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博多駅前に空いた、大きな「穴んぽこ」が教えてくれた事 


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:石村 英美子(ライティング・ゼミ)

その朝、騒音で目覚めた。
複数台のヘリコプターの爆音と、渋滞のクラクション、何かを叫ぶ人の声も聞こえるが、何を言っているのか迄は分からない。

時刻は8時過ぎ。いかん、寝過ごした。急がないと遅刻する。てゆうかうるさい、何事だ。寝ぼけまなこで携帯の画面をアクティブにすると、一瞬何かが書いてあった。起動してしまって消えたのでよく読めなかったが「避難」と書いてあった気がする。

不審に思ってテレビをつけると、近所が大変なことになっている事が分かった。
博多駅前の大通りが、陥没していたのだ。私の住むアパートから200〜300mの場所である。慌ててSNSをチェックすると、友人のタイムラインに注意喚起情報が並んでいる。

しかし情報収集している時間はない。急いで身支度を整え、会社へ向かう。向かいながら考えた。そういえばWi-Fi繋がらなかったな。ネットは分断しているな。水道はどうだろうか、貯水槽があるから断水でもすぐには止まらないだろう。ガスは? 寝坊したから水で顔洗ったからな。お風呂入れなかったらイヤだな。

しかしすぐ、そんな自己中心的な心配が恥ずかしくなった。

陥没した通りに接続する幹線に出ると、見渡す限りの信号機が消灯していた。その代わりに、いくつもの非常用車両の回転灯が回っている。車はびっしりと渋滞し、制服の警察官がホイッスルを鋭く鳴らして誘導している。「気をつけて渡って下さい!」歩行者を誘導する声にも緊張感があり、思わず小走りになってしまう。そのまま会社まで走った。

なんだか怖かったので、少しでも現場から遠ざかりたかった。いや、それ以前に、本当に遅刻しそうだった。

人は何かあると、他人に言いたい。職場に着くと早速、隣の席の子を捕まえた。

「何だか大変なことになってるね!」
「え? 何が?」
「博多駅前の陥没」
「陥没したの?」

何だよ知らないのかよ。ネットで情報を検索してみると、穴はもっと大きくなっていた。見慣れたコンビニの基礎部分がむき出しになっている。

「何これ、石村さんち近いんじゃない?」
「そう結構近い。あ、ここ、いつも書き物するベローチェ」
「うわ! 完全に入れないね」
「朝からヘリがうるさいから何ごと? って思って起きたらこうだよ」
「ヘリに起こされたんだね。よかったね間に合って」
「う、うん。まぁね」

そうか、ヘリの騒音がなかったら完全に寝過ごして遅刻してたな。ある意味ラッキーだったかもしれない。この時点ではそれくらいにしか思っていなかった。

しかし時間が経過するにつれ、被害の全容がわかってきた。博多駅や主要銀行が停電し、ダイヤが乱れたり業務停止になっていること。朝、携帯の画面に現れた「避難」の文言は、ガス漏れの可能性があったため発信されたものだった事も分かった。友人の中には、物理的に職場に入れず自宅待機になったとSNSで嘆く子も居た。

大変だ。みなさん大変だ。企業や市の関係各部署、てんてこ舞いだろう。隣の子にそう言うと「シン・ゴジラみたいな感じかな」と言った。ごめん、観てないからわかんない。

家に戻ると、やはりインターネットと固定電話は繋がらなかった。でも、ガス水道電気のライフラインは無事だし、下水道の使用制限地区からもわずかに外れていた。

通行止めの影響で、私のアパートの前の道路は交通量が極端に増えたし、用事があるところへ行くにも遠回りしなくてはならないが、こんな時だもの、文句を言ってはいけない。大変な人々がいるんだもの、ちらっとでも「うちの会社も通信障害で休みだったらいいのに」なんて不謹慎なことを考えた自分がさもしい人間に思えた。

ん? 待って? この感じ知ってる。前にもあった。なんだっけ。

不謹慎……そうだ不謹慎!! 分かった、地震の時だ!!

