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先生に清廉潔白を求める世の中だから


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田裕子(ライティング・ゼミ)

高校時代、大嫌いな先生がいた。直接教わったわけではないのだけれど、私はひどく嫌っていた。何から何まで、例えば、パーマの感じも嫌いだった。もうとにかく、生理的に受け付けなかった。

原因は、あった。

それは、入学直後に耳にしたウワサだった。その先生は2度ご結婚されているとのことなのだが、その相手は、どちらも元教え子らしいのだ。教え子に手を出す!? もう、そのことが、当時の私には許せなかった。あー、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い! その1点だけで、大っ嫌いだった。

好きな先生もいた。

例えば、高1から高3まで、英語を教わった先生。小柄で、とても華奢な女性だった。ロングヘアがきれいで、出身は名門の女子大だと聞いた。ぱっちりした目がとても美しかった。

それだけで十分ステキなのだが、私が彼女に惹かれた理由はまた別にある。彼女は、とても熱心で、いつも一生懸命で、とにかくパワフルだった。授業はいつも「生徒にこのことを吸収させよう!」という熱意に満ち満ちていた。生徒が質問をすると、必ず、全力で回答していた。

誰かが英文法の質問をしたときのことは忘れられない。即答できないような難しい質問だった。どうするんだろう、と、思っていたら、「ちょっと待って」とことわった上で職員室に戻り、『前置詞大辞典』という、普通の辞書よりも大きくて、とてつもなく分厚い辞書を抱えて戻ってきたのだった。当時の私は、前置詞だけをテーマにした、そんな大きな辞書があるという事実にまず驚いた。そして、それを個人で所持し、生徒の一つの質問のためにわざわざ、それを引っ張り出して答える彼女の誠実さに感激した。

こういう先生が素敵だと思った。同じ女性だということもあり、憧れた。大人になったら、こんな風に頑張りたいと思った。彼女は私のお手本、ロールモデルだった。

正直な話、先生には皆そうあって欲しかった。私たちよりも何年も何十年も先に生まれた「人生の先輩」なのだから、立派な背中を見せていただかないと困る。頼むから、失望させないでくれ。「大人って、こんなものなのかな」と思わせないでくれ。大人になる希望を奪わないでくれ。切実にそう思っていた。

だから、こんな先生に出会うとガッカリした。

ある、公民科目の先生がいた。その先生の授業は絶望的につまらなかった。聞かせようという気が、特に感じられなかった。雰囲気としては、廃品回収車のアナウンスのテープ。のんべんだらりと続く説明は、右から左に抜けるだけでなく、ひどく眠気を誘った。主要教科ではないこともあって、皆よく寝たり、内職したりしていた。それを叱るでもなく、ただ壁に向かって話すように、授業をし続けるのだった。

一度、見たことがある。17時になる瞬間、校門から走り出ていく彼を。いそいそと門を出て行くその後ろ姿には、ほとほとげんなりした。だって、ありありと思い浮かぶのだもの。16時半にはすっかり荷物を片付けて、しょっちゅう時計を眺めながら17時を待ち構えている姿が。

別に、金八先生だとか、夜回り先生だとか、そういう熱心さを求めているわけではない。でも、そのザ・公務員という感じには、ときめけなかった。尊敬できなかった。

お給料をもらうために、乗り気でない仕事をして、帰る時間だけを楽しみにして、自分の貴重な人生の時間を切り売りしているのだと思った。そんな大人には決してなりたくないと思った。せっかく働くなら、いきいきと働きたい。死んだ魚の目をして過ごすのでなく、「楽しい!」と笑って過ごしたい。

その話をある日、クラスメイトにした。「私、あの先生みたいに無気力に毎日過ごしたくないわー」と。

そしたら、その子は意外な顔をした。

聞いてみると、その先生は、顧問を務める部活動ではキラキラしているらしい。

彼はある屋外スポーツの部活の顧問をなさっていた。その活動には熱心で、時には自ら運動着に着替え、生徒たちの練習に交じるのだそうだ。その部活に所属する彼女は、彼のことは好きだと言う。

なんと。人間には、色々な顔があるものだと思った。

その話を聞いてから、彼への見方は少し変わった。相変わらず授業はつまらなかったが、嫌う気持ちは薄れた。そして、気が付いたのは、彼がよく日焼けしているということだった。本当に部活動には熱心なのだ、と実感すると同時に、その点にそれまで全く目が向かなかった視野の狭さを反省した。

色々な顔といえば、意外な顔を暴露して、私たちを驚かせた先生もいた。

それは、ジェントルマンな数学の先生だった。ロマンス・グレーのおじさまで、ダンディーだった。子ども相手の仕事であり、だらしない格好になる先生もいる中で、その先生はいつも清潔感のあるスーツ姿だった。高校になって、数学が苦手になってしまった私も、先生の授業は嫌いではなかった。分からないことはいっぱいあったけれど、何だか好きだった。

