資格試験に挑んだワーママの手に残った武器
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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「では、今回弁理士試験を受験された理由は何ですか?」
「……うーん、色々ありますが、ひとつには業務に直結するからです。ただ、その資格がないと絶対仕事ができないというわけでもないので、うーん、自己啓発という側面が大きいかな」
社内報の記事のためのインタビューに答えながら、私はどちらも本当の理由ではないと感じていました。
なぜ、難関と言われる資格にチャレンジしたのか。
その動機は「自己啓発」なんて余裕のある言葉では表現できないような気がしました。
咄嗟に思い浮かんだのは、怒りとか悔しさとか支配とか、もっとドロドロした言葉でした。
そう、私にとって資格試験へのチャレンジは、自分の時間の支配権をかけた戦いだったのです。
長男を出産し、復職した私はイライラしていました。
イライラの原因は自分の時間が全くないことでした。
毎晩帰ってからはバタバタでした。
夕方は、時短を使って仕事を一足早く切り上げ、長男を保育園にお迎えに行きます。
それでも帰ってくると、18時近くになります。
1歳児だった長男は18時には飢えていました。
帰宅するやいなや、ぐずる長男を抱っこしながら朝のうちに準備しておいた夕食を温め、すぐに夕食にします。夕食後は、片付け、お風呂、寝かしつけとノンストップです。
帰ってきてすぐ夕食を食べるためには、家を出る前までには夕食の支度をすませ、あとは温めるだけという状態にしておかなければなりません。
夜型&超低血圧だった私は、子どもができるまでは出社30分前まで寝ていました。
でも、子どもができてからはそういうわけにはいきません。
朝は5時台に起きて家事と自分の身支度をするようになりました。
旦那は「長男を保育園に送り届ける」という仕事はしてくれたが、それだけでした。
夜は帰宅がおそく、ほとんど会えませんでしたし、朝は相変わらずぎりぎりまで寝ていました。
子どものことは可愛くてしかなかった私は、イライラを旦那にぶつけました。
毎日家事と育児と仕事に追われ、生きているだけで精いっぱいでした。
会社の昼休みは、自由に時間が使えない私にとってオアシスでした。
一日のうちに自由に使える時間が昼休みしかないという状況になって、昼休みはとてつもなく貴重なものになりました。
最初はネットサーフィンしたり、本を読んだりしていましたが、次第にその1時間を何か形になるものにしたい、という気持ちが芽生えてきました。
何しろ自由になるのは24時間のうちこの1時間だけなのです。
そう思った私は、以前から勉強したいと思っていた資格の勉強を始めました。
今思うと、きっと、上司から勉強しなさいと言われたらやらなかったでしょう。
宿題やりなさいと言われるとやりたくなくなる子どもとまったく同じ心理です。
要は、やらなければならないことをやらされるのではなく、自分でやりたいことを選んでやっている感覚がほしかったのです。
すると、資格の勉強をしている時間=自分がやりたいことを選択してやっている時間、になりました。
一度始めると昼休みでは時間が足りないと思うようになりました。
私は目を皿のようにして自由に使える時間を探しました。
次に発見した自分の時間は通勤時間でした。
電車の中はもちろん、1人で歩いているときも耳でずいぶん勉強できることに気づきました。
最後に着手したのは家での時間確保でした。
乳幼児ママが家で自分の時間を確保することはとても難しいです。
なぜなら、乳幼児ママは、自分の時間を確保したいという気持ちと、子どもと過ごす時間は削りたくないという矛盾した気持ちを併せ持っているからです。
子どもと過ごす時間を削らずに自分の時間を増やすためにはどうすればよいか。
その答えの一つが家事時間の圧縮です。
私はルンバ、食洗器、洗濯乾燥機と、あらゆる時短のための武器を取り入れつつ考えていました。
もっと時間を増やしたければ、子どもが寝ている時間にやるしかありません。
やるなら朝か夜です。
そんなとき、育児ブログのとある記事が、私の目に留まりました。
ワーママが書いたブログでした。
そのワーママは、夜は子供と一緒に寝てしまい、朝は4時に起きて、そこで自分の時間を取っているとのことでした。
子どもと一緒に寝てしまう作戦。
目からウロコでした。
一見、睡眠時間がシフトしただけに思えるかもしれません。
でもこの作戦のポイントはそこではありません。
子どもを寝かしつけるためだけに横になり、そこからまた起きて家事をすると、
「寝かしつけの時間」が発生します。
夜子どもと一緒に寝てしまうと、「寝かしつけの時間」に、「自分が寝入るまでの時間と自分の睡眠時間」を重ねることができるので、「寝かしつけの時間」がカットできるのです。
子どももこちらが本気で寝ようとしているのでスムーズに寝ます。
これしかない。
そんなわけで私は、夜は子どもと一緒に21時に寝て、朝4時に起きることにしました。
はじめてみると、朝時間は勉強がとてもよく進み、確保した時間以上の効果が得られました。
無謀な戦いに思えた資格試験へのチャレンジでしたが、朝時間という武器は戦局を変えました。
戦国時代、新たに日本に伝わった鉄砲は、戦いの勝敗を決する武器となりました。
私にとって朝時間は、資格試験という戦いの合否を決する鉄砲となったのです。
私は、朝時間という鉄砲を手にし、3年弱ほぼ毎日勉強しました。
途中、次男の出産を挟みました。
出産のための入院の荷造りをしていた私は、新生児用の肌着ともに、忘れずに問題集をバッグに入れました。
陣痛には波があります。
痛みがこない間は勉強できる。
そう思ったのです。
我ながらぞっとするほどの勝利への執着心です。
ここまで私を突き動かしたのは、資格の勉強をして、自分を成長させたいとか、自己啓発とか、そんな余裕のある気持ちではありませんでした。
私は自分の時間が全くないことに怒りを覚えていました。
私にとって、資格試験へのチャレンジは、自分の人生の主導権をこの手にしたいという思いで挑んだ戦いだったのです。
はたして私は弁理士試験に合格しました。
弁理士試験は理系の最難関資格といわれ、その難易度は公認会計士、税理士に並ぶとされます。
でも、私はこの戦いを通して、資格よりももっと大きな武器を手にしたと思っています。
私の手には、今もその武器が握られたままです。
朝時間です。
これは、その気になれば誰もが簡単に手にすることができる、人生の主導権を取り戻すための武器です。
長男と次男の育児に手一杯なワーママの私がライティングゼミに参加できるのは、この武器のおかげなのです。
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