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メディアグランプリ

タイムスリップした本当の話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中園 由紀子(ライティング・ゼミ)

 

私は小さいころ身体が弱く、よく入院をしていた。あれは、5歳頃だったと思う。

入院慣れしている私は、大部屋で小学生達に混ざりかわいがってもらっていた。読書、折り紙、あやとりなど、単純な遊びで時をつぶしていた。テレビ部屋になく、ゲームもパソコンもない時代。子供の私は時が長くて長くてしょうがなかったので、部屋の子と遊んだり、看護師にかまってもらうことで、どうにか入院生活を送っていた。

 

ある時期、大部屋に私と入ってきたばかりの女の子と二人だけだったことがある。女の子は点滴につながれ、心細そうにじっと寝ていた。入院慣れしている私は、臆せず彼女に話しかけた。

「ねえ名前なんていうの?」

眼はこちらを向いたが、返事はない。

「私はゆきこっていうんだ」

返事はない。

「トイレに行きたくなったらナースコール押すんだよ。わかる?」

彼女の眼はすでに、私を見ていない。せっかく遊べると思ったのに、とてもがっかりした。

 

面会時間になると、小児病棟は賑やかだ。親たちが開始時刻とともにやってくる。いくら入院に慣れているとはいえ、母が来る時間は待ち遠しかった。面会時間近くになると、時計ばかりみていた。

 

しかし、大部屋の彼女への面会は誰も来なかった。初日も次の日も次の日も。

母は彼女に気を遣い、持ってきたフルーツをあげたり、話しかけていた。言葉は少ないが徐々に打ち解けてきたが、進んで話しはしなかった。

 

彼女はベットの中でずっと、本も読まず、看護師との会話も楽しまず、私と関わろうとせず、ただ、寝ていた。病気だから仕方ないといえばそれまでだが、すでに点滴もとれ、かなり自由な状態であり、退屈する頃にもかかわらず、必要な時間以外はずっと寝ている。ベットに座るときは食事の時だけだ。

 

ある日、私は検査のため看護師に連れられて、外来へ行くことになった。その日の看護師は初めて見る人だった。私は外来に行けるだけで嬉しかった。この狭い病棟の外に出ることは、冒険に近い気持ちだった。

 

看護師とエレベーターに乗り、外来の検査室へ向かうとそこは見たこともない、茶色い場所だった。病棟は白い、しかしここは茶色、木造の部屋だった。そして、戦争で戦う兵士の格好を人がたくさん寝ていた。苦しんで寝ていた。うめき声が聞こえた。ごろごろ部屋にいた。赤い血の包帯をしているのがわかる。松葉杖を持った人が歩いていた。

 

私は怖くなり、看護師の手をぐっと握った。看護師はずんずん進んでいく。兵士たちから注目されているのがわかる。どうしようもない気持ち、どうしようもない気持ち。

 

看護師がナース室で止まり、そこにいる看護師と話を始めた。看護師の帽子には赤い十字がついていた。なんで十字がついているのかわからなかった。そして、十字の看護師は私を見ると、ポケットからサイコロキャラメルを取り出し、

「早く病気が治るといいね」と

私の手のひらに握らせた。

 

話しが終わると、私を連れて来た看護師は、またエレベーターに乗った。

 

今度着いたところは、見たことのある外来だった。普通の人がたくさん椅子に座っている、いつもの外来だ。いつもの臭いと、マイクを通し名前を呼ばれる声が聞こえる、ざわざわした外来。

看護師はまた、ずんずんと検査室へ進んだ。

 

検査を終え、エレベーターで小児病棟へ戻った私のポケットには、サイコロキャラメルがあった。

 

頭の中で、いつまでも兵士のうめき声が離れない、木造の床を歩いた感覚が足に残る。パジャマ姿の私と看護師が手をつないで、そこにいた画像がフラッシュする。キャラメルをくれた看護師の言葉が耳の中でこだまする。

 

面会に来た母に、夢中になってこの話をしたが、まったく理解してもらえなかった。十字の帽子の看護師が従軍看護師ということはわかった。キャラメルは確かに存在したので、夢の話ではない。検査も本当にした。

 

私を検査に連れて行った看護師に話を聞きたいと探したが、初めてみた看護師は臨時の人と言われた。二度と会えなかった。

 

それからしばらく、私は病院のエレベーターに乗って下の方に行くと、戦争の人のための病棟があると信じていた。小児病棟のエレベーターでしか行けない特別な場所があると思っていた。

 

大部屋の女の子はついに誰も面会に来ないまま退院することになった。私は、彼女にそのサイコロキャラメルをあげた。

「ありがとう」

と言って受け取った彼女は、初めて微笑んだ。

後から彼女は施設で暮らすことになったと聞いた。病院は、施設に行くための仮の宿だったようだ。

 

これは、かれこれ45年前の本当の話だ。

 

後から、この病院は元従軍病院だったと聞いた時、自分がエレベーターに乗って、時空を超えタイムスリップしたとわかった。もし、あの時、看護師の手を放してしまっていたら、私はこの世に戻って来られなかったかもしれない。もし、エレベーターが現実に戻らなかったら、私は行方不明になっていたのだ。そして、戦時中の世界で生きていたのかもしれない。

 

そう思うと今、ここにいることに感謝せずにはいられない。

 

エレベーターに乗って、あなたもタイムスリップするかも。

 

*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2016-11-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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