メディアグランプリ

「女らしさ」を求めて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:福居ゆかり(ライティング・ゼミ)

「なあ、クラスで一番かわいいのって誰だと思う?」
男子のヒソヒソ声に、帰り支度をするフリをして何気なく聞き耳をたてる。
「やっぱ大島じゃね?」
「あー、だよなあ。あと佐藤かな」
わいわい盛り上がる男子の会話を背に、パタンとランドセルを閉める。間違っても自分の名前なんて出ないことはわかっていても、ほんのわずかでも夢見てしまうのが悲しい。
その時ちょうど、幼馴染みの姿がガラスの向こうに見え、ガラガラと引き戸が開いた。
「なおちゃん、帰ろっ」
ランドセルを掴み、逃げるように私はその場を後にした。

子どもは時に残酷だ。
何の悪気もなく、外見で人を順位づけする。
いつの頃からだろうか。私は自分が、人に「かわいい」と手放しに褒められる容姿ではないことに気がついていた。

そして同じ頃、クラスに「特別」な男の子ができた。
明るくて人気者で、女子達からも人気の子。気がついたら、いつも目で追いかけていた。
小学生の私は、その男の子に私のことを見て欲しかった。
いわゆる、初恋だった。
私が思っているのと同じように、私のことを「特別」に思ってもらうにはどうしたらいいのだろう。そう考えた時、クラスでのヒソヒソ声が頭の中に蘇った。あの子はかわいい、あの子はイマイチ。……やっぱり、男の子はきっと「かわいい」子が好きに違いない。
かわいくなければ、きっと、「特別」には選ばれないのだ。そう思った。

そうして私はその時から、少しでも「かわいい」と言われるように努力しようとした。
ティーン向けの雑誌を読み漁り、研究する。
そして気がついた。私から見て「かわいい」ことは、「女らしい」ことだった。なぜなら、私がかわいいと思うものは全て、レースがついていたりキラキラしていたりと、いわゆる女子感満載のものばかりだったからだ。
私は少しでも女らしくなろうと髪を伸ばし、眉を整え、色付きリップを塗った。
初恋は実らず、中学に進学してその男の子と離れても、しばらくすればまた別に「特別」な男の子ができた。
年齢を重ねるごとに校則などの縛りがなくなり、努力できる範囲は増えた。私は髪の色を変え、似合うメイクを研究し、流行りの服を揃えた。
その結果、小学生の頃よりは多少だが、外見を褒められる事が増えた。ゼロからのスタートなので本当に微々たるものだったが、褒められる事は嬉しかった。自分の努力の成果が出たと喜んだ。

そんなある日。
大学の友人である聡子と過ごしていると、電話が鳴った。料理中で出られなかった私は、代わりに出てもらうよう頼んだ。
「もしもしー、ゆかりだよ」
聡子がふざけてそう言うと、電話の向こうの友人は、私ではなく聡子が出たことに気づいたようだった。
「あれ、ゆかりなの?随分声が可愛くなったじゃん」
と、友人はふざけて言った。スピーカーにしてあったので、会話がこちらまで筒抜けだった。
「えー、そんなことないよー。今日はどうしたの?」
と聡子が続け、用件を聞き出していた。

私はその会話を聞いて、なんだかモヤモヤとした気持ちになりながら料理を続けた。
友人が帰った後、1人で考える。
「声が可愛くなったじゃん」
聡子の声は高くて、可愛らしい声だ。
比べて、私は地声が低い。
つまり「普段の私の声は可愛くない」、のか。
直接そう言われた訳ではない。けれど、会話を思い出すと、遠回しに「声が可愛くない」と言われたような気がした。
何気なく言われた方が、普段からそう思っていることの裏付けのようで、ショックだった。

