かった?」
「映画ね……。こんな汚い言葉、本当は使いたくないんだけど、言うね。クッソつまんなかった!!」
ギャハハハとマリコは笑い転げた。私も一緒になって大笑いし、2人で絨毯の上に寝転がった。
「ひどい感想だねー! 何か一つでも良いところを見つけて褒めるのがユミコの特技なのに! よっぽど最悪な映画だったんだね!」
ヒーヒーと笑いながらマリコは言った。

そうなのだ。
私は、周りがどんなにひどいことを言っても、一つだけでもいいところを見つけてポジティブに捉えるのが得意なのだ。今日だって、クソつまらない映画と、趣味の合わない男とのデートだったけど、キャラメルポップコーンの濃厚なところを食べたから、丸一日いい日だと考えたところだった。
それなのに自分自身のことは、どうも自信が持てず過剰に卑下してしまう。大好きな人がいても、自分に自信が持てなくて「私なんかのことを好きになってくれるはずがない」と思ってしまう。だからこうして、自分に気がありそうな人となんとなくデートを重ねているのだ。

「で、そのクソつまんない映画は、どんな風につまらなかったの?」
鏡を覗き込み、笑い皺を手で伸ばしながらマリコは言った。
「どんな風につまらないかなんて、説明できないよ! とにかくマリコも見に行ってきて! このつまらなさを共有したい!」
またしてもマリコは笑い転げた。
「人にクソつまんないもの勧めないでよ~!」

それから数日後、私は商社マン君とレストランでデートをした。カジュアルフレンチの洒落たお店だ。リザーブ席に座ると、彼はシャンパンを注文した。
『ん? シャンパン? これは危険な香りがするぞ……』
私は引きつった顔を何とか隠しながらシャンパンで乾杯した。
仕事がどうとか、最近ニュースになっていたどうでもいい話題でその場を繋いだ。できるだけ盛り上がらないように……。
そしてその時はついに来た。
店内の照明が暗くなり、厨房の方からパチパチと光る皿を抱えて店員がこちらに歩いてきた。
『でたー……。サプライズ……』
花火がついたデザートプレートがテーブルに置かれた。花火が消えると、チョコレートで書かれた文字がくっきりと浮かび上がる。
I love U
『うわー。来たよ、これ。しかも〝U″ってなんだよ。そこは、ちゃんと〝YOU″にしとこうよ。あー、もう、そんなことどうでもいいけど! そうすんのよ、これー』
私は心の中で叫びながら、うつむいて顔を上げられなかった。
「ユミコちゃん。僕と正式に付き合ってくれないかな。その、結婚を前提に……」
商社マン君は、意外とスラスラとセリフを言った。いつもは緊張するとすぐにモゴモゴとしゃべるのに……。
『嬉しいんだけどね、まだ決心がつかないというか……。テニスコーチ君のこと完全に諦めた分けじゃないし……。どうしよう』
結局私は、きちんと返事をしないまま家に帰った。

家に帰ると、マリコは留守だった。一人ぼっちの部屋にうずくまる。
『私なんかのことを好きになってくれたのは嬉しいんだけど……。でも、どうしていつも、自分から好きになる人は振り向いてくれなくて、自分が好きじゃない人から告白されるんだろう……』
冷蔵庫の缶チューハイを開けたけれど、一口だけ飲んで、私はその場に寝転んだ。
私はあの日のことを思いだした。
大好きなテニスコーチ君。夜も眠れなくなるほど大好きで、本当の自分を見せるのが怖かった。
『本当の私の姿なんか見せたら嫌われちゃうんじゃないかな』
いつも私の頭の中にはその考えがあった。
私は、特別美人でもないし、学歴だってないし、スポーツだってできない。自分のどこを見たって、自慢できるところなんてなくて、自信が持てなかった。だから、本当の自分ではなくて、テニスコーチ君が好きそうなタイプの女性を必死で演じた。でも、考えても考えても分からなくて、彼の気持ちが近寄って来る気配はなかった。
私は焦り、とにかく彼に思いを伝えようと思った。
「私なんて良いところが何もないんだけど、でも、あなたのことが好きなの」
思い切って伝えたけれど、テニスコーチ君は「今は彼女つくりたくない」という体のいい断り文句を言った。

しばらく思いにふけっていると、ケータイが鳴った。
商社マン君からのメールだ。
「今日は突然ごめんなさい。ユミコさんの気持ちを考えずに先走ってしまいました。僕は、ユミコさんのことが好きです。夜も眠れないほど好きです。
僕なんかのつまらない話をいつも笑顔で聞いてくれて、嬉しかった。僕は何も良いところがないけれど、ユミコさんがいてくれるだけで……」
それからメールは「僕なんか」という言葉が何度も登場する長文が続いた。
『なんでだろう。好きですと言われているのに、どんよりと重い気持ちになるのは……』
私は、そのメールを最後まで読む気にはなれなかった。
誰かに好きだと言われて嬉しくないはずがない。それなのに、読み進めるたびにどんどん暗い気持ちになるのだ。

リビングに横たわったまま動けないでいると、マリコが帰って来た。
私はマリコにすがるように、今日の出来事を全て話した。
「なるほどねー。それは重いわ。だいたい、『僕なんて』と言っているくせに、僕とつきあってくださいって言うのは矛盾しているのよ!
クソつまんない映画だけど、どうか観てくださいって言っているのと同じことでしょ!」
私はハッとした。
そうか。私もテニスコーチ君に同じことをしていた。「私なんて」と言いながら、私を好きになってと言ったって、誰も魅力的に感じるわけがない。
「私なんて」と言って、うじうじしているから、「僕なんて」という男が寄って来るんだ。
「マリコありがとう。私気付いたよ。もう、クソつまんない映画を勧めるの辞めるよ。まず、自分を自分で面白いと思わなくちゃ、誰とも恋愛できないことに気付いたよ」
「ユミコはいい女だよ。こんなワガママなあたしと一緒に暮らしてくれる人なんて、ユミコくらいなもんよ。もっと自分のこと褒めてあげてね」
そうだね。
私が私のことを好きじゃないのに、素敵な恋愛なんてできない。
ありがとう、マリコ。
ありがとう、商社マン君。
そして、ごめん! やっぱり私、一番好きな人と結婚したい!
私は急いでベランダに出ると、商社マン君に電話をした。「私はあなたと付き合えません」とはっきりと伝えた。
リビングに戻ると、マリコが缶チューハイとビールを持って待っていてくれた。
「次行こう! 次!」
女二人、いつも通り乾杯した。

***
この記事は、「ライティング・ゼミ プロフェッショナル」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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