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受験生であることにこだわり続けたトップ営業マンの半生


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:小野勝秋(ライティング・ゼミ)

「そういえば賢一くんって、どうしてるんだろう?」
「さぁ? 誰も知らないと思うよ」
「そっか、もう20年になるもんね」

高校の同級生と地元で飲みに行ったとき、何がきっかけだったかは思い出せないが、偶然その話になった。

高校の同級生で、卒業してからもずっと付き合いのあった賢一と会わなくなってから、もう20年が過ぎた。毎日のように電話をかけて来たり、メールを送って来たりした彼が、その日の電話を最後に、僕の前から姿を消してしまった。

賢一とは、高校三年のときに初めて同じクラスになった。学年でも目立つ存在だった彼と、できるだけ目立つことを避けていた僕は、クラスが同じということ以外に共通点はまったくなかった。席も僕は廊下側の一番前、賢一は窓側の一番うしろが定位置だった。

そんな賢一と急接近したのは、共に大学受験に失敗し高校を卒業してからのことだった。僕は地元の予備校に通いながら、自堕落な生活をしていた。賢一は上京して東京の予備校に在籍し、都会生活を満喫していた。

ある日の朝、予備校の駐輪場でいつものようにたむろっていたときに、誰かが突然「東京に遊びに行こう」と言い出したのだ。それに賛同したのは4人、当然僕も含まれていた。

新宿行きの電車に乗り込む前に、当時は携帯電話など存在しなかったので、駅の公衆電話から、仲間の一人が東京に住む友人の自宅に電話した。たまたま自宅にいたその友人は、電車が新宿駅に到着する時間に、駅まで迎えに来てくれていた。それが賢一だったのだ。

その日は新宿の居酒屋で飲んで、歌舞伎町でボウリングして、バカみたいに大騒ぎして、終電間際に賢一の住むアパートに行くことになった。

賢一の部屋はワンルームで決して広くなかったが、男5人が雑魚寝するには十分な広さだった。

そんな青春の一ページのような出来事があってから、僕と賢一は急接近していった。

翌年の春、大方の予想通り二度目の受験に失敗した僕は、専門学校に入学するために上京した。同じく失敗した彼は再チャレンジの道を選択した。

僕の住処となった叔母の家は、彼の家までは電車を乗り継ぎ1時間ほどの決して近くはない距離だったが、僕は週に2~3日、多いときでは週5~6日は彼の家に通った。
お互いに学生の身分でお金もあまりなかった僕たちがすることといえば、近所の公園でゴムボールとプラスティックバットでの野球、夜は24時間営業で入場料1000円を払えば遊び放題のゲームセンター、バイト代や仕送りなどでちょっとだけ裕福なときはカラオケパブやボウリングだった。

僕が専門学校を卒業して就職してからは、会う回数は減ったものの、その付き合いは変わらなかった。

もともと似たような生活パターンをしているのだから、何も不思議ではないのかもしれないのだが、携帯電話もないその時代に、何の約束もなく新宿の繁華街や野球場のスタンドで、偶然バッタリと出会うことがよくあった。
そのときはお互いに同伴者がいて、僕はたいがい会社の友人といっしょで、彼が連れているのは必ず女性だった。しかも毎回違う相手で、みんなきれいで魅力的な女性だった。

その頃、彼には年上の本命の彼女がいて、その彼女はいまでいうキャビンアテンダント、当時はスチュワーデスと呼ばれていた。5年目の受験浪人生活を迎えていた彼は、いつしかその彼女の住むマンションに転がり込んでいた。

スチュワーデスの彼女に、 住居と小遣いと自由な時間を与えられた彼は、ますます受験生とはかけ離れた生活に陥って行った。

そんなうらやましい暮らしをしていた彼が、ある日突然、何が起こったのかわからないが、アルバイトをやり始めた。そのバイトは人材募集情報誌の営業マンだった。それは誰が聞いても知っているような有名な大企業だった。
彼のこれまでの人生で、営業などはまったく未経験だったのだが、バブル景気の真っ只中で、どの会社も猫の手も借りたいほど人手不足だった時代なので、とにかく元気であればいいみたいな感じで、彼が採用されてしまったのだろう。