声。
声なんて、生まれ持ったものなのだから、どうにもしようがない。
取り繕って高い声も出せなくはないけれど、地声がかなりハスキーな私はどうしても可愛らしい声にはならない。
いくら外見をがんばって飾って、髪も服も化粧も気をつけても、そんなところで「可愛くない」と言われてしまうのか。
ちくしょう、と呟いた。私は泣きたい気分だった。なんとかできるところはこんなにがんばっているのに、生まれ持ったものがいい人はそうやってやすやすと私の上を超えていく。
不公平だ、と呟きながらビールを飲む。
思った以上に苦味があるのを感じながら、昔のことを思い出していた。

高校時代に、雪穂という友人がいた。
雪穂は美人ではあったが、クールな感じの美人だったので少し近寄りがたく、最初はクラスの男子たちも遠巻きに見ていた。
そしてその頃は、もっと明るくて親しみやすい女の子達がモテていた。
しかし、高校生活が過ぎるにつれ、雪穂はものすごくモテるようになった。
男子に理由を聞くと、「ギャップが女らしいから」と言っていた。
雪穂は声がものすごく可愛らしかった。見た目のクールさとは裏腹に、話すと声がとても可愛く、可憐で、そのギャップは女子の私から見てもドキドキした。
周りの友人が言った。
「雪穂はずるいよね。男子に、雪穂の可愛いところは? って聞いたらなんて言ったと思う? 声、だってさ。美人な上に、声なんてどうにもしようがないものまで持ってるなんて、ずるい」
それを聞いても、確かになあ、と思っただけで、特に声についての損得は考えたことがなかった。

しかし、今になると思う。
女性において声が高くてかわいらしいことは、特だ。
声の高さ、可愛らしさは十分なアピールポイントになるからだ。
そして対照的に、声が低いことは女らしくなく、損なことが多かった。

生まれ持ったものを恨んでも、悲しんでもどうしようもない。不公平だと嘆いても、それはずっと私と共にあるのだ。だから、うまく付き合えるようにがんばろう。少しでも、女らしく、自分が望む姿であるように努力しよう。
小学生の私が、外見について悩んで思ったことだった。
けれど、それは努力すれば変えられる事についてであって、変えられないものはどうしたらいいのだろう。
悩んでも答えは見えず、ビールはぬるくなり、ますます苦かった。

その悩みをどうにもできないまま、私は就職した。
就職先で配属となり、挨拶をする。すると、
「君、声が聞き取りやすいね」
と、初めて声について褒められたのだった。
会社では音声サービスでの案内があり、その音声入力を社員の人が登録していた。追加分の入力があったので、私はそれを担当する事になった。
例文を読み上げて、声を登録する。自分で再生し、聞き取りやすいかどうかのチェックをする。何度か削除して録音して、を繰り返し、どうにか仕上げた。
最終チェックのため、それを聞いてもらう事になった。同僚が機械を操作して再生している間、私の心臓はドクドクとうるさいくらいだった。
「うん、大丈夫。やっぱり聞き取りやすい。ありがとう」
そう言われた時、ものすごくホッとした。
そして気がついた。
今まで、自分の声を否定していたのは誰でもない、私自身だったという事に。
人に認めてもらわなければ価値がない、なんてことはないのに、誰かに認めてもらいたかった。女らしく、かわいらしくないと自分で思ってしまう、私の声を。
もう一度、ヘッドフォンをする。録音したものを聞く。
それは自分の声ではないみたいだった。ああ、高い、かわいらしい声ではなくても、思ったよりはいい声じゃないか。と、やっと私はそう思えたのだった。

今でも私は、動画を録画するときに入る自分の声が苦手だ。
だけど、これも私の一部なのだな、と思う。綺麗な声でしょ、とは口が裂けても言えないが、いい声でしょ、とは言えるようになりたい。
息を吸って、声を出す。
生まれ持ったものなのだから、どうにもならない。
だからこそ、自分で愛してやろうじゃないか。それが、私が望んだ「女らしい」姿ではなくても。
私は一息つくと、遠くにいる子どもを呼ぶために、おーい、と声をあげた。

 

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2016-12-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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