この話をしてくれたのはたしか、先生に教わるようになってから、結構経った後だと思う。私たちが、その先生への好もしい気持ちを十分に蓄積した後だった。

先生が、ご自身の浪人時代の話をしてくれたのである。

自宅を離れて予備校の寮か何かで浪人時代を過ごされたという話だったかと思う。それは、私の住んでいた地域ではよくある話だ。田舎には名門大学を目指すための授業を受けられる予備校がなかったのだ。先生が話し始めたとき、私は、自分も迎えるかもしれない浪人生活のシミュレーションをするような気分で聞いていた。

ところが、すぐに雲行きが怪しくなった。

先生は徐々に、予備校から足が遠のいたのだという。どんどん授業に出なくなり、やがて全然行かなくなった。面倒見の良い今の予備校なら、欠席が続けば、ご実家に連絡が行きそうなものだが、先生が浪人生活を送ったのは、もっとおおらかな時代だったようだ。気が付いたときには、先生はパチンコにのめり込むようになっていた。そして、100万円ほどの借金をこさえてしまったというのだ。

親のすねをかじって予備校に通ったというのに、勉強するどころか、100万円の借金! ひどい親不孝、ひどいドラ息子である。

私たちは呆れたりツッコミを入れたりしながらも、続きが気になって仕方なかった。親にバレたら大変なことになるに違いない。19歳当時の先生はこのピンチをどう切り抜けたのだろうか。

興味津々の生徒たちに対し、ご自分でも苦笑いをしながら、秘策を教えてくださった。

大学の受験料である。

年末年始の帰省の際、深刻な顔で、
「浪人生活はとても苦しい。どうしても、今年で決着を付けたいから、受けられる限りたくさん受けたい」
と親に頼んだのだそうだ。

そして、数十校に出願すると偽ってもらった受験料で借金を返済。同時に本命の大学だけ受験して合格し、しれっと、何食わぬ顔で大学生になったのだそうだ。

これは面白かった。何てヤツだ、と思った。先生のご両親には悪いが、とても笑えた。

こんな不届きな浪人生が、その後、公務員になって、教壇に立ち、マジメな顔で数学を教えているという事実も面白かった。

「人間って、おもしれーな!」と思った。

私はこうしたエピソードを通して、先生も血の通った人間であるということを理解していったように思う。

今思えば、「受験料をちょろまかして借金を返した」というエピソードを笑えたのは、私の変化の証であったのだ。先生は清廉潔白であるべきだという潔癖症の精神に凝り固まっていたら、このエピソードも許せなかったと思う。「そんな者が教師になるべきでない!」「そんな不道徳な話を高校生に話すべきでない!」とキーキーしていただろう。

「清濁併せ呑む」というか。生徒を指導し、規則違反を叱る立場にある「先生」という人たちも、実際にはふつうの人間であり、良いところも悪いところもある。それもひっくるめて、ひとりの人間として、私たちの前にいる。そういう風に理解して付き合っていこう、と思えるようになっていたのだ。

それから十数年経って、私はむしろ、こう思うようになっている。

17時になるやいなや門を出て行ったあの日、あの先生にはいったい、どのような予定があったのだろうか?

あの、2回とも教え子と結婚した先生はいったい、どのような大恋愛を繰り広げたのだろうか?

先生の人間としての生き方に興味津々なのである。

ことわっておくと、もちろん先生は職業人であるから、頼れるプロフェッショナルであって欲しい。生徒の成長をサポートするのに十分な能力を持っていてほしいと切に思う。

でも、その最低限の要件以外は、別にうるさく言わなくても良いだろう。

授業はぜひ面白くあって欲しい。でも、たまに失敗する回があっても、それはそれで面白い。人生を賭けた恋を失った翌日なんかは、目を腫らして、ボロボロの授業をすることもあって良いのではないか。先生だって、人間だもの。

そう、先生に清廉潔白を求める世の中だから、あえて言いたい。

先生は、ただ先に生まれただけの人間だ。

そこを忘れて理想化し、期待を押し付けすぎると、先生は、先生である以前の人間としての個性を失って、ロボット化してしまうに違いない。そうした先生から得られる学びは、正しいかもしれないが、面白くない。そんな無菌培養の中で成長したって仕方がないではないか。

先生一人ひとりを、今そこにいる一人の人間と見て、ガチンコで向き合ってみてこそ、学校生活は面白く、そして意義深いものになるのだ。

 

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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
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2016-12-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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