元来、話術に長けていた彼は、あっという間に頭角を現して行った。飛び込み営業という、一般の人が一番敬遠するタイプの仕事を難なくこなしていった。その成績は新人アルバイターとしては驚異的な数字で、3か月後には月間成績でエリアナンバーワンになってしまったのだ。

仕事が面白くなった彼は、どんどんのめり込んで行き、その営業所では不動のトップ営業マンになってしまった。
当然、会社からは社員に登用したい旨のオファーがあった。
仲間もみんな「こんないい話はない、絶対社員になるべきだ」と口々に言っていた。

僕の意見は少し違っていた。確かにこの仕事は彼にとって天職かもしれない。社員になれば出世して、大企業の部長や取締役くらいにはなれるかもしれない。だけど彼は受験生なのだ。大学受験に合格するために5年もの時間を費やしてきたのだ。いまあきらめてしまったらもったいない、彼の力があれば大学に行ってからでも十分に社会で通用するはずだ。そんなことを考えていた。

結局、彼は社員にはならなかった。優秀なアルバイトとしてその仕事を続けた。彼が僕と同じ気持ちだったかどうかはわからないが、受験生であり続けることを選択したのだ。
その話を聞いて、僕はなんとな気分がよかったので、職場の友人を誘って神宮球場にプロ野球観戦に行った。外野席のいつもの場所に座ろうとしたら、そこには彼が先に座っていた。隣には初めて見るきれいな女性が座っていた。
僕は上京して初めて彼に球場に連れてきてもらった時のことを思い出していた。彼は何も変わっていなかったのがそのときにわかった。

それから5年が過ぎて僕は結婚をした。彼は相変わらず年上のスチュワーデスと暮らしていたが、彼の女性関係で常に冷戦状態で一触即発の危機だったようだ。
彼は大企業のアルバイトは3年くらい前にやめていて、その時は人材派遣業の雇われ社長になっていた。外見も仕草もすっかり貫禄がついてしまい、接待費で食事をご馳走になったりしたのだが、なんとなく以前のような気のおけない関係には戻れないような気がした。

ある日彼から携帯電話に電話がかかって来た。何やらいつもと違う様子で、いきなり「何も聞かずに30万円貸してくれないか」と言ってきた。僕は結婚したばかりで、金銭管理は妻に任せていたので「それは無理だ」と応えるしかなかった。僕は理由を聞こうとしたのだが、彼は「わかった。悪かったな」とだけ言って電話を切ってしまった。

それからしばらく彼からの連絡は途絶えてしまった。僕は気にはなっていたのだが、金を貸してあげることができない状況で、僕から彼に連絡する勇気はなかった。
仕方なく僕は、共通の友人に電話をしてみることにした。その友人も僕と同じ依頼を受けていて10万円だけ貸したとのことだった。貸すときに彼と会った友人の話によると、年上の彼女と別れることになり、いま付き合っている別の女性と出て行くために、資金が必要だったということだった。
彼はまるで昔の安っぽいドラマの中の不倫カップルが駆け落ちでもするみたいに、その女性とどこかに逃げてしまったようだ。

あれから20年以上が経ったが、僕のところには賢一からは一度も連絡はない。僕からは一度電話をかけたことがあるのだが、その携帯電話はすでに使われていない状態だった。
賢一が働いていた会社の人に聞いた話だと、どこか九州の方に行って一緒に逃げた女性としばらく暮らしていたのだが、その女性とはもう別れて、別の子連れ女性と一緒に千葉で暮らしているらしいとのことだった。

それが真実かどうかは確認するすべもないが、仮にもしそうだとしても、賢一にはいまでも受験生でいてほしいとふと思った。50歳を過ぎて大学受験をして、そして失敗して、「まあしょうがねえな、また来年がんばるか!」と、周りのことなど気にせずに一人で叫んでいる変なおじさんになっていてほしい。

そして、もし出会えることができたならば、あのときお金を貸してあげられなかった謝罪をして、けど貸さなくてよかったと思っていることを、正直に伝えたいと思う。

たぶん賢一はわかってくれるので、神宮球場の外野席に行き、あの日に戻って精一杯応援を送りたい。 二人きりで。

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2016-11-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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