東日本大震災の時も、今年四月の熊本地震の時にも思った。
こんな時だもの。不便なくらいなんだ。必死に頑張っている人がいる。不安な夜を過ごしている人がいる。非常事態になると世間を覆うそんな空気だ。

それ自体の持つ、気遣いや優しさ、一体感は素晴らしい。協力しあって困難に対処する、それも美しい。

だけどなんだか心の底に残る異物感。

なんだろう。なんだろう。今度こそそいつを捕まえなくちゃ。この異物は間違いなく悪いものだ。性悪説を採用している私だが、なるべく善い人間になりたいと思っている。だが自分に中にいる悪を殲滅することは無理な事も分かっている。だからせめて、飼い慣らしたい。

でも、その異物が何なのか。すぐにはわからなかった。

二日ほど経って、陥没した現場の近くを通る用事があった。通常であれば、まさにあのコンビニの前を通るところだが、少し遠回りしなくてはならない。一緒に居た友人が言った。

「ちょっと見たい気もするけど、気がひける気もする」
「そうだね」
「邪魔にならないところまで行ってみようか」
「なんだよ、やじ馬かよ」

もちろん私も見たかった。むしろ私が見たかった。
22時を過ぎた博多駅前通りは、おびただしい数の投光機に照らされ、美しかった。眩しい光の中鳴り響く重機の音、キビキビと働く作業員の方々。端から見ても高い士気が感じられる。少し脇道に設置された発電機の群れは、まるで変電所が移動してきたかのようだったし、居並ぶ黒い巨大土嚢は、兵馬俑のようでさえあった。

……かっこいい!!

そう考えて、慌てて打ち消した。いくらなんでも不謹慎だ。もともと重機が好きなこともある。大勢が一つのことに打ち込んでいる姿は感動を呼ぶのも事実だ。だからって、かっこいいはないだろう。不謹慎だ。

あ! ……これか。
この時にやっと捕まえた。この数日間捉えきれなかった異物を。私の不謹慎の本当の正体を。

私は、「非日常が愉しい」のだ。大変なことになると、ワクワクするのだ。今回の陥没事故では怪我人は出ていないが、先の未曾有の災害の時でさえ、私は涙しながらも、おそらくワクワクしていたのだ。

なんてことだ。
自分の事を、もうちょっとマシな人間だと思っていたのに。気づかなければよかった。

大通りの脇道を、誘導されるがままに歩いた。脇道の地下駐輪場の階段で、作業員の方が一人、後ろ向きでコンビニ弁当を食べていた。交代で休憩を取っているのだろう。友人は「皆さんご苦労さまだね」と言った。そうだね、と答えた。振り返ると、通行できない向きの信号機が、律儀に色を変えていた。

家に戻ると、インターネットが復旧していた。事故からわずか四日で復旧するなんて思っていなかった。ありがたいことだ。

つながったネットで検索などしながら自問してみた。
私は非常時にワクワクするという不謹慎な癖があるが、それを止めることができるか。多分できない。これからも何か大きな事件や事故や災害があるたびにワクワクするのか。多分するだろう。

うねうねと考えて出した結論はこうだ。
ワクワクするものはしょうがない。だからせめて、目をそらさない。何が起きたのかを見過ごさない。人の心に寄り添うことができない不謹慎な私でも、何か出来ることだって、きっとある。偽善と呼ばれてもいい、非常時にはできる事をするんだ。偽善者上等! もともと善人じゃないんだから!!

今回、近所に空いた穴んぽこが図らずも教えてくれたのは、自分の性癖だった。

でも、分かってよかったのかも知れない。これからもし私が、良いこと(例えば寄付とかボランティアとか)をしても「いい人」の自分に酔わずに居られるから。自分の偽善のためにやっていると自覚できるから。

でも、できれば私の偽善者モードが始動しない、平穏な世の中であってほしいと、心から思う。……って、これも偽善かもしれないけど。

